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瞳に映るもの

「黒宮君。少し話があるのだけれど、いいかな」

「はぁ。それは構いませんが」

「ありがとう。場所を変えてもいいかな?」

「ご自由に」



 その女子生徒についていくように、俺は彼女の後ろを歩く。

 あの紅い髪、ポニーテール。なんだか既視感があるのは気のせいだろうか。




 少女に連れられてきたのは学院の屋上であった。他に人のいる様子は見受けられない。



「さてと、話なんだけど……」



 少女の言葉をスマホの着信音が遮った。確認すると俺のスマホで、相手は真琴であった。



「悪い俺のスマホだ。少し待ってくれないか?」

「いいよ」



 許可をもらい、俺は彼女と距離をとってから応答する。


「俺だ」

『あぁ蓮。せっかくだし希愛ちゃんと三人でお昼とでも思ったんだけど……すぐに校門まで来れる?』

「あぁ…」



 正直に、クラスの女の子に呼ばれているから無理そうだ。と言っていいものなのか。別段隠す必要もないのだが、そう説明することをなぜか拒んだ。


「悪い。新しくできた友人と食事に行こうかって話になってな。すまない」



 適当な理由で見繕うことにした。まぁばれやしないだろう。



『そう。わかった。じゃあね』





 その言葉で通話が切れた。それを確認して、俺はスマホをズボンのポケットにしまって再び少女のもとに。



「おまたせ」

「さてと、今度こそ……」



 何を言われるのかと思い少々身構えている。わざわざ人気のないところに呼び出すあたり、気になって仕方ない。編入早々、告白なんてことはまずないだろう。


 そう思って身構えていたところにやってきた言葉は――――



「昨日はありがとうね。黒宮君」


 彼女の口から出たのは、お礼の一言だった。



「何のことだ?」

「とぼけちゃってー。昨日街で暴徒を抑えたのは黒宮君じゃないのー。ちゃんと覚えてるんだよ、君の顔」

「えぇと……」



 どっかで見たことあるような。という疑心ではなく、あっあの時か。という確信が。

 下手な言い逃れはできないだろう。むしろなおさらことが面倒になりそうだ。少し悩んだ後、観念して口を開いた。




「あぁそうだ。あの後逃げるような真似をして悪かった。俺にもいろいろあってな」

「やっぱり。昨日の君すごかったよー」

「そりゃどうも。それで、ただ俺に礼をいうために呼んだんじゃないですよね?」

「勘が鋭いんだね君は」

「そうでなきゃ、わざわざこんな人気のないところには呼ばないだろ」

「成程ねぇ。昨日のこと他の人に聞かれたくないってのもあるんだけど、重要な話がしたかったの。それじゃあ本題……の前に。私のこと紹介してなかったね。名乗られたからにはこちらも名乗るのが礼儀だからね」



 一回咳払いしてから、彼女はこう名乗った。



「私は崎田紅葉(さきたもみじ) 。よろしくね黒宮君」


「よろしく。催促するようですが、本題って何ですか。崎田さん?」

「うん。昨日のことで思ったんだけど……あなた執行班に興味はない?」

「執行班……?」

「あぁ、いきなりこんなこと言っても混乱するだけだよね。ごめんごめん」



 崎田さんから執行班について、簡単に説明される。



 執行班。きょとんとした口調で返してしまったが、全く知らないというわけではない。

 事前にこの学院の資料に目を通したときに、この組織の存在を知った。今になって思えば、その紹介がされているページの写真に彼女に似た(というよりもおそらく本人であろう)人物がいたような気もする。


 学院内でもその実力を認められた生徒による、生徒会に並ぶ権限を持った組織だそうだ。


 そしてこの組織の存在意義としてミソとなるのが、治安活動をしているという点にある。能力が生活に浸透しつつある今日で、その問題も少なくはない。その解決に協力しているのが執行班なのだ。


 関わる案件が能力絡みというのもあって、メンバーのほとんどは能力者によって組織されている。組織の立場というのもあって、メンバーである生徒は学校内でも一目置かれているらしい。



 といった一通りの説明を受けた後、改めて勧誘された。




「とまぁそんなところかな。どうかなぁ黒宮君」

「というか、どうしていきなりそんな話を俺に?」



 突然の勧誘に、困惑しているのも事実だ。



「昨日の黒宮君見ていたらねー、絶対活躍できるだろうなぁって思ったんだ」



 崎田さんは俺がこの組織に向いているのではないかと思って勧誘している。

 だがしかし、俺の心持は複雑であった。参加するということは、少なからずいざこざにかかわる可能性があるということだ。それを嫌う今の俺にとって快く承諾できないものであった。




「悪いが、俺はそういうことには向いてないと思う」

「えっ!? どうして? 君なら絶対力になれると思うんだよ」

「昨日こそああいうことになったが、俺はもともとそういう質じゃないんだ。あの時は勝手に体が動いただけだ」

「でも……」



 彼女の言葉を遮るように、俺は言葉を続ける。



「評価してくれたことはもちろん嬉しい。でも正直、繰り返しになるが俺はこういうことには向いていない。それにこういうのはしっかりと考えてからにして欲しいんだ。崎田さんだけの見解じゃなくてさ」

「それは……うぅ……」


 お誘いしてくれたところ悪いが、俺はそういうこととは無縁でありたい。だから断ろうとした時、彼女がこう言ってきた。



「口ではそう言ってるけど、私はあの時の君が本当の君だと思ってるの。あの時の目がそう語ってるなーって」

「……」



 その言葉と、彼女の瞳で俺は少し考えさせられた。でも奇妙な感じは不思議としない。そして返答を考える前に口が開いていた。



「そうか。……でもすぐには決められない。少し時間が欲しい。一日待ってくれないか。最終的な返答がYESにしてもNOにしても、しっかりと自分でも考えてから決めたい」



 俺の言葉で、崎田さんはまた少し考えてから返答してくれた。



「わかった。明日の放課後またここに来て。よい返答を待ってるよ」

「それじゃ」


 そう言い残して俺は屋上を後にした。




 黒宮蓮との会合を終えた崎田紅葉は、学院内のとある部屋に。そこには特別会議室の文字が。部屋に入ると、一人の男子生徒が奥の机で書類の山に向かっていた。



「崎田じゃないか。今日は非番じゃなかったのか」

「そうなんだけど……なんかね」

「そうか、まぁ気の済むまでゆっくりしていくといい」

「天王寺さんは書類の整理ですか。お疲れ様です。手伝いましょうか?」

「ありがとう。といっても量も多くないし、ちょうど終わったところだ」

「そうですか」



 しばらく無言になった後、崎田はこう切り出した。



「天王寺さん」

「なんだ?」

「黒宮蓮の能力を見込んで、うちに来ないかと提案したんですが……」

「成程。報告を聞いて興味深そうなやつだと思ったが、まさかうちの編入生だったとは…。彼の返答は?」

「一日時間が欲しいと。返答はひとまず保留になりました」

「わかった。ところで崎田、この後予定は空いているか?」

「大丈夫ですが、なんでしょうか?」

「ならちょうどいい。このあと邦岡と会うことになっていてな。三人で昼食でも取りながら、彼のことについて詳しく教えてほしい」

「わかりました」





 結局俺は一人で帰っていた。その道中で後悔していた。何故キッパリと断らなかったのかと。


「素直に断るべきだったんだろうが……。何故だろうな」


 崎田紅葉に持ちかけられた話。学院の執行班に入らないかという提案。それが、生徒にとっての憧れであり、誇りであることは十分理解している。自分の今の心境もあって断ろうともした。


 でもできなかった。彼女の言葉が、瞳が俺に何かを思い起こさせた。数年前に俺が見たものにどことなく似ていた。もしかすれば、こんな自分を改められるのではないのかとさえ考えてしまっていた。



  悩みつつ歩いていた俺は、気付かぬうちにとある喫茶店の前に辿り着いていた。その看板には英語でフォルテの文字が。

「電話してた時、周りに全然人の声しなかった気がする」

「気のせいじゃない?」

「だといいけど」


ほぼほぼ勘づかれてる?

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