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熱狂する者共

 整列して一礼した後、野球部員が守備に就く。先攻はこちら、選抜チーム側である。



『一番、レフト坂口幸助。全国大会出場経験の有る単距離走者です』

「こういうアナウンスまでするのか」

「エキシビションだからね。さっきの事前インタビューなんかの情報も含まれるらしいって」


『野球部先発は六組の吉川宗吾。次期キャプテン候補だそうですが、松井先生の評価はいかがなものでしょうか?』

『彼はコントロールが安定してますからね。こちらも安心してマウンドに送り出せます』

『なるほど。今日の投球に期待です』



 吉川の第一球。坂口の胸元近くにストレートを投じ、ストライク。


『初球はストレートからですね。いいところに入ったんじゃないですか?』

『えぇ。球に勢いもあります』



その後坂口は三球目を打ち上げてファーストフライ。続く西野は二球目のストレートを引っかけてファーストゴロ。


『三番、セカンド草薙悠。執行班所属の天才ガンナー登場です。崎田さん。一ついいですか?』

『なんですか?』

『彼、一時期性別詐称疑惑があったそうなんですが……』


 バッターボックスに向かう、放送聞いてた悠がそれを聞いてずっこける。転びはしてないが。


『それは、彼にもいろいろあると思うのでお控え願えると』



「な。言っただろ。入学当初そういうこと言われてたんだよ」

「……」

「その見た目で男女問わずちやほやされてたらしい。秋に執行班になって、一層注目されたんだと」

「そうかい」

「終いには、こんなにかわいい子が女の子なわけないだろ! いい加減にしろ! って言いだしたやつが、いたとかいないとか……って」

「もう救いようがねぇ……」


 そんな奴がここにいたのかと思うと呆れて言葉が出ない。だがしかし以前、俺にとっての執行班初仕事の日。彼に言われたことを思い出した。袴田さんに女性服着せられそうになったって。

 脳内で、彼が此処の女子制服来ているのを想像してみたが、恐ろしいぐらい似合ってしまうのではないかという結論に至ってしまい混乱している。



 悠は相手の三球目を打ち返し塁に出たが、続く荒川が強い当たりを打つも飛距離がやや足りず相手の守備範囲内。センターフライに倒れて無得点。

 チームの攻撃を終え、一塁から戻ってきた悠が俺と将星のほうに向かってくる。


「蓮」

「わかってる。何も聞かねぇ」

「助かるよ……」


 ここは黙っておくのが優しさというものだろう。彼の形相もなかなか見ないほどに怖く見えた。




『一回裏、選抜チームの先発は一組の高木亮太。ソフトボール経験有りとのことで、現在は友人らとバンドを組んでいるそうです』

「あいつ、バンドなんてしてたのか」

「あぁ。今年の文化祭でも、ライブを開催するそうだぜ」

「へぇー」


 野球部が最初から本領を発揮。先頭はセカンドフライであったが、その後三連打であっという間に一点を取った。

 二回は五番の小鳥遊から。三人で攻撃が終わり無得点。その裏は六組の弓下が登板し、一失点で留めた。




 そして三回。この回の先頭は将星からだ。


『八番、キャッチャー扇将星。試合前のインタビューでは、とにかく活躍してやる。と気合十分の様子でした』

「彼らしいね」

「あぁ」



 流石に選ばれたとだけあって、有言実行しようとしていた。三遊間を抜けるヒットを放って出塁。続く二人は凡退したが、西野がヒットで繋いでツーアウト一塁三塁。


 選抜チームにとって初めてのチャンス。打席には三番の悠が立つ。野球部ピッチャーは変わらず吉川。実況にも一層熱が入る。


『さぁー、選抜チーム初のチャンス。草薙選手はこのチャンスを生かせるのかぁ~!?』



 注目の打席。初球は低めの球を、二球目は外の球を見送ってボール。その後空振りとファールでカウント2-2。その後の五球目は、内角高めの球を振るかに見えたが、直前でバットを止めた。判定はボール。


『彼、目がいいですね。見送る球とそうでない球と、うまく見極めています』

『そりゃもちろんですよ松井先生! 草薙君の動体視力はすごいなんてもんじゃないです! 彼の射撃にだって活かされているんです』

『なるほど射撃ですか。しかしそれだけでなく、見送る決断をできる勇気もなかなかのものです』



 そして六球目。高めの球を彼は振らなかった。フォアボールで一塁に歩き満塁とした。チャンスは続き、四番の荒川に打席が回る。


『まだまだチャンス! ここでラグビーで培った豪快なパワーが魅力の選抜チームの四番、荒川剛が打席に立ちます!』



 そして荒川が豪快な一振りでレフトに運び、二点を挙げた。その裏、野球部も反撃といわんばかりにうちの投手を攻め立て、取られた分しっかりと取り返した。


 四回。野球部の二番手、浜本が登板してあっという間にツーアウト。打席には先程好機のきっかけを作った扇が。意気込んでバッターボックスに向かったが、フルスイングの末伸びが足りずレフトフライ。

 あがった歓声も、ジェットコースターの最頂点から降下するように下がっていった。


 結局両チームとも大きな動きはなかった。野球部のほうはヒットもあったがもう一押しが足りない。双方下位打線だった故か。

 四回終わって5対4。ハンデを含め、選抜チームの1点リードで最終回を迎えた。



 でもって最終回。こちらは誰でもいいので塁に出て、草薙からのクリーンナップに打席を回したいところであったが、その思いもむなしく浜本の前に三人で抑えられた。

 先頭の長谷川が内野安打で塁に出たのはいいが、次の坂口がショートの橋場のファインプレーに阻まれてゲッツーを食らってしまった。その後西野は三振に倒れた次第だ。



 そしてその裏、いよいよ出番がやってきた。選抜チームで唯一、ここまでずっとベンチに留まり一度もフィールドに出なかった選手。


『いよいよと言うべきでしょうか! マウンドには、今学院で最も注目を集めるこの男。一組の黒宮蓮が満を持しての登場でーす!』



 ギャラリーから拍手と歓声が上がる。注目されるってのはあまり好きではないが、こういうのは悪くないのではと感じる。なんかヤジが混ざっている気がするんだが、気にしたら負けだと思う。



『崎田さん。彼について、一つお伺いしてよろしいですか?』

『はい! なんでしょう?』

『今学院内では、彼との関係についてあれやこれやと話が上がっているそうなんですが』

『そ、そうなんですか~。ははは……』

『本人の口から聴きたいのですが、どうなんですか!?』

『そ、そんな大それたものじゃないですよぉ……』


『先程黒宮選手に抱き着いてきたという目撃証言があるのですが?』

『あ、あれは無我夢中というか、ちょっとした勢いってもので……』

『くっくっく、知りたいか其方らよ?』

『北島さん! ぜひともお聞かせください!』

『彼らは正しく、約束の地へと導かれし運命きょ……むぐぅ!』


 崎田が北島の口を右手でふさぎ、続きを言わせまいとする。


『と、とにかく。彼にはこの回。頑張ってもらいたいです!』

「……」



 放送席が騒がしい。というか崎田さんのみならず、俺まで恥ずかしいのだが。

「いいではないか紅葉」

「よくないよくない!」

「(あれだけやって何もないほうが異常なのよ……)」


 火種は自分。

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