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本能のままに

「てめぇら……本気かおい!」

「こうなった以上これくらいはやるさ」

「ただで済むと思うなよ……」


 滝川が物凄い形相でこちらを睨んでくる。



「元々身を投げ出すぐらいの覚悟はできてるよ。でなきゃこんなところにはいねぇよ」

「正気の沙汰じゃねぇな。あんたら」

「もともとそういうもんだ。今のあんただってそうだ」

「このままいくと思うな。……かまわねぇ。やれ」


 男の一人が発砲。撃たれたのは――――――


「くに……日下部!?」


 邦岡さんと言いかけそうになったところで、それをこらえて日下部と叫ぶ。邦岡さんについていた男が彼女の左足に一発。

 こいつら躊躇なしかよ!?


「安心しろ。急所は外した」

「そういう問題かぁ! おい!大丈夫か……」

「ほう。なら次はしっかり狙って撃つんだな」

「「!?」」


「銃は脅しの為の道具ではない。それをよくわかっているのはお前の方じゃないのか」

「馬鹿な!? こ、こいつ?!」


 左足を撃たれたはずの邦岡はぴんぴんしている。それどころか色白の肌には、流れる鮮血が見えるどころか撃たれた痕跡さえ感じない。


 その様子に滝川らだけでなく、状況を飲み込めずにいる俺も動揺してしまう。


「なっ! この……」

「っ!? 馬鹿な!」

「!!」


 滝川らが一瞬動揺した隙。邦岡さんはそれを逃さなかった。自身を撃った男の首に一撃を食らわせる。


「かはあぁ!?」


 男はそのまま倒れ、握られていた拳銃は右手からぽとりと落ちる。


「お、おい何やってる! さっさと……」 



 俺に銃を構えていた男は、さっきから黙り込んだまま次の行動は起こさなかった。

 邦岡についていた男が倒れたのを確認し、そして起こした行動は――――――



「滝川陽介。お前たちは既に、我々管理局、執行班が包囲している」


 俺に向けていた拳銃を滝川のほうへと向けることであった。


「な、何のつもりだ!」

「元々俺はこういう身分だ。観念しろ」

「き、貴様ぁ!!」

「三対一だ。むやみな抵抗はよしてもらおうか」


 俺と邦岡さんは滝川に向かう。予定通りなら、後はこの男を取り押さえれば任務完了だ。



「ふっ、ふっふっふっふぁはっははははっは!!」


 けたけたと笑う、壊れたからくり人形の様な奇声を上げて笑い出す滝川。追い詰められた人間ほど何をしでかすのかわからないものだ。


「傑作だよ! ここまで追いつめられるなんてなぁあ!?」

「観念しろ。逃げ場はないぞ」

「なぁおい。お前らこんな時に何で冷静でいられるんだよ? 死ぬつもりかおい?」

「取り乱す必要もないんでな」

「ならいいさ! 全員まとめて道連れだぁ!!」


 その言葉の後、突然体が重くなる。何かに押しつぶされるような今まで感じたことのない重みがのしかかってくる。


「ぐぅ!? か、身体が……」


 立ち上がろうとするが、ますます身体にかかる重みは強くなっていく。床に伏せられ、立ち上がれなくほどに。


「火災報知器が鳴った! どうせもう逃げ場はない! だったら一人でも道連れにしてやるよ! このビルにいる奴、もう誰だってかまわない!」


 あぁ。もうやけが回ってどうでもよくなっている。つかつかとせわしなき歩き回り、倒れ込んでいる俺の足元に。

 この状況でまともに動けるのは能力を使っている滝川くらいだろうか。いや、そうではない。


「もうどうだっていい! このまま死ぬんだよ。俺も! お前らも……」


 滝川は突如体制を崩してその場に倒れこむ。何かに躓いたかのように。倒れこんだ滝川の前に立つ人影がひとつ。


「お前の好きにはさせない」

「山木ぃ……お前、どうして……」

「鍛えてますから」


 冷静になればすぐにわかることだ。滝川の能力だってことに。元々テーブル挟んで向かい合って話をしていたんだ。二メートルと離れていない。それならこちらの間合いだ。

 鍛えてるなんて言ったが、もちろん嘘。アドリブでそういっただけだ。


「てめぇ!!」


 すぐさま立ち上がってこちらに殴りかかってくる滝川。冷静さを失っているのならうろたえることはない。ただ本能のままに、真っすぐに突っ込んでくる奴に恐れるものはなかった。

 さっとかわして、振り向いてきた瞬間。そのまま滝川の胸部を一発、右の拳で殴る。

 滝川は勢いで飛ばされ、壁に打ち付けられる。動けるようになったのを確認した邦岡さんともう一人の男性は滝川の身柄を取り押さえる。


「滝川陽介の身柄を確保」

「確保を確認。黒宮、本部に至急報告頼む」

「は、はい」


 すぐさま作戦本部に向けて通信を飛ばした。


「こちら先行部隊。滝川陽介の身柄を確保しました」

『了解。怪我人はいるか?』

「……問題ありません」


 あれ、怪我してないとみなしていいのかな。



『了解。至急通報の後、班員を向かわせます。現場の判断は委ねます』

「了解です。ご対応お願いします」



 通信を終えたところで、先程俺に銃を向けていた男が歩み寄ってくる。滝川は縄で縛られており、身動きが取れない状態であった。


「芝居とはいえ悪かったな」

「気にしないでください。作戦のうちですから」


 彼もまた、馬場さんとともに事前に潜入していた上層部の人間だ。


「黒宮君も、よくやってくれた」

「はぁー。もう心臓がバクバク言ってますよ……」


 わずか一時間に満たぬ作戦とはいえ、一瞬の油断も気のゆるみも許されない状況であった。

 おまけに銃口を向けられるなんていうなかなかない経験までさせてもらったんだ。今でも平常でいられたもんじゃない。


「なかなかの演じっぷりじゃないか。驚いたよ」

「言ってくれますねぇ……」



 そう言いながら俺は、気持ちを整理しようと思い床のほうに視線をやる。

 床には撃たれた弾丸が転がっていた。邦岡さんの言う通り本当に当たっていないのか?いや、それはない。あれだけの至近距離で放たれた弾丸だ。避けるのは能力でも使わない限り……


 能力の可能性を示唆したところで一つの考えが浮かぶ。そうだ、能力だ。さっき俺がそうしたように邦岡さんもそうして乗り切ったのだろう。


「ところで邦岡さん」

「どうした?」

「さっき思い切り至近距離で撃たれてましたけど本当に大丈夫なんですか?やせ我慢とかじゃないですよね?」


「心配するな。ちょっと痛いが何ともない」

「そ、そうすか……」

「(あれでちょっとで済むのかよ……)」



 そう思いながら床に転がっていた弾丸を拾い上げる。よく見てみると、先端が潰れて平らになっているのが分かった。

 邦岡さんにぴんぴんしている理由を聞こうと思ったところで、ドアが勢いよく開けられた。


「こちら長坂、及び一班だ」

「お勤めご苦労様です。長坂主任」

「ご苦労だった。松永」

「邦岡! 黒宮! 無事か?」


 山水高校執行班の主任である長坂さんとともに、天王寺さん達一班が、部屋の中に入ってくる。


「天王寺。あぁ。ひやひやしたが、何とかなった」

「見たところ問題なさそうだな」

「問題無しってもんじゃないですよ……」

「どうした黒宮? どこか怪我でもしたのか?」

「いえ。でも正直こんな役はもう御免です」


「とはいえ、無事に終わったな」

「えぇ。おかげさまで」

「もうじき警察が到着する。それまで見張りを兼ねた待機だ」



 このあと、滝川陽介を含めた計12人の身柄は、警察に引き渡され連行されることとなった。


 14時46分。作戦は完了した。

「作戦完了だって。草薙君」

「そっか。よかった」

「じゃあさっそく発案者にアームロックでも……」

「それ以上いけない」


 怒りをぶつけるときはね、誰にも邪魔されず自由で救われてなきゃダメなの。(崎田紅葉談)

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