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ブレイクタイム

 予選リーグの二戦目を8対2の快勝で終え、意気揚々としていた。これで決勝トーナメント進出は確定。


「なぁ蓮。次の試合まで時間もあるし女子の方でも見に行かないか?」

「それは構わないが。特別やることもないし」

「おし! 決まりだ。早く行こう」



 でもって女子のバレーボールの会場となっている体育館へと向かった。ちょうど俺等のクラスの女子が試合をしている最中であった。


「なんだこのギャラリーの差」

「そらそうよ。なんせ崎田さん見たさで男女構わず集まってんだから」

「そういうもんかよ」


 体育館の二面のコートで試合が行われていたのだが、明らかにギャラリーの数が違った。

 俺等のクラス、崎田さんのいる入り口側のコートに、少なく見積もっても観衆の七割は集まっていた。


 適当に近くの壁にもたれかかりながら試合を見ていた時、ずっと気にかかっていたことがあったので将星に聞くことにした。



「なぁ。聞いておきたいことがあるんだが」

「なんだ」

「そもそも崎田さんって、どうしてここまで注目されるようになったんだ」

「話すとちょい長くなるがいいか?」

「構わない。この際はっきりとさせたい」

「おっけー」


 バレーの試合を観戦しながら将星の話を聞いた。


「前にも話したかもしれんが、崎田さんは学院内外でもそれはそれは有名な存在。」

「あぁ。それは聞いたな」

「彼女は入学してすぐに執行班になった。彼女の高い実力を小松先生が認めたからだそうだ」

「それは……俺と似たようなものか」

「かもな。本来は十月くらいに新しい執行班のメンバーが一年、二年から数名選ばれる。お前や崎田さんのような例は、学院創設当初から見ても異例のことだ」

「だろうな」


「それだけでも学院内では大きな話題になったし、同時に多くのファンができたそうだ。その子は強いだけでない。可愛くて優しいってさ。誰にだって声かけてくれるってさ」

「そういうことなら好印象だろうな」

「でもって彼女の名がより広く知れ渡るようになったのは、去年の秋に起こったある事件がきっかけだ」

「ある事件?」

「五人組の男が人質を盾に立て籠もったって事件だ」

「そういや全国ニュースにもなってたな。そんな話題」


 うっすらとだが大きな話題にもなっていたのでそんな事件があったというのは覚えている。

 別の場所で強盗を働いた五人組の男がその現場近くの建物に逃げ込み、その場にいた老若男女計7人を人質にして籠城した。というような事件だったか。

 二時間程の攻防の末、五人組は全員身柄を確保されたそうだ。


「でもってその案件で活躍したのが崎田さんだ。なんせ五人組のうち四人を抑えたのが崎田さんなんだぜ」

「マジかよ」

「マジだ。炎を巧みに操る可憐な美少女。なんて言われて一目見ようなんて人も少なからずいた」

「お、おう……」


「その活躍は瞬く間に知れ渡った。それだけじゃない。その後うちの執行班に取材がきた。崎田さんの人当たりの良さなんかはこの時に。あの時活躍したその人は、あの時を思わせないような雰囲気もまたいい。って一気に広まってったよ」

「それが今に至るってか」


「そういうこった。今年の新入生にもそれ目当てってやつも少なくないらしい」

「そういや見たな。お前にこの前紹介した南原って一年もその一人だ」

「あぁ、あの子もそうなのか」

「そんなとこだ」


「ともかくお前気をつけろよ。あの事実が知れてみろ。目の敵じゃ済まねぇかもしれねぇぞ」

「そんなこと気にして学院生活したくないんだが」

「実際学院で積極的に話しかけてもらえる男子ってだけでかなりのもんだぞ。執行班っていうのがかろうじてブレーキになってるんじゃないか?」

「かもしれん。というか俺が思うに、崎田さんってこう……おおらかで天然だからよぉ。あれこれ話さないかって少々不安でな。今からでも口止めしておこうか……」


「ってある意味もう遅い気もするが」

「え?」



 俺は将星が指さしているほうを向いてみた。その先には、試合を終えてこちらに笑顔で駆け寄ってくる崎田さんがいた。


「あっ、黒宮くーん。もしかして試合見てたの?」

「まぁ途中からだがな。色々話してたら終わってたみたいだ」

「そっかぁ~。男子のほうはどう?」

「ここまで二勝。予選突破は確定だ」


「おぉ、おめでとー! うちは今一勝一敗でねー。次の試合次第かなー」

「そ、そうか。頑張れよ」

「どうしたの黒宮君? なんか震えてる。武者震い?」

「え? ま、まぁ……」


 断じてそんなものじゃない。ある意味恐怖している。今この状況を大勢の奴に見られているんだぞ! 平常心でいられるわけねぇだろ!? 男子の俺がこうして話しているだけでこれかよ!


「そんなとこだ。次も勝とうぜ蓮」

「あ、あぁそうだな。そろそろ準備もあるし行くわ」

「頑張ってねー!」


 右手を大きく振って見送ってくれる。俺はそそくさ逃げるように体育館を後にした。一刻も早く視線の矢の雨から逃げ出したいと思った。



 なんだかんだで俺に探りを入れている奴は少なくない。執行班になって以降はともかく、例の校内新聞が出回って以降、いい意味でも悪い意味でも注目されている。何とも肩身が狭いと感じてしまう。




 体育館を出ていく幼馴染の背中を見て、真琴はある質問をする。


「紅葉」

「なーに? 真琴ちゃん」

「あんた、やけに蓮にぐいぐい来てるけどどうしてそこまで?」

「同じ執行班の仲間だしー。それに……」

「「崎田さーん!!」」


 その言葉を遮るように叫びながらこちらに向かう男子二人組が。


「東原君に須田君。どうしたの?」

「単刀直入に聞きたいことがあります」

「なんだーい?」 


 息を整えてから意を決して須田がこう切り出す。


「あいつとの、黒宮蓮との出会いの経緯について教えてください!!」

「ってお前!? そういうこと聞くのかよ?」

「それしかねぇだろ? 崎田さんがどうしてあれほど黒宮の奴に注目してるのか、原点をたどるのが手っ取り早いだろ!」

「でも崎田さんがそんな事軽々しく言うと思うかぁ!? おい!」

「うん。いいよー」

「ほらな。やっぱしその質問は無茶だって……」


「「いいんすか!?」」

「いいんです」

「そ、それならぜひ!」



 崎田さんが嬉しそうにあの日、黒宮蓮と出会った時のことを話し始めた。


「黒宮君と出会ったのは新年度の始まる前日、私が執行班の見回りをしていた時だったよ」


 東原と須田の二人は、コクコクと頷きながら崎田さんの話を聞いていた。


「仕事の最中、突然三人組の男に絡まれてね。中々しぶといというか厄介なもんだったから大変だったよ」

「で、どうなったんすか?」

「どうしようか悩んでるところに黒宮君が現れたんだ。それで一人をあっという間に倒しちゃってね」

「ほうほう」

「うち一人は私が何とかしたんだけど、いつの間にか残りの一人いない。ってなって。気が付いた時にはその男が私に向かって電撃飛ばしてきたんだよー」


「マジですか?! お怪我はなかったんすか!?」

「大丈夫だったよ。黒宮君が守ってくれたから。そのあと黒宮君、何も言わずに去ってっちゃったよ。いやー、おんなじ学校でよかったよー。でなきゃお礼も言えなかったし、こうして同じ執行班にもなれなかったから」

「「……」」


「どうしたの二人とも?」

「てことはですよ。崎田さんにとっての黒宮って……」

「「白馬に乗った王子様?」」


 東原のこの一言で、崎田さんがそれだと言わんばかりにウキウキして答える。


「あーそれいいかも! 確かにそんな感じだったかも。名乗るほどのものじゃあない。って感じだったし! いいかもそれ!」

「……」


 男子のコメントに納得する崎田紅葉を見て、柏葉真琴は白馬に乗ってる王子様の格好をした幼馴染の姿を想像してみる。


 あいつの性格上絶対似合わねぇな。


 それが彼女の感想であった。首をぶんぶん降って全力で否定する。



「ま、マジすか」

「あ。俺等そろそろ次の試合あるんで、良かったら見に来てください。」

「おっけー。ぜひともー」

「あざます! しつれーしまーす!」

「頑張ってねー!」


 右手を軽く振って二人を見送った。



「それで紅葉。執行班であること以外に何かあるの?あいつが気になる理由」

「え!? そこまで言ったっけ?」

「おそらく」

「ま、真琴ちゃんの気のせいじゃない?」




 知りたいことを知れたはずなのに、二人の足取りは重い。


「須田。今一度はっきりとわかったことがある」

「なんだ?」

「すげぇよ、黒宮は」

「悔しいがそうとしか言えねぇ」

「よくよく考えてみればあいつって班長と素でやりあえるってんだろ? だったらかないっこねぇじゃん」

「そういやそうじゃん。どうしようもねぇじゃねぇか」

「俺たちじゃ遠く及ばないってわけか」

「みたいだなー」

「「はぁー……」」



 格の差を思い知ったのか、大きなため息をつく二人の男子生徒は、とぼとぼ歩きながらグラウンドへと向かうのであった。

「ねぇ、やっぱりあの二人って付き合ってるんじゃ……」

「なんかありそう……」

「おのれ外道」

「畜生。真っ向からいって勝てねぇってのがなおさら悔しい!」


 いろいろ言われてる。

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