一回表、無死
力強く投げた初球、将星の構えたアウトローに決まりストライク。勢いをつけるために、最初は全力のストレート。なんて言ったが後々のことも考えて八割くらいに抑えた。
二球目は、先程より威力をやや抑えたストレートをインローに。微妙に下に外れてボール。カウント1-1。
三球目は少し練習していたカーブを投げた。しかし将星の構えた場所から大きく外れ、判定はボール。
限られた時間ではあったが、特訓の成果も確実に表れていた。最初はコースに決めるのも苦労したが、投げる回数を追うごとに、ストライクゾーンの辺りにボールが行くようになってきた。
後はストレートだけというのもあれなので、せっかくということでネットで変化球の握り方を調べて試してみたはいいが、付け焼刃で会得した故、荒削りどころの問題ではない。
体育の時も試しで使ってはみた。すっぽ抜けて大暴投にならないだけ幸いだが、変化が弱い。役に立つかはわからないが、使ってみないことにはわからない。
でもって三球目で使ってみた。変化こそしているがまだコントロールが上手く利かない。投げながら調整する必要がありそうだ。
四球目は、二球目同様インローにストレート。バットに当てられるも、打ち損じとなってセカンドゴロ。
二人目は六球粘られたが、最後は高めのストレートを打ち上げてサードフライ。順調にツーアウトをとった。
三人目。バッターは悠。執行班同士の対決というのもあって、ギャラリーの視線も一層集まってくる。
初球のストレートは外に外れてボール。続く二球目はもう一つ練習していたチェンジアップを試してみた。いいコースに入ったと思ったが、わずかに外れていたようだ。カウント2-0。
まだ悠に対して二球しか投げてないが、俺は悠の目の良さに改めて驚いた。俺の投じたボールは二球ともボールではあったが、結構きわどい所に入っていた。判定がコールされるまで、俺自身ストライクと思うくらいに。そんな球を悠は自信満々に、早々と見切っていた。
以前悠と訓練していた時のことを思い出した。能力で生成されたハンドガンを用いて射撃練習をしていた悠を、俺は近くで見ていた。
次々とランダムで現れる的を、狂いなく的確に撃ちぬいていた。
「こんなものか」
「全部命中か。すごいな」
「射撃において動体視力は不可欠だからね」
「にしてもどれくらいやってたんだ」
「能力が発現したのは八歳の頃かな。大体そのころからだし、もう八年くらいになるのかな」
「そんなころからモノホンの銃使ってたのかよ…」
「そういうことになるね。まぁ最初は扱うどころの話ではなかったけど、今はだいたいの銃は扱えるかな。ハンドガンでもスナイパーライフルでも」
「お、おぉ……」
「良ければやってみる?」
「いいのか?」
「もちろん。ここはそのための場所だから」
「てか、ここ使うのってお前以外にいるのか?」
「普段、僕以外だと主任くらいかな」
「そらぁねぇ。他の執行班の人達はどうなんだ」
「皆それなりに扱えたけど、性に合わないって」
「そうか」
そんな気もする。俺の知ってる限り天王寺さん、邦岡さん、崎田さんは明らか近距離向きだろうし、北島さんは勝手な偏見だが必要なさそう。袴田さんは……能力がわからんのでなんとも言えない。
「はい。ゴーグルとグローブ」
悠に渡されたゴーグルとグローブを装着して、一丁のハンドガンを受け取る。
「ゲーセンにあるものやおもちゃと違って、重みがあるな」
「持つのは初めて?」
「日本人からすりゃ、逆に初めてじゃないほうがおかしい気がするんだが」
悠を除いて、そんな奴が果たしてこの近辺にいるのだろうか。
「それもそうだね。的は十枚、間隔は十五秒ごとかな」
草薙がリモコンをポチポチいじって、設定を変更する。
「じゃあ始めるよー」
「おっけー、いつでも構わない」
構え終わった俺のその言葉を聞いて悠はシュミレーターを作動させる。
「命中は六枚か……」
ひとまず十枚撃ち終えた。構えているとき、小刻みに手が震えて中々照準が定まらないし、撃った後の反動もあって制御が難しかった。当てたといっても的の円内にあたったのは三枚。残りの三枚は円の外であった。
「初めてにしてはいいんじゃないの」
「だが他の人同様、俺には合わないのかもしれないな」
「無理に推し勧めたりはしないよ。自分にとってやりやすいのが一番だと思うから」
ともかく、あいつの目の良さはすごかった。俺がやった時よりも的の切り替わる間隔は短く、五秒ほどであったか。そんな中でも次々と命中させていた。後ろで見ていた俺は途中で目がぐるぐるしそうになった。
気持ちを落ち着かせるために一度深呼吸してから三球目、インハイに気持ち強めのストレート。それでも今回はあいつの目の良さが勝った。しっかりと捉えられ、ライト前に運ばれる。
その後四番、五番に入っていた野球部員にあっさりと初球のストレートを打たれて一点失ってしまった。素人が野球部相手にどうこうできる様な気もないような気もしてくるが、ただ純粋に悔しい。
それでも気を切り替えて次の打者に臨む。四球要して空振り三振。何とか一点で留めた。
「悪い」
ベンチに戻った俺はクラスメイトに一言謝った。
「気にするな。まだ一点だ。すぐ取り返す」
「すまんな」
「でも結構いい球投げるなおい」
「そりゃどうも」
「さぁ。今度はこっちの攻撃だ。取り返してやろうぜ!」
寺井が音頭を取って鼓舞する。皆気合が入ったようで何よりだった。俺もこのあとはしっかりと抑えなくては。
こちらの先頭打者の宇野がバッターボックスに向かっていったところで、クラスのもう一人の野球部員である橋場からある質問をされる。
「ところで黒宮」
「な、なんだ」
気迫というか、なんか微妙に嫉妬交じりの感じがするんだが…
「お前、崎田さんとはどういう御関係なんだ。この際はっきりと聞かせろ」
「それ俺も気になる。どうなんだ?!」
「俺にも聞かせろ!」
橋場の一言を皮切りに俺の周りにわらわらとクラスメイトが集まってくる。崎田さんの及ぼしてる影響力、大きすぎやしませんかねぇ?
「い、いや。同じ執行班のメンバーってだけでな……」
「嘘つけ! だったら黒宮くーん。なんて愛想よく呼ばれるわけねぇーだろおい!?」
「い、いや。えぇとだな……」
目を泳がせながら考えて見るが、正直俺自身もどう説明していいものかわからない。
「とにかく! 決して下心とか、深い意味はない。崎田さんがそう言ってるだけだ。将星、キャッチボールするか! なぁ!」
「え? あ、あぁ……」
近くにいた将星を引っ張って、この場を逃げるように立ち去った。
「どう思う?」
「こうなりゃ策は一つだ。後で崎田さんに直接聞こうか」
「ラジャー。」
二人を余所に、どうでもいいところで意気投合する二人がいた。
「なぁ蓮。そもそもどういう経緯で誘われたんだ?」
キャッチボールをしつつ気を紛らわせたかったが、クラスの友人にまでこう言われてはそんなところではない。動揺してボールをグローブで弾いてしまう。
「そ~いやこの際ちょうどいい。聞かせてもらおうじゃあないか」
「……」
あいつはグローブつけた左手を背中の後ろにやってにやにやしている。完全に逃げ道をふさがれた。あの野郎俺が話すまでボール取る気ないなおい!? もうどうしようもないじゃねぇか。
「お前を信用してこっそり教えてやる」
包み隠そうとするのをあきらめて将星に俺が執行班に入ることとなったきっかけについて話すことにした。
「俺が崎田さんと最初に会ったのは入学式の日の前日。俺が編入学の手続きを終えた帰り道……ってか寄り道の途中だったか。崎田さんが男に囲まれているのを見かけてな。それが気になったもんだから、俺が割り込んだら男たちの目の敵にされてそれを撃退したってところ。かな」
「ほぉーん……」
「嘘だと思うなら、直接崎田さんにあたってくれ。大体同じようなこと言うと思うからよ」
「別に疑っちゃいねぇよ。にしても、広まったものならみんな黙ってないだろうなぁ……」
「だから言いたくねぇんだ」
キャッチボールを続けながら、崎田さんが余計なこと言わないように。この後ちゃんと抑えようではなく、そっちのほうを俺は考えていた
「絶対何かあるっておい」
「そうだそうだ」
「あの様子じゃぜってーなんか隠してるって」
「……」
ベンチにいても落ち着かない。




