潰えぬ野望
警察に身柄を引き渡した後、現場にいた皆が作戦本部へと戻ってくる。
「こちら長坂。先行部隊、一班、二班及び潜入班。全員戻りました」
「ご苦労だった長坂。零班、三班、四班は先に戻ってきている」
「そうか。全員無事で何よりだ」
「そうだな」
「さて諸君。皆の尽力の甲斐あって、作戦は無事に成功した。羽田零次があの場にいなかったことは悔やまれるが、以降の不正売買を阻止することができた。それだけでも大きな功績だ。今後とも、諸君の働きに期待している。本日は以上だ。しっかりと休養を取るように」
作戦を終えた班員たちがそれぞれ思い思いに話をしていた。作戦成功の喜びを分かち合う者。今後のことについて話し合っている者。
大体大人か学生かで話していることが分かれているような感じもする。俺は崎田さんと悠のいるほうへと行った。
「崎田さん、悠。お疲れ」
「おかえり黒宮君。初任務お疲れさま」
「お疲れ。大活躍だってー蓮」
「ありがとう。でも、こういう役はもう御免かな……。正直言ってああいう役は俺より邦岡さんのほうが適任だと思うんだがな。絶対役割逆だと思うわけよ」
「うんうんそうだよねぇ。上の決定みたいだから、よっぽどのことがない限りはねぇ…。わたしも大変だったよ。というか何であんな役回りばかり……」
「作戦前に神妙な顔をしていたのもそれか」
「そうだよ聞いてよ……」
崎田さんの愚痴が始まった。別動隊で崎田さんがどういう動きをしていたのかについて、本人の口から事細かく説明される。
「成程。積み荷の中に。そりゃいいもんじゃないわな」
「そうだよそうだよ。草薙君だってそうでしょ?」
「まさしくね。狭いし息苦しいし、背中と首が痛くなったし……」
「それは……まぁ」
「あとは火災報知器を作動させる役目。実際に火気を近づけたわけだし、なんというかもう……」
「実際に火をつけたわけじゃないんだし、そこは……」
「そうだ。マナーの悪いやつがトイレの中で煙草吸うみたいなそんな感じじゃないのか?」
「そんなこと言わないでよー! 後黒宮君はフォローが下手―!」
「わ、わりぃ……」
14時半に鳴り響いた火災報知器。実際に火をつけたわけではなく、現場を混乱させる目的でわざと作動させたものだ。
結果混乱に乗じて二階、三階と施設内の制圧も容易に進んだというわけだ。
「なぁ。一つ聞きたいことがあるんだけどさ」
「何? 私のことだったらもう……」
「そうじゃない、邦岡さんのことだ。作戦中に銃弾食らったにもかかわらず、ぴんぴんしてたのが気になってな」
「そ、そんなことが!?」
「だが本人は一切怪我してないんだ。ほらあっち。見ればわかるだろ」
俺は邦岡さんのほうを指さす。山水高校執行班の女子メンバーの人と話しているところである。
「あぁ。ホントだ。驚かせないでよ」
「能力なのは想定着くんだがどんな能力なんだ?」
「シンプルだよ、蓮。硬化させたんだよ。」
「硬化か。成程」
それだったら落ちていた銃弾がへこんでいたのが何となく頷ける。
「まぁ厳密には硬度をいじっているんだ。硬くするだけじゃなく、逆に柔らかくすることもできるんだよ。」
「そ、そうなのか」
崎田さんと悠と話していると、山水高校執行班の一人がこちらに近づいて来た。
「おい。やっぱりお前黒宮か!」
突然自分の名前を呼ばれたので、その方に振り向いてみると、一人の男子生徒が。
「おぉ。その顔やっぱりそうじゃねぇか! 久しぶりだなー」
「……」
思考が停止する。あれ、誰だっけ? 最初に一つ思ったのはそれだ。
過去の記憶と少しずつ照らし合わせながら思い出そうとする。
「おぉー桐生君。お疲れさまー」
「桐生……」
桐生。その名字を思い出そうとして記憶をさかのぼっていく。幼稚園、小学校一年、二年……。そのあたりで一つの答えに行きついた。
「っと。泰牙……だったか」
「おぉ! そうだよそうだよ。桐生泰牙だ。やっと思い出したか?」
「意地悪いつもりじゃないが、よく俺のこと覚えてんな」
「あったりまえよー! 俺はダチの顔と名前はすべて覚えてっからなー!」
「そりゃどうも。そういや記憶力は馬鹿にならんくらいすごかったっけか」
話しながら徐々にあいつのことを思い出す。小学校二年の時に同じクラスになって以降、俺が転校するまで同じクラスだったっけか。
「黒宮君。知り合いなの?」
「まぁ、小学校の頃の」
「水臭いなぁー。こっちに戻ってきたってんなら連絡くらいくれたっていいじゃんかよー」
「いろいろと忙しくてな」
「しかも執行班になってるなんてなー。まぁ案外お前に似合ってるかもなー」
「そうかぁ?」
「そうだそうだ。それにしてもお前……」
「な、なんだ?」
泰牙が崎田さんのほうを一度見てから、もう一度俺のほうを見てこう言い放つ。
「お前、いつから崎田さんとそんなに仲良くなってんだよおい! 羨ましいぞ!」
「い、いや…。別に特別仲がいいというわけじゃないんだが……」
「にしては和気あいあいと話してたじゃねぇかー。ぶーぶー」
「いやいや。あくまでだな……」
「畜生! 崎田さんとおんなじ学校の執行班ってだけでも十分だってのによぉ。お前というやつは……」
崎田さんが校外でも注目されてんだなって、ちょいとばかしだが実感できたような気がする。
「おい桐生! そろそろ行くぞ」
山水高校の他の執行班のメンバーの一人が泰牙を呼んでいた。
「す、すいません、すぐ行きます! おい黒宮、話は今度だ。携帯の番号だけでも教えろ」
「はぁー。わーったよ」
ポケットからメモ帳を取り出し、ページの一枚を適当に切り離して、電話番号を走り書きして泰牙に渡した。
「ほい確かに。崎田さんまたねー」
泰牙は山水高校執行班の面々とともに、一足先にこの場を立ち去った。
「お前ら。俺達もそろそろ行こうか。ぼちぼち用意しておけ」
「わかりました」
黒宮ら兼城学院のメンバーも帰り支度を始めるため別の部屋へと移動する。先に用意を終え戻ってきた天王寺が、小松主任と話をしている。
「主任。上が黒宮を選んだ理由、やっとわかりました。」
「……おぉ、そうか」
「まだ彼が執行班になって一カ月。こういう実践になるなんて思いもしませんでしたよ」
小松主任は返答することなく黙って天王寺の話を聞く。
「あのときはあぁ言いましたが俺は反対でした。こんな大仕事の大役に、入って間もない新人を抜擢したことに」
「その辺に関しては、俺も同意見だ」
「邦岡から聞きました。滝川が重量変動の能力を使ってきたと。そうなればそれこそ飛び道具でさえ役に立たなくなる」
「……」
「あぁなった場合、あいつじゃないと動けないからですよね」
「まぁそういうことみたいだな。お前はこういうことには鈍感というか疎いというか……」
「そう思ってくれて結構ですよ」
「あいつの能力、無効化だったか。ああいうタイプの能力者はうちじゃ初めて見るって、あの時は上もその話で持ち切りだった」
「そんなに稀少な能力なんですか?」
「さぁな。俺の知ったことではない」
「とにかくそうなった状況でそれを打開できるのが黒宮しかいなかった。そういうことですね?」
「ごもっともだ。だが、それ抜きにしてもいい活躍ぶりだった。おそらくだが上の評価はますますあがるんじゃないか?」
「……今後の彼の負担が大きくなるのでは?」
「もちろん酷使するつもりはないさ。未来ある若者なんだから。俺らもそこまで鬼じゃねぇよ」
「新人に大役を押し付ける人のセリフじゃないと思うんですがね」
「皮肉なことだが同感だ。」
「ふぇっくしゅ?!」
「どうしたの黒宮君? まだまだ花粉症?」
「いや、大丈夫だ」
「誰かが噂してるーってやつ?」
「さぁな。……もう俺らだけだ。早く行こう」
「そうだね。あっ。黒宮君、時間ある?もしよかったら後でご飯食べに行こう!」
「まぁ時間もあるが……」
「じゃあ決まり。この辺でいいお店知ってるんだ。はぁーもう。食べなきゃやってられないよ‼」
「やっぱり引きづってるのか?」
「当たり前だよ! まったく……」
「(まぁしゃあなしで付き合ってやるか)」
「なぁ、悠や他の人らも誘ってもいいか?」
「もちろん。もともとそのつもりだったから」
この後さらに数十分かは愚痴に付き合わされ、うちの執行班の面々で夕飯に立ち寄った定食屋で、ご飯を三杯くらい食べていたことは、ここだけの話である。
「金の不正売買を行っていた首謀者の滝川陽介ら、執行班の活躍により一斉検挙……か」
夜の街の一角で、そのニュースをスマホで見ている一人の男がいた。
「ふっ。まぁ所詮はそんなものか。人間ってのは案外もろいもんだな。楽しませてもらったよ、滝川陽介」
笑みを浮かべながら闇の中に消えていく。
「俺のこんなお遊びなど、あの方のお考えに比べれば小さきもの。我々の計画はまだ始まったばかり……」
「紅葉ちゃん、やっぱりやけ食い?(袴田)」
「多分……(草薙)」
「今ので三杯目だぞ。あれだけ食べて体系維持できる真相を知りたいものだ(邦岡)」
「いいの?あのままで(北島)」
「そっとしておきましょう。これ以上愚痴聞くのはもう疲れましたから(黒宮)」
お疲れ様でーす。




