草薙悠の憧れ
「面白かったねー蓮」
「あぁ。通してみればいいもんだった。作画もかなり気合入ってるって感じだったしな。でも最後のあれはちょっとなぁ。って思ってさ」
「そうかなぁ。僕はいい演出だと思うけど」
「まぁ感想は人それぞれだからな。あれこれ言わないでおくよ」
気づけば百分はあっという間に経っていた。二人で歩きながら、映画の感想を話し合っていた。受付のところまで戻ってきたところで、この後のことを相談していた。
「ところでこの後どうするんだ」
「それなんだけど。一つ寄りたいところがあるんだけどいいかな?」
「別にいいぜ。時間がやばいってわけでもないし、もともとフリーだったからな」
「おいここって……」
草薙に連れられて二人がやってきた場所は、エスカレーターで降りて先程までいた場所の一つ下の階。飲食店が集まっている階層。そのうちの一つ。
「パンケーキ……」
パンケーキをメインに扱うカフェであった。
「テレビで見て一回行ってみたいと思ってさー。ささ、早く並ぼう!」
黒宮の有無を言わさず、草薙は彼の手を引っ張り、受付の紙に必要事項を書いて列について待つ。見ればかなり並んでいるようであった。
「結構並んでんなおい。俺こういう待つのってじれったいから好きじゃねぇんだよなー」
「そういうこと言わないでよー。テレビや雑誌で紹介されてっていうのもそうなんだけど、オープンする前から結構注目集めていたみたいでね。それだけ価値があるってことで」
「それはいいんだけどさ。こういうところって男二人で来るようなとことはまた違うような気がするんだよな……。どっちかって言うとさぁ、女性が来るような場所だと俺は思うんだが……」
見れば一目でわかることなんだが店内のお客、並んでいる人の殆ど、八割くらいは女性だ。店のこと考えれば容易に想像つくが。
「いやいやそんなことはないって。確かに女性の割合は多いけどさぁ、カップルって線もそうだしこの前男子高校生が並んでいたのを見たことがあるしさぁ。それに最近はスイーツとか甘いもの好きな男性だって珍しいもんじゃあないんだって。だからそういうのは関係ないの」
「そ、そういうもんかねぇ。いや、それにしたってねぇ……」
黒宮はハッとしたのか、視線をやや下して自分の右隣に立っている友人のほうに顔を向けた。
成程。彼の今のこういう外見だと、知らない人から見ればカップルに見えなくもないだろう。そう黒宮は考えていた。
「やっぱりなんか失礼なこと考えてない?」
「気のせい気のせい」
「ふぅーん」
「ま、待ち時間も退屈だから、その間にさっきの続きでも聞くことにするわ」
草薙はジトッとした目で黒宮のほうを見ていたが、大して彼はそう考えていることを見透かされないように適当にごまかすのであった。
「やっと順番まわってきたか。なんか、話聞いてるだけでも疲れてきた……」
三十分程待っていると、ようやく順番が回ってきた。ずっと受け身で草薙の話を聞いていた黒宮は結構やつれていた。
「そっかー。まだいろいろと話したいことはあるんだけど、とりあえず入ろっか。続きはその時で」
「あー。わりぃが話題変えようぜ」
ひとまず店内に入ってテーブル席に着いた。草薙はフルーツの沢山のったパンケーキを、黒宮は一番シンプルなものを注文し、黒宮のまた別の注文通りに違う話題で話をしつつパンケーキが運ばれてくるのを待っていた。
「そういや悠が執行班になったのって、そういうのも関係してんのか? ヒーロー好きとかってのが」
「あー。確かに今考えてみるとそういうのもあるかもしれないなー。自分の能力がーっていうのもあるんだけど、小さい頃にそういうテレビの中のヒーローに憧れていた。っていうのもあるかな。そんな大規模、大それたことなんかじゃないけど少しでもそんな存在に近づけるんじゃないかなって思ってね」
「憧れか。まぁ悠らしいって感じだな」
「って子供っぽいか。へへへ……」
「別にそんなことは思っちゃいないさ。夢があるってことでいいじゃねぇか。少なくとも俺なんかよりわさ」
「どういうこと?」
「何というかなー。将来これやりたいとかそういうのなかったんだよなー。父さんは能力の研究者してたんだけど、俺はそういうのはガラじゃあないような気がしてなー。勉強嫌いってわけじゃないんだけどなんか違うような気がしてな。俺スポーツとか身体動かすことのほうが好きだからさー」
「へー。だったらインストラクターとかトレーナーなんかはどう?」
「あー、それも有りか。まぁじっくり考えてみるよ。そういう悠は将来の夢とかあるのか。まさかヒーローになるなんて幼稚園児じみたことは考えてないよな」
「流石に馬鹿にしてないかなぁ蓮は」
「すまねぇ、冗談だ」
起こっているのか頬を膨らませていた。当人が女子扱いを好ましく思っていないのはわかっているんだが、まずはそういうとこから変えるべきなんじゃあないだろうか。
「ところでどういうところが好きになったんだ」
「まぁあの頃の考えだから、単純にかっこいいー。って感じだけど」
「まぁそうなるか……」
「あとはああいうの見ていてバイク乗ってみたいっていうのあったなー。でも父さんに止められちゃったんだけどね」
「バイクかぁー。乗りたきゃ乗るか?」
「え、いいの!? じゃあ帰りに……」
グイッと体を黒宮のほうに近づける。間にテーブルという障壁がなければ互いの身体が接触してもおかしくないくらいに。
「でも今日は無理だ。ヘルメット俺の分しかないし」
「えぇー。いけずー」
「ヒーローが警察沙汰になりたいのか?」
「嫌です……」
流石にその一言が効いたのか、伸ばしていた身体を元に戻した。
「また機会は設けてやるからさ、そん時な」
「お待たせしました」
七、八分ばかりか話をしていると、注文した品が運ばれてきた。甘い香りが漂ってくる。
「ごゆっくりどうぞ」
ウェイトレスの女性がテーブルを離れていくと、草薙は待っていたと言わんばかりに籠に入っていたナイフとフォークを取り出すと、パンケーキを一口大にカットして、一緒に盛られていたフルーツのうちの苺とともにほおばった。一口目からとても柔らかなほぐれた表情をしていた。それを飲み込むと、すぐさま二口目を食べようとナイフを動かす。
「そんな慌てなくたっていいだろ。ゆっくり食えばいいだろ、逃げやしないんだからさ」
「美味しいからこそだって! 生地がふわふわで、フルーツとの相性とも抜群でさ……。ほら、蓮も早く食べたら!」
「もうリポーターじゃねぇか、そう急かすなっての」
草薙の勢いに促されるがままに黒宮もナイフとフォークに手を伸ばし、パンケーキを適当な大きさに切り分けてから、かけらの一つを口に運んだ。
「おっ、確かに美味い。評判になるのもわかるわ」
「そうだよねぇー。あぁー、美味しい!」
「って食うの速いなおい?!」
気づけば彼の皿の半分がもう白くなっていた。対して黒宮は、まだ四分の一が減ったかというところだ。
「美味しいから手が動くのは当然のことー」
「そう……」
個人の趣味や好みにどうこういうつもりはないが、普段の言動と行動が一致してないんじゃないかという思考が、パンケーキを黙々と食べる黒宮の中にはあった。
一応説明された場所の近くまでは来てみたが。具体的な場所がわかんねぇんだが!
日も変わってしばらく経った頃。雲一つない青空で出かけるにはもってこいの日だ。以前悠に頼まれていた約束のこともあるので、ひとまずは悠と合流するべくこうしてバイクを走らせていたのはいいんだが。
学院までいつもは自転車で三十分程とは言っていたので、そこから時間を考え、余裕を持って家を出てきた。ひとまずその地名の場所まで辿り着いたのはいいが、後は彼の自宅がどこにあるのかがわからん。
一応位置情報はメールでもらっているが、その場所に辿り着けない。
【黒宮蓮】場所がわからん。
近くにあったコンビニにバイクを止めて、その文面だけ彼に送って返事を待っていると、すぐに返答が帰ってきた。
【草薙悠】家の近くに本屋があるからそこで会おう。説明不足でごめん!
末尾に可愛らしい絵文字のついたメールが返ってきた。なんからしい。というか性格が出ているというか。悠っぽいというか……。
まぁそれはそれでいいか。とにかく悠に言われた書店を地図アプリで探してみると、ちょうど俺がいる場所の近く、歩いてでも十分行ける距離に一つ見つかった。おそらくその場所だろうと決心し、バイクを手押ししてその場所に向かっていった。
ようやくたどり着いた本屋で休んでいると、向こうのほうから悠が息を切らせて走ってきた。
「お待たせー。説明不足でごめーん!」
「いや良いんだって。むしろあれで場所分からなかったの俺のほうだしさ」
「それで、それが蓮のバイク?」
「といっても中古品だけどな。新品買おうものなら十何万かはくだらない」
「そういうものなのかー」
「そういうもんだ。それでどこか行きたいところとかあるのか?そういうこと何にも決めてなかったが」
「まぁ適当に走るのもいいんじゃないの?」
そういって俺が持っていたヘルメットを手に取ると、そのままスポッと目の前でそれをかぶった。
「そうか。なら学院とは反対の方向に行こうか」
そのまま目的地を決めるわけでもなく、俺はただひたすらあてもなくバイクを走らせていった。その後ろにはヘルメットかぶった悠がいる。
「少しは気分だけでも味わえてるか?」
「もちろん。そう思うと免許ほしいって思うよー」
「そうか」
そういう憧れがあるっていうのも、彼もまた男子なんだなって思って……
「ところで蓮。やっぱりなんか失礼なこと考えてない?」
「あー、気のせいキノセイ」
正直に思っていることについては口に出さないでおこうと決めた。
「映画も面白かったですね!」
「そうねー」
「まさに狂乱の戦というもの……」
観てきました。




