エキシビション
優勝の興奮冷めやらぬまま、選抜選手による野球部とのエキシビションマッチが始まろうとしていた。わらわらと、ギャラリーが集まってくる。
『みなさーん! お待たせしましたー! 只今より、選ばれし生徒たちと我が学院の野球部対抗によるエキシビションマッチを開催いたしまーす。このエキシビションマッチでは、実況と解説も交えてお送りいたしまーす。実況は放送部所属、四組の宮村亜紀が担当しまーす』
「中々気合入ってるんだな」
「毎年こんなもんだぜ」
「そうそう」
グラウンドの隅のほうで、俺は将星と悠の三人であれやこれやと話していた。
『解説には、兼城学院野球部顧問兼監督の松井先生をお招きしておりまーす』
『よろしくお願いします』
『それでは皆さんお待ちかねの~、野球部に相対する選抜メンバーを発表いたしまーす!』
宮村のアナウンスで代表者の生徒の名が読み上げられる。執行班である俺と悠。今大会四本のホームランを打った六組の荒川。その他活躍した生徒の名が読み上げられた。将星も選ばれたのは驚きであった。でも思い返してみれば、あいつ結構ヒット打ってたし、選ばれるのも納得だろうか。俺等のクラスからは高木も選ばれた。
『……以上となりまーす。松井先生。気になる生徒はいますか?』
『そうですね、個人的には六組の荒川君ですね。あれだけのパワーバッティングができるのはうちでもなかなかいませんからねぇ』
『なるほどー』
『あとは、執行班の二人にも注目しています。特に黒宮君ですか、未経験者と思えないような投げっぷりでしたよ。持ち前の技量をいかんなく発揮してほしいです』
『ありがとうございます。ギャラリーの皆さまー。試合開始まで今一度お待ちくださーい』
三塁側のベンチで選ばれた生徒達、計十五名が準備をしつつ各々話をしていた。
「おっしゃあ! 選ばれたぜ!」
「おめっとさん」
「いやーよかったよかった」
「頑張ろうねー将星」
「おぉ!」
「俺はベンチ待機か。ってかまた最終回まで引き延ばされそうなんだが」
「ありそうだね」
「そうなるなら、俺はベンチからゆっくりと見ているよ」
「高みの見物かよ」
「他に応援以外ですることないだろ」
「「確かに」」
「黒宮蓮」
三人で話していると、俺のことを呼ぶ野太い声がした。そして俺の前に現れたのは――――――
「あんたは……」
ついさっき勝負した荒川であった。こうしてみると結構でかい。やっぱり190は確実に超えていそうだ。
「先程はいい勝負ができた。さすが執行班に選ばれた男だ。今は同志として共に戦おう」
「えぇ。こ、こちらこそ」
荒川が右手を差し出し、握手を要求してきたのでそれに応じた。
「では失礼」
荒川が向こうに行ったのを見てから悠にひっそりと話しかける。
「あいつ……結構迫力あんな」
「なんてったってラグビー部。身体も一回り大きいからね」
「なんだー、ビビってんのか?」
「そんなんじゃない」
再び三人で話していると、今度は聞き覚えのある声がした。
「黒宮さーん。草薙さーん」
「……はぁ。あんたか。懲りないのな」
いつぞやの問題児、榊千尋であった。
「そういうこと言わないでください。今回は真面目なお仕事ですから」
「今回は。ってなんだ」
「と、ともかく。新聞部の取材でーす。ご協力お願いしまーす」
ちらりと後ろのほうに目をやると、他の新聞部員が他の選手に取材をしているところであった。
「わかった。手短に頼む」
「そのつもりであります」
実際、試合前の簡単な意気込みを聞かれただけで、すぐに終わった。
「ありがとうございます。では頑張ってください」
「へいへい」
野球部のベンチのほうへと走っていく榊を見て、悠と二人でため息ついて話していた。
「あれから関係は取り持ったのかな?」
「だと思いたい。また何かあればその時は袴田さんを呼ぶ」
「おっ、おう……」
「変なこと言わなきゃいいんだが。あいつ」
「袴田さんに五寸釘どころか十寸くらいは打ち込まれてると思うし多分大丈夫だと…思いたい」
「不安しかねぇ」
俺らの話を聞いて、将星はきょとんとしていた。
「袴田さんがどうかしたのか? あの人って普段のほほーんとしてるようなイメージで、執行班とは言え恐れられるような感じって全然ないんだが」
「そういうイメージでいい。そのままで」
「でもお前らの言ってること聞く限り、何か有りそうなんだが。榊さんにとって、袴田さんが抑止力というか脅威になってるって感じで」
「将星、お前は知らなくていい」
「うんうん。知らないほうが身のためだと思う」
「そうそう」
「いや、そう言われるとなおさら気になるんだが」
「世の中知らないほうが幸せなことだってある。そういうことだ」
「いやしかしだな……」
「そういうことだよ、将星」
「おう……」
将星は気になって仕方がなかったが、彼女の素性を知る二人はそれを全力で拒んだ。そうなれば、彼の袴田さんに対するイメージは大きく変わるだろう。少なくともよくないほうに。
『皆さんお待たせしましたー! エキシビションマッチ、間もなく開始でーす!』
アナウンスで歓声が上がる。そしてある一言で、その歓声はさらに大きくなる。
『今回特別ゲストとして執行班のお二人、崎田紅葉さんと北島李梨華さんを放送席にお招きしておりまーす』
『よろしくお願いしまーす』
『我、ここに降臨!』
『崎田さん。この試合についてどう見ますか?』
『そうだねー。すごくワクワクするような試合になればなーって思います。皆さん頑張ってくださーい!!
『ありがとうございます。北島さんはどうですかー?』
『ふっ。まさしくラグナロクの幕開け。よきに楽しもう』
『あ、ありがとうございまーす……』
『李梨華ちゃんも楽しみにしてる。だそうでーす』
『そ、そうですか。あはは……』
「崎田さん。相変わらず今日も元気なようだね」
「そのようで」
「北島さんは……いつも通りで」
「だな」
『今一度、今回の試合について説明しまーす。基本的なルールはこれまで同様。選抜チーム側に3点のハンデが与えられています。尚、選抜チーム側の投手は毎回交代となります。松井先生、試合前に一言お願いします』
『出場する生徒の皆さん。存分に楽しんでください』
『ありがとうございます。それでは長らくお待たせしました!これよりエキシビションマッチを開催しまーす。出場する生徒は整列してくださーい』
選抜チームスタメン
1 左 坂口
2 遊 西野
3 二 草薙
4 三 荒川
5 右 小鳥遊
6 指 前田
7 一 中村
8 捕 扇
9 中 長谷川
P 高木
野球部スタメン
1 中 辻
2 二 佐々木
3 右 寺井
4 一 荻原
5 三 難波
6 指 桜居
7 遊 橋場
8 左 楠田
9 捕 百瀬
P 吉川
注目の一戦が、いよいよ始まる。
「感じるぞ!栄気がみなぎっていくのが!」
「おぉ~、李梨華ちゃんも気合十分だねー」
「そ、そうですかー」
「(なんでわかるんだろう……)」
慣れだよ、慣れ。




