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少女の誘い

 小さい頃の俺は純粋無垢で、正義感のある子だとよく言われた。好奇心で動き、何か問題事が起これば仲裁に出ようとした。困っている人がいれば、進んで助けを起こそうとした。

 時々度が過ぎて、売られた喧嘩を買ってしまうこともあって、怒られることもしばしばあった。


 しかし、思春期を迎えた頃に俺の心境は変わった。余計なことはするものではないと段々言われるようにもなったし、なぜかそういう行動に抵抗というか、相手はこう考えてるのではないかと考えるようになってしまった。



 そして俺のなかで一つの考えが浮かんだ。面倒なことになるのであれば、初めから関わらなければよいと。下手に口を出すものではないと。

 出しゃばりさえしなければ咎めを向けられることはないのではないかと思うようになった。


 誰かと話をしていて対立になりそうになった時、俺の中には選択肢が浮かぶ。逃げるか、相手に賛同するか。その二つだ。

 そうして面倒なことを避けていた。そうして自分の考えを抑え込んで生きていた。俺としてはそれでいい。




 但し一つだけ変わらないものはあった。困っている人が、助けを求める人がいると、首を突っ込んでしまう。単なる人助けであれば何ら問題はないのだが、相手とのトラブルもとい暴力沙汰ともなると、事が終わるたびに後悔してしまいたくなる。それでもそういう人を見て見ぬふりするのは、俺の良心が許さなかった。


 そしてその状況に直面する度に思うのだ。

 どうすることが俺にとって正しい選択になるのかと。そしてその答えが出る前に、俺の身体は勝手に動くのだ。





 翌日。目覚ましのアラームで、俺の意識が徐々に覚醒する。がしかし、どうにもまだ眠いというかだるい。昨日のこともあってか、どうにもこうにもぐっすりと眠れなかった。


 それでも今日から新学期。初日から遅刻というわけにはいかない。けだるい体を何とか動かし、一階のリビングへと向かう。




「おはよーおにーちゃーん」

「あぁ、おはよう希愛」

「どうしたの? なんか顔が変」

「そうか?なんかよく眠れなかっただけで、体調は問題ない」

「ふーん。ところでどう?新しい制服はー」



 妹がその場でくるんと回りながら、俺に制服姿を見せつけてくる。



「あぁ、よく似合ってるよ」

「お兄ちゃんもねー」

「前の高校は学ランだったが、ブレザーも悪くないかもな」



 新しい制服に袖を通すのも、また新鮮なものだ。そうこう話していると、リビングにおじいちゃんが入ってきた。



「おやおや、朝から元気そうじゃないか」

「あっ、おはよーおじいちゃん」

「おはよう。いやはや孫の制服姿を見られるとはなぁ」

「昨日から希愛も嬉しそうにしてましたからねぇ。さぁ朝ごはんにしましょう」



 三人盛り上がっていたところで、おばあちゃんもご飯の乗ったお盆をもってリビングに現れた。そして家族四人で朝食を摂った。



 桜の映える並木道を通って兼城学院に向かう。今日は入学式。よく晴れた絶好の日であった。



「ほれ撮るぞー」

「二人とも笑ってー」



 校門で、おばあちゃんがカメラをもって写真を撮ろうとする。



「蓮ー。表情硬いぞーい」

「あ、あーい」



 俺が何とか表情を作ったところでパシャリと音が聞こえた。



「みせてみせてー」


 希愛がおばあちゃんの方へと駆け寄ると、持っているカメラをのぞき込む。



「二人共よく撮れたわよ」

「さて、じゃあわしらは先に行くからな」

「じゃあまた後でねー。お兄ちゃん」



 写真を撮り終えた後は、別れて各々の向かう先に。祖父母は一足先に入学式の会場となる講堂に。妹は新しいクラスに、そして俺は簡単な打ち合わせの為に職員室へと。




 賑わう校門から、校舎内をしばらく歩いたところに職員室があった。ノックをしてから室内に入り、近くにいた男性教員に尋ねる。



「すみません。本日より編入することとなった黒宮なんですが……。石浦先生はいらっしゃいますか?」

「あぁ、君が話にあった。ついてきなさい」




 男性教員に連れられて少し歩いたところで女性の先生のいるもとに。



「石浦先生。彼が編入生の黒宮君です」


 男性教員の言葉で机に座る女性教員がこちらを向いた。俺を案内してくれた男性教員は、その人と言葉を交わすことなく、向こうの方に行ってしまった。



「すみません。本来私が直接お呼びするべきでしたね。初めまして、今年度貴方のクラスの担任になる石浦です。慣れないこともあるでしょうが、何かあれば私にでもクラスメイトにでも、遠慮せずに聞いてください」

「ありがとうございます」

「さてと、時間ですね。ついてきてください」

「わかりました」





 二年のとあるクラス。友人同士談笑する者、読書にふける者。それぞれが思い思いの時間を過ごしている。



「おはよー」


 柏葉真琴が、教室にいる紅い髪の少女に声をかける。少女も返答するように挨拶を交わす。


「おはよー、真琴ちゃん」

「いやー、紅葉と同じクラスになれるなんて嬉しいよー」

「私も」



 彼女はカバンを持ったまま、紅葉という名の女子生徒と話をする。



「昨日も仕事だったんだって? 大変だね」

「そうでもないよ、もう慣れちゃった」

「そ、そうなの……」

「ところでさー、クラス割の名簿に覚えのない名前があってね。転入生かな?」


 紅葉がそう聞くと、真琴は淡々と答える。


「黒宮蓮でしょ? そいつ私の知り合い」

「えっ!? そうなの! でもどうして……」


「小さい頃はこっちに住んでたんだよ。数年前から都心郊外のほうに住んでたんだけど、色々訳あってこっちに戻ってきたの」

「へー。どんな人なの?」

「んー、いろいろまわりくどいとこはあるけど、正義感は強いかな。小さい頃よく私を守ってくれたんだ」

「そっかー。さしずめその黒宮君は真琴ちゃんにとってのヒーローって感じ?」


 そう言うと、真琴の頬はほんのりと赤くなる。


「そ、そんなんじゃないわよ。そんなもん、世間を知らないガキの頃の話だし、最近なんて何かと危ないことに勝手に首突っ込んでは自己嫌悪になってるなんて、馬鹿みたいな話みたいだし」


「そ、そうなんだ……。でもなんか真琴ちゃんの顔赤いよー」

「気のせい!」

「……っと先生来たみたい」




 その言葉と同時に石浦先生が教室に入る。教壇の机の前に立って、生徒の方に向かう。



「皆さんおはようございます。今日から新学年。気を引き締めて今年度、まずは入学式に臨んでください。その前に、もうあちらこちらで噂にもなっているようですが、皆さんに転入生を紹介したいと思います。黒宮さん、入ってきてください」



 石浦先生の言葉を聞いてから俺はネクタイを直し、一呼吸おいてから教室の扉を開けて、見知らぬ顔ばかりの教室の教壇に立つ。

 生徒の視線と慣れない場というのもあって緊張する。先生が白いチョークで俺の名前を書き終えると、口を開いた。



「では、自己紹介をお願いします。黒宮さん」



 もう一呼吸おいてから俺は自己紹介を始めた。



「本日からこの学院でお世話になります。黒宮蓮です。よろしくお願いします」


 シンプルでお堅い感じもするが、下手に考え込んで色々変なこと喋るよりかはいいだろう。



「ありがとうございます。彼もまだ慣れないことも多いので、皆さん積極的に手助けしてあげてください。黒宮さんの席はあちらの最後列の席になります」



 そう言われてから、先生の指した座席に向かう。その途中で同じ列に真琴がいるのに気付き、緊張も和らいだ。


 この日は入学式のみで、終わった後は直ぐに放課後となった。俺の周りには真琴をはじめ、クラスメイトが集まってくる。色々と話をして質問攻めにも合う。案外楽しいものだ。

 一段落したところで、一人の女子生徒が声をかけてきた。

「お兄ちゃんって普段から表情硬い気がする」

「気の所為だろ」

「写真写り悪いし」

「判断材料そこ……?」


写真に写るのは好きではない

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