正体不明の神隠し
黒宮蓮。様々な事情があって祖父母の実家に引っ越すことになり、今年の四月から兼城学院に編入することとなった。できることなら静かな学院生活を送りたいものだったが、その後いろいろあってどういうわけか、学院の治安組織である執行班に加入することになった。
編入前日に当学院の執行班である崎田紅葉を救出したことが事の始まりだ。そのあとなんだかんでで班長と手合わせし、実力を認められたことで執行班に入った。
今更こんなことを言ってしまってはいけないが、俺は他人との面倒ごとなんかは嫌いだ。最終的に加入するといったのは自分だが、大半は誘われたからになる。もちろん俺には拒否権もあった。しかしそれを放棄して執行班に入る道を俺は選んだ。そうなった理由について、今になっても俺にもはっきりとは分からない。でもそのおかげで自分を変えることができたのは事実だ。逃げていた自分と向き合うことができたというのもまた事実だ。
執行班ではいろいろなことを経験させてもらったし、いろいろなことを学ばせてもらった。そして今日も、俺たちのもとに新たな任務が舞い込んでくる。
この日、土曜日の補習を終えてスマホを見るとメッセージ通知が入っており、確認してみると差出人は泰牙であった。
”直接会って話したいことがある。これから会えないか”
「話したいことか。なんだろう」
何かもったいぶるような内容のメールであったが、あれこれ深読みするのも面倒だし、ともかく聞いてみないことにはわからないだろう。ひとまずあいつに会う前に連絡を入れようと思い、画面を変えて電話をかける。十二時半を過ぎているので、あいつも多分電話には出るだろう。現にこのメッセージが送られてきた時刻から五分と経っていない。
「俺だ」
『おぉ。あのメッセージ、見たのか』
「話したいことってのは何だ?」
『向こうでおいおい話す。俺の学校の近くのコンビニまで来てくれないか?』
「わかった。一時半頃で大丈夫か?」
『問題ない。歩道橋とクリーニング店の見えるコンビニだ』
「ご丁寧にどうも」
電話を切って、俺は一度自宅に戻ることにした。流石に歩いていくには遠いので、家にあるバイクをとりに行くためだ。
一度家に戻った後、私服に着替えて最低限の荷物を持ってから、バイクにまたがって泰牙の言っていたコンビニへと向かう。
「ここで、多分間違いないな」
コンビニから見て左手側に、歩道橋とクリーニング店があることを確認する。
俺が提案した時刻よりも十五分ほど早めに到着し、パンをいくつかとフライヤーのチキンを買って食べながら待っていると、時間通りに制服を着た泰牙がやって来た。
「悪いな。お休み中に急に呼び出して」
「気にするな。それに午前中は補習があった」
「だったら何でお前は私服なんだよ。直接来てもいいだろうに」
「こっから学院は遠いから、バイクとりにいったん家に帰ったんだよ」
「マジで!? お前そんなもん持ってるの!?」
「あぁ。そこに止めてある青いのがそうだけど。後一応、これ免許な」
「おぉー。お前いつの間に」
「興味とかあったし、十六になってすぐに春休みとか利用してとったんだ」
「ほぉー。いいもんだねぇー。今度乗せてくれよ。すぐとったってんならもう一年は経ってんだろ。二人乗りできんだろ?」
「まぁできるが。現に何度か妹乗せてってるし」
「羨ましい野郎だ」
「……脱線しちまったがバイクの話はこのくらいにして。要件は何だ?」
「はっはっは。わりぃわりぃ」
紙袋に残っていたチキンの食べかけを一気にほおばって飲み込んだ。空になった紙袋を左手に持っているビニール袋に突っ込んでから泰牙の話を聞く。
「話したいことは大まかに二つ。一つは執行班に関してだ」
「執行班の任務か。どういう内容なんだ」
「聞いたことないか? ここ近辺で、女性が相次いで行方不明になっている連続失踪事件」
「あー。ニュースでそう言う事件があったっていうのは知っている。ただそれっきりだ」
「そうか。今うちの執行班が調査している案件だ。ここ最近、忽然と謎の失踪を遂げているんだ。前触れもなく突然に。俺等がこれまで聞いた中で被害者は四人。全員女性だ」
「いつ頃からだ? 被害が出たのは」
「最初の被害者、渡辺美鈴が行方不明となったのが一週間前だ」
「結構最近だな」
「その後、絢瀬愛乃、松浦菜々香、山科京子が相次いで姿を消した。これが被害者の写真だ」
泰牙は四枚の写真を俺に見せる。見た感じばらつきはありそうだ。高校生に主婦。こっちは見た感じ……大学生だろうか。
「若い女性が狙われているのか」
「そんなところだな。そしてそれだけじゃない。写真をよく見てくれないか」
「写真を?」
泰牙にいわれて、俺は改めて四人の女性の写真に目を通す。若い女性である以外の共通点なんて――
と思っていたが俺は四人のある一点、髪型に目をつけた。
「彼女たち、全員ポニーテールなのか」
「その通りだ。それが現段階での被害者の共通点だ」
「何が言いたいんだ。犯人はポニーテールフェチだとでも言いたいのか?」
「理由、動機は知らんがそんなこと言いに来たんじゃない。仮にポニーテールの女性が狙われているとしてだ。俺は崎田さんのことが不安でままならないんだよおい!」
あいつは俺の両肩に思い切り両手を乗せる。ちょっと痛いんだが。
「お、落ち着け泰牙」
「これが落ち着けるか?! 崎田さんのあの美しいポニーテール。お前の言うフェチだとして、犯人が食いつかないわけないだろ!」
まぁ泰牙が言ってることもわからんでもない。崎田さんの普段の髪型だってポニーテールだ。あれもまた人を魅了させる要素の一つなのかもしれない。
「……言ってることてんでめちゃくちゃな気もするが、お前がそう仮定するなら崎田さんが狙われるかもしれないということでいいのか」
「そういうこった!無論崎田さんの他にも狙われる可能性のある人物をこちらでリストアップしているところだ」
「そうか」
「俺は崎田さんを守ってやりたい。だが、いくら同じ執行班とは言え、俺は他校の生徒。近くにいるのは難しい」
「まぁそりゃあ。最悪ストーカー扱いだぞ」
「だからこそ友人として頼みたい。崎田さんを守ってやってくれ!」
「それだけ。じゃないだろ。崎田さんに限らず他の人たちも守ってやる。じゃないのか」
「もちろんだ」
「だったらその荒い息をどうにかしろ。……まぁわかった。こっちはこっちで何とかしよう」
「流石だ! そう言ってくれると思ってたよ」
「他に何か情報はないのか。些細なことでも構わない」
「もちろんだ。元よりそのために呼んだんだ」
「というか今更だが、勝手にこういう情報流していいのか?」
「ちゃんと情報提供の許可は下りている。それに近々そっちに伺うかもしれないから、説明するのが前倒しになっただけだ」
「俺個人に限定されてるがな」
事件の概要について、俺が聞いたことを簡単にまとめておこう。現在までの被害者は四人。いずれも十代後半から二十代の若い女性で、ポニーテールという髪型が共通点だ。皆前触れもなく、街中で忽然と行方をくらませているそうだ。
次に各被害者の詳細について。この事件の最初の被害者である渡辺美鈴は、実家のある長野から地元の大学に進学し、理工学を学んでいる21歳。絢瀬愛乃、松浦菜々香は地元の月陵高校に通う三年生。同じ高校ではあるが、交友関係はない。そして四人目の山科京子は信用金庫に勤める27歳。既婚者であり、もうすぐ二歳になる娘さんがいるそうだ。
この四人に接点があるのかという話になるが、絢瀬愛乃と松浦菜々香が同じ高校に通っているという以外には、現時点での調査では判明していないとのことだ。
犯人についての詳細はともかく、犯行目的は言わずもがな現段階では不明。被害者に一つの接点がない以上、愉快犯の犯行だというのが、山水の執行班の見解だそうだ。無論今日も事件の早期解決に向け、調査に熱が入っているところだそう。
「わかった。この件はうちの執行班でも取り上げることにするよ。調査に携われるかはまだわからないが」
「頼む」
「ところで泰牙。要件二つあるって言ったが、二つ目は何だ」
「そうだった。二つ目だが、今度は友人として頼みたいことがある」
「なんだ。改まって」
「昼食代貸して」
「……」
そう言った後、あいつの腹の虫が元気なさそうに鳴った。
「母さんが忙しいってもんで今日は弁当なくて、おまけに財布を家に忘れてな……」
「返すのは次会った時で構わない」
「助かるよ……」
俺はあいつに千円札を一枚手渡した。
「そこの君。聞きたいことがある」
「班長さんが俺に用ですか?」
「黒宮を見てないか?」
「……もう帰りましたが」
くどい。




