苦労人ギャンブラー
学院が休日であるこの日も、執行班による調査は朝から行われていた。今日俺と袴田さんは、現場周辺の調査から始めたが、新しい発見は無し。
休憩も兼ね、道中で見つけたファミレスで昼食を取りつつこれからのことについて話していると、スマホのバイブレーションが。
「蓮君のスマホね。何かしら?」
「ん? メールか。もしかして、何か手がかりが見つかったのか」
期待を込めてメールを開いてみると、添付ファイルとともにこんな一文が。
”この人物について調査されたし”
添付ファイルを開いてみると、一人の人物が映っていた。パーカーを着た、俺たちと同じくらいの年の少年であろうか。
「これが何の関係があるっていうんだ……」
そう思った瞬間、今度は着信音が。
『おぉ。話……』
「何の用だ。あの写真の意味について聞きたい」
『催促すんじゃあねぇよ。今から説明する。俺の先輩、紫苑寺さんが念写の能力を持っているんだが、犯人に関することをと念じながらやったら、この写真が出てきたってわけだ』
「成程。じゃあ関係があるといっていいのか?」
『100%の保証はできん。正直言って五分五分ってとこだな。それもあってうちだとなかなか取り合えんと思うから、お前に頼んだ次第だ』
「それを聞いて快く頷けないんだが」
『頼むからそこをなんとか。頼りはお前だけなんだ。きっと重要なことだと思うんだよ』
「……少し待て」
一旦スマホをテーブルに置いてから今一度考え直してみる。
あくまで今提供された情報は、この写真のデータのみ。しかも信頼性の薄いもの故、この調査に時間を割いて収穫が有るかどうかは分かったものではない。有るのか無いのか。単純な確率でいうなら50%といったところであろうか。
「どうしたの蓮君。何かいい情報でも入ったの?」
「なんというか……」
俺はさっきの添付ファイルの写真を袴田さんに見せた。
「友人からこの人物について調べてくれないかって言われたんすけど、袴田さんはこの人について何か知っていますか?」
「知らないわねぇ。急にどうしたのー?」
「もしかしたらこの人物が事件に関係性があるんじゃないのかという話なんですが、ハッキリ言ってそうである保証がどこにもないんです。調べに行って、最悪無駄足になる可能性のほうが大きいです」
「でも私は気になるわねぇ。調べる価値はあると思うわ」
「……理由を聞いても?」
「オンナの感」
口元に指をあてて、ウインク交じりに韻を踏むように言われた。
「なんていうのもあるけど、可能性があるっていうのなら私は見逃せないわね」
「そうですか」
確率が低いとはいえ可能性があるのは事実だ。足踏み踏んでいる以上、新たな可能性に賭けてみるの悪くないかもしれない。
少し自分で考えた後、テーブルに置いたスマホを手に取り返答した。
「わかった。しゃあなしで引き受けてやる」
『助かるぜ! 持つべきはやっぱ友だな!』
「でもって、他になんか情報はないのか」
『ない。これだけだ』
「もう何も聞かん。この件はこっちで引き受けるからそっちはそっちで進めてくれ」
これ以上何もいいものを聞き出せないと思い、結局は少々呆れながら、泰牙の有無を言わせる前に通話を切った。
「で。どうするのー?」
「ひとまず調べてみることにします」
「あらぁ~そう。じゃあ聞き込みから始めましょうか」
「そうしましょう。天王寺さんと邦岡さんの班にも一応連絡入れておきます」
尚連絡してみたところ。天王寺さんたちはたまたま近くにいるという事なので、このファミレス前で落ち合うことにした。一方邦岡さん達なんだが、崎田さんも悠も電話に出なかった。取り込み中だろうか。一応メールだけ送って、後でかけなおそう。
昼食を終え外に出ると先の話の通り、別行動の天王寺さんと北島さんの班に遭遇した。
「あらぁ奇遇ね。こっちはお昼を済ませたところ」
「そうか。こちらも昼食は済ませてある。やっぱりそちらも難航しているのか」
「いかがした。迷える子羊たちよ」
「天王寺さん。北島さん。ちょいと話が」
さっきのメールの添付ファイルを開き、二人に見せた。
「この人物について何か知っていませんか」
「悪いが何も知らん」
「こ、この人は……」
「北島さん。何か知っているのか!?」
一応言っておくが今は調査の最中である。
どうしてここにいるのか。その理由もまた調査のためなのだが、そう言っても良いものなのか。なんせ今俺たちがいる場所、駅近くのゲームセンターなんだもの。
「この人物は……噂の天才ゲーマー!」
「は?」
北島さんのこの一言が発端となった。言われるがままその場にいた四人で動くことになったのだが、この言葉をそのまま鵜吞みにしてもいいものなのか。
天才ゲーマだというこの人物が、この事件にどう関わっているんだという疑問しかないのだが、北島さんはそう言うもんなんで、午後はやむなしでこの人物の調査から始めようということになった。
彼女の説明曰く、この人物は最近ここいらで話題になっているという天才ゲーマーだという。通り名はハル。あらゆるジャンルのゲームに長け、格闘ゲーム、音ゲー。あらゆる対戦において勝利を重ねており、彼を負かした者はいないという伝説もあるという。
そんでここに来た理由は、その人物がよく現れるという場所がここだという。しかも今は土曜日のお昼過ぎ。その確率は非常に高いという。しかしだ。あくまで確率が高いというだけで、確実であるという保証なんてどこにもない。あまりこういうことに裂ける時間もないので、今日遭遇できることを祈るしかない。
かといって、本来の用もなくあんまり長いこと居ようものなら周りの迷惑にもなる。張り込みをするわけにもいかない。到着した後、とりあえず中を一回りしてからどうするかを相談した。この場に四人を回すわけにもいかない。唯一この人物について何かしら知っている北島さんと、違う班である俺か袴田さんがここに残ることにしようかと話し合っていたところ、何やら向こうのほうがざわざわとしだした。
「なんだ? 何事だ」
「やっぱしこの格好でここにいるのがまずいんじゃ」
言わずもがなだが、今着ているのは執行班の制服。学院の制服や私服ではない。知らない人から見ればコスプレみたくも見えなくはないが、明らかに周りと違う格好故目立つのも無理はない。
「でも……そうでもないみたいだけどぉ~」
「あぁ。確かに」
改めて袴田さんに言われてみると、彼らの視線は俺たちの方ではなく、入り口のほうに向いていた。それは一人の人物に集まっており、その人物こそが――
「天才ゲーマー……」
「まじか」
あの写真と同じパーカーを着た人物が足を踏み入れるやいなやどよめきが広がり、彼について知る者は、敬意でも払うかのように皆が一歩、二歩と後ろに下がる。
「あの風格、間違いない!」
「そうか。なら話は早い」
天王寺さんが先頭を切ってあの人物のもとへと歩み寄る。俺たちはそれに少し遅れてついていく。
「そこのあんた」
その少年は、最初はパーカーのポケットに手を入れてやや俯きながら歩いていたが、天王寺さんに声をかけられると、誰かしら現れたことに気づいたのか前を向いた。
「……何?」
興味なさそうに少年は返答する。
「執行班の者だ。単刀直入に聞きたいことがある」
「はあ゛ぁ。あいつが取り合ってくれてよかったぜ」
「なぁ。俺そこまで信用ないのか」
「信用というか。確率の問題なんすよねぇ……」
百発百中であってください。




