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平穏に暮らしたい俺は、いつしか騒動に巻き込まれる。  作者: 夘月
CHAPTER4 怪しき瞳とココロの鏡
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ホシを探し出せ

 かれこれ金曜日。合同会議から二日が経った。俺が事件の調査にかかわってから一週間が経とうとしていた。一昨日の会議で報告のあった男の捜索をメインにこちらでも調査を進めているが、中々思うように進まないものだ。


 昨日は雪村凛香が最後に目撃されたと見られる場所周辺の調査。そして今日は、彼女の勤務しているホテルの従業員への聞き込みに出向いていたが、どちらとも有益な情報は得られなかった。収穫があるかどうかなんて、行ってみなけりゃわからないものだが、何も得られないとなると溜息が出て仕方がない。

 学院に戻ってからは各々で適宜、調査をすることになったが、俺にはもうそんな気力も沸かなかった。まだ執行班に入って二か月も経っていないであろう。慣れないもので疲れがたまって仕方がない。自販機で買ったペットボトルのお茶を時折飲んでは食堂の隅のほうでうなだれていた。



「あ゛あ゛ぁぁぁ……」


 流石にこの場で資料を広げるわけにもいかないので、作業を続けるなら応接室に行くか、自宅に帰るかの二択になる。

 でも一つ思うことがある。もうここで寝てしまいそうなくらい疲れている故、動きたくない。

 しかし今の時刻はもう六時を回ろうかというところであった。ここで寝るわけにもいかないし、ましてはずっとここにいるわけにもいかない。要するにここから動かなければならない。


「はあ゛ぁぁ……」


 やれやれだぜ。濁った溜息をついて顔を起こした瞬間――



「あ゛っづう゛ぅ!!」


 俺の視界をふさぐように何かが顔にあたった。しかも熱いし!? なんだよいじめか?! 罰ゲームか!?


「あ。生き返った」

「起きた」

「希愛と……真琴か。てか勝手に殺すな」

「なんかうなだれてるからさ。心配だったの」

「ふつうに肩叩くなり声かけるなりしてくれりゃいいだけの話だろ。その右手に持ってるやつ、タオルか。わざわざそんなもん使わなくったっていいだろ」

「目覚ましにちょうどいいかと」


 熱かったしおそらく蒸しタオルだろう。何でそんなもん持ってるんだ。


「やり方ってもんがあるだろ」

「はいはい。以後気を付けますよ。それでどうしたの?こんなとこで」

「そうそう。なんからしくないっていうか」

「今日の外回り終わって休んでたんだ。どうにも疲れがたまってんのかな。執行班の仕事のほうが今結構忙しいんだ。昨日も今日も、調査に行ってきたところでな」

「ふぅーん。大変なのね」

「あぁ」

「ホントにお疲れのようで。ほれ」


 真琴はカバンの中をごそごそとまさぐり始める。そして俺に、青い布で包まれたものを俺に差し出した。


「差し入れ。あれこれ動いておなか減ってるでしょう」

「いいのか!?」


 真琴の返答を待つことなく、包みを奪うように貰って開けてみると、容器の中に真っ白なおにぎりが二つ入っていた。


「ありがたい」


 真琴に感謝し、おにぎりを1つ手にとってがむしゃらに頬張った。程よい塩加減で、疲れも少しであるが吹っ飛んでいきそうだ。

 小っちゃい頃だったか。多分八歳くらいの時だと思うんだが、真琴が俺におにぎり作ってきてくれたっけか。


「そういや昔こんなことあったな。真琴がこうしておにぎりくれた事があったの」

「そういえばそんなこともあったわね。たしかあの時、塩入れすぎてしまったなーっていう記憶があった気もする……」

「気もするってか事実だよ。物凄くとまではいわないがけっこうしょっぱかったのは覚えている」

「物凄くもけっこうも、大して変わらないじゃないの!」

「まぁまぁ。そん時は正直にそんなこと言えるわけないだろ。せっかく作ってくれたもんにケチなんか付けられないっての」

「それが気遣いには思えないのは、私の気のせいかしら」

「そういうことにしてください」


 真琴と話しながらおにぎりを食べていたが、気が付けば無くなっていた。


「ふぅ。ごちそうさま」

「お粗末様です。そんで、あんたこれからどうするの?」

「もう帰ることにするよ。時間も遅いし、疲れて仕方がないんだ。明日もなんだかんだで調査に向かうことになってるからさ」

「そっか。じゃあ帰ろうか」




 その後は久しぶりに三人で帰ることになった。執行班の任務とかで、俺だけ帰る時間がずれていたのがしょっちゅうだったので、なんだか新鮮であった。


「こうして帰るのは久しぶりだねー」

「かもね。そういや執行班のほうはどうなの? 順調?」

「んん……。新しい情報こそ、この間入ったが、そのあとが手詰まりって感じなんだ」

「大変なのね」

「そう……かもな」


 疲れているのもあって、歩くのもなんだかつらく感じる。しかしそこは何とかこらえている。


「それにしても…なんか変わったね、あんた」

「そ、そうか?」

「変わったっていうよりかは戻ったかなって感じ。あの時の何でも真っ直ぐだったあんたに」

「なんだ。ガキに戻ったってか?」

「そんな意味じゃない。ただ……ちょっと安心してる。またこういう蓮の姿が見られるっていうのが」

「そうか」


 なんだかんだ話しながら歩いていたらあっという間に十五分経っていたようであった。家に着いていた。


「じゃあまた学院で。さっさと寝なさいよ。あんたとはいえ身体のほうが持たないわよ」

「言われなくてもそのつもりだよ。もう眠くて仕方ねぇんだ。」

「じゃあ今日はお風呂先に譲ったげる」

「そりゃどうも。じゃあな真琴」

「ばいばーい。真琴姉」


 夕飯を済ませて風呂に入った後。そのまま俺は自分の身体をベットに委ね、夢も見ないくらい深い眠りについた。





 某所、とある暗い部屋の中。パソコンから発せられる光だけが明かりとなったその部屋で、熱心に画面に食いつくように作業をする人物がいた。その画面には、何人かの女性の写真が写っていた。

「……」

 マウスで画面をスクロールさせ、一人の女性の写真のところで手がピタッと止まる。紅い髪の学生であった。

「決まりだ」


 男がそうつぶやいた時、鍵の開く音がすると一人の女性が入ってきた。


「あんたってやつは、何がしたいんだい」

「お前のやりたいようにやれって言ったのはそっちじゃあないのか。好きにやらせろ」

「……そうかい勝手にしな。じゃ。お邪魔虫だろうから私は失せることにするよ」


 それだけ言って女性は溜息一つついてから、部屋を後にした。



「気まぐれとはいえ、選ぶ奴を間違えた気もするよ。あんな野郎に話しかけるんじゃなかったよ。かと言ってあれを取り上げる訳にもいかないってのがなぁ……」


 愚痴をこぼしつつ怒り交じりに夜道を歩いているようであったが、途中で立ち寄ったコンビニを出て以降は、少しばかし顔がほころんでいた。


「だが。この日本ってとこは便利でいいな。向こうと違って暢気に過ごせるし、こんな時間でも飯が買えるなんてな。飛び出して来て苦労するかとは思ったが、おかげで野垂れ死なずには済みそうだ」

「手がかりが見つからない……」

「気を楽にしよう崎田さん。焦りは禁物だって、邦岡さんも言ってたし」

「そうだ。まずは落ち着いて整理しようか」

「それにしてもこの人の名前、どっかで見た感じもしなくもない」

「多分気のせいだと思うよ」


 邦岡、崎田、草薙。絢瀬愛乃担当班。

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