草薙悠の提案
草薙悠。兼城学院執行班所属の二年。銃器を生成する能力を持ち、それらを自在に操れる。射撃の腕前は経験による賜物で、自他ともに認めるほどである。ハンドガン、ライフル、ランチャー。あらゆる銃を使いこなし、早撃ち、長距離狙撃、乱れ撃ち。彼にかかればお手の物だ。
腕前に関しては色々とすごいという話は聞いている。というより一緒に任務にあたっているわけだから十分わかっているわけだけど。普段の訓練でも正確無比な早撃ちしてるっていうし、この前は六百メートルの狙撃をしたんだとかで。他にもいろいろあったと思うんだけど、ここで語るとキリがなさそうだし割愛しましょう。そのうちいくらでも見られると思うからね。
普段の任務の時、よく使うのがハンドガン。種類は確か、コルトガバメントとかって言ってたっけ。悠君曰く、小回りきいて二丁にしても扱いやすいんだとか。とは言うんだけど、大体の理由はそうでないといけないから。というべきなんでしょうか。
あの子見た目に似合わずというか、どっちかと言えばランチャーとかバズーカみたいな火力の有るものが好きみたいでね。しかもそれの使用はいつも麗奈に止められるっていうもんだから、いろいろとやきもきしてるんでしょうねぇ。
まぁ……当然のことっちゃ当然なんだけどね。ギャグマンガじゃあるまいし、場合によっちゃ任務中お相手はおろか、私達が無事じゃ済まないのよねぇ。
彼について語るうえでもう一つ欠かせないことといえば、その容姿である。身長162と男子高校生としては小柄で、何といっても女子とも言われてもおかしくないような中性的な顔たちをしている。
それなりの格好させて女子高に放り込んでもばれないんじゃないかって私は思うのだけれど。それくらいそういう見た目してるんだもの。それ故学院の女子だけではなく、一部男子生徒からも人気があるようで。人気者ってつらいわね。
本人はそのあたりに関してはいろいろと複雑な心持ではある。
一応言っておくが、草薙悠は男子である。嘘だろお前。というなコメントもあれば、だがそれがいい。というコメントも色々とあるようで。
あの子中々こういうことに乗ってくれなくてねぇ。私としては一度メイド服を――――
一発の軽い銃声とともに、コメントはここで途切れている。
今日僕は蓮と一緒に執行班の見回りをしていた。以前の不正取引をしていた組織の任務が終わってからは、それなりに落ち着いていた。
「にしても最近は平和なもんにも思うぜ」
「いつも忙しいってわけじゃないからね。他校の執行班なんかと協議して、いろいろと割り振りしてるんだってさ。仕事が偏らないようにってさ」
「ほぉーん。他に何かあれば他校の執行班が担当するってわけか」
「そんなところ。この前みたいに、場合によっては複数の執行班が連携して任務にあたることもあるんだよ。まぁ僕としては、こうしてずっと見回りだけで済むならいいもんだけどね」
「そりゃ俺も同感だぜ。下手な面倒ごとなんかにゃ関わりたくねぇしさ」
「って。執行班のメンバーがこんなこと言っちゃダメなんだけどね」
「言えてるな。そんなこと言えるあれじゃあないんだがな」
二人で本音を語りながら、街を歩いていた。なんにしても穏やかでありたいのは蓮も同じなようだ。
というよりもこれまでの彼の様子を見る感じ、こういう物騒なこと明らか嫌ってるような感じだったけど、だったら何で執行班に入ったんだろう。崎田さんにスカウトされたって蓮は言ってたけど、彼女の押しに負けたんだろうか。それとも他に理由でもあるのかな。
まぁ無理に聞くのも野暮ってもんだしやめとくか。
「草薙悠。ただいま戻りました」
「黒宮蓮。同じく戻りました」
「「お疲れ様ー」」
見回りから戻った僕達は、応接室にいた崎田さんと袴田さんに今日のことを報告。といってもこれといったこともなかったので、特に言うこともなかった。
終わった後は応接室で適当にうだうだと、気ままに過ごしていた。今日のお勤め自体は終わったんだが、こうして執行班のメンバーと過ごす時間もまた僕にとっては楽しいものだ。
執行班の見回りを終えた僕は、一緒に回っていた蓮にこんな誘いを持ち掛けた。友人同士でならよくある一言であろう。
「ねぇ蓮。今度の土曜日って、時間ある?」
「ん? 今度か」
蓮は胸ポケットから手帳を取り出すと、予定を確認していた。それが終わって手帳をしまう。
「執行班もないし、特に私用があるわけでもないな」
「ならよかった」
僕は、蓮がそう答えてくれたのを聞いてから、制服のポケットから二枚の紙切れを取り出した。
「お父さんから映画のチケットもらってね。二枚あるからよかったらどうかなーって思ってさ。」
「何の映画だ?」
蓮がこっちに近づいてくると、チケットの印刷された方の面をみていた。
「プライム・イノベーションの劇場版じゃないか! これすごい気になっていたんだ!」
「ホント?!」
プライム・イノベーションは、ヴァーチャル空間をメインに繰り広げられるアクションアニメだ。原作はネットにアップされていた小説。四年前に書籍版が刊行され、現在は十二巻まで出版されている。二年程前にアニメ化されてから注目を集めた。そして先週からオリジナルストーリーの劇場版が公開された。
「ただ原作まだ全部読んでなくて、七巻ぐらいまでなんだけど。大丈夫か?」
「問題ない。問題ない! そのあたりまで読んでいるなら問題ないと思うよ」
「ならよかった。じゃあ行こうかな。」
「じゃあ今週の土曜日。13時30分から上映だから、その三十分前に駅に集合で」
「そこの映画館ってことだな。オッケー」
「何の話をしてるのー?」
「面白いことー?」
向こうのほうにいた崎田さんと袴田さんがこちらにやってきた。
「今度の休みに映画見に行こうかって話になってな」
「何見に行くの」
「プライム・イノベーションの劇場版だよ」
「あーあれかぁー。そのアニメずっと気になってたんだけど、私まだ原作の一巻しか読んでない……」
「面白いわよぉー。私原作本、最新刊まで持ってるから貸したげようか?」
「いいんですか!? それなら是非! 読み終わったら映画の方、見に行きませんか?」
「あらー、いいわよ。李梨華ちゃんも誘おうかしら。あの子も興味あると思うから」
崎田さんの目が輝いていた。しばしは立ち話をしていたが、そのあとはソファーに移動してティーカップを片手にプライム・イノベーションに関する話で盛り上がっていた。
「どうしたんだ銃なんか構えて」
「どこぞの誰かさんに悪い噂されてる気がした」
「そう……」
聞かないでおこう。




