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陽動と動乱

 事の至りは数分前に遡る。


 裏口のドアを閉めて、三人組は近くの部屋に入る。



「うまくいってよかった。いい働きだ、袴田」

「どういたしまして。それにしても考えたわねぇ。班長」

「彼がこの場にいないというのはこちらにとっては痛手だが、そういうものは、逆に利用させてもらう」



  本日決行となったこの作戦であったが、一つだけ悔やまれることがあった。

 首謀者の一人とされると羽田零次が外回りの仕事の為、今日この場にいないという報告が作戦当日にあったことだ。

 すなわち、今回の作戦では彼をとらえられないということだ。


 しかし天王寺はそこに付け込んだ。やりようによっては彼に扮して堂々とビルの中に入れるのだ。


 それを可能にするために必要となるのは、相手にそう思わせられる高度な変装技術。或いは能力だ。

 しかし彼らは執行班の制服で堂々と立ち入っているため、前者ではなく後者ということになる。



 この場の三人。天王寺、北島、そして袴田。しかし先の二人の能力はそれに適した能力ではない。

 自身を高速化させる。植物を操る。言うまでもなくこの状況に適した能力ではない。



「私の手助けあってこそ、あなたの考えた作戦ができるのよ」

「わかっているさ」



 袴田の能力を利用させてもらった。彼女の能力によって、天王寺が羽田零次であると錯覚させたのだ。


「にしてもあれくらいで済ませておくのぉ?その気になれば、あの男はおろか、この場の全員を気絶させるくらいのことはできるのだけどねぇ……」

「恐ろしいこと言ってくれるな。だが、あまり余計なことしないでほしい」


「使いようによっては、この世界の掌握も容易いというわけか」

「そんな目的もって俺たちは活動してるんじゃないんだぞ」


「わかってるわよぉ」

「っと。こんな無駄話してる場合でもない。俺は一度表に行く。お前らはここで待機だ」


「りょうか~い」

「承知した」

「念のために鍵はかけておけ。サインは覚えてるな?」

「もちろん」

「ならいい」



 部屋を出た天王寺は、先程入ったほうとは反対の正面の入口へと向かう。





 先に建物内に入った天王寺が、二人組の男を後ろから急襲。そして今に至るというわけだ。ちなみにここに来るまでに、もう三人ほどなぎ倒している。


「にしても長坂さん。もうちょいいい当てつけはなかったんですか」

「言ってくれるな天王寺。理由つけてここに来るって状況がこれくらいしか思いつかなかったんだよ」


「相変わらずお粗末な役作りは変わんないですね」

「過ぎたことはいいんだよ。それよりも、ここに長居するわけにもいかない」

「わかってます。とにかく向こうの部屋へ。一班と合流します」




 先程天王寺が入った部屋のドアを三回、一間おいて二回ノックする。


「俺だ」

「はいはーい」


 袴田のゆるーい声がしたのち、鍵が解除される。


「お疲れさまー」

「ここまでは予定通りか」

「時間も……問題なしだ」


 合流したのを確認して長坂は通信回線を開く


「こちら長坂。予定通り、ビル一階にて一班と合流」

『こちら了解。三班、四班を正面より向かわせます』

「了解。一階は既に掌握している」

『了解。合流後、再び連絡を』



「さてと、しばらく待機だ」

「というよりも、いつの間に抑えてたの?」

「ここに来るまでの間にな。もちろんさっきのあの男もだ」

「たったの数分しか経っていないよね?」

「そうよねぇ」

「まぁなんせそんなに大規模な組織じゃないからなここは。一階にいる連中くらいならどうとでもなる」



 なお、抑えておいた連中計六人は適当に拘束して空き部屋に放り込んである。その中には裏口にいた男も無論含まれている。


「もう三分と経たずに来るだろう。いつでも出れるようにしておけ」


 長坂の一声で執行班の生徒五人は気合を入れる。



「「「了解」」」


 現在、14時25分。





 忍び込んでいた部屋を出る直前、天王寺はとある人物に通信を入れた。


「俺だ。作戦は問題なく進んでいる。時間になったら頼む」

『了解』




「ひとまずこんなところでどうだ」


 こちらは商談の最中であった。話の内容を聞くに、まとまりが付きそうなところであった。


「成程、悪くねぇな」

「それで、今回そっちはどれだけ卸してくれるんだい」

「悪いがその話をする前に、はっきりとさせなきゃいけないことがある」

「なんだ。腑に落ちないことでもあるのか」

「そんなところだ。山木代表」



 滝川のその言葉の後、俺の後ろにさっきまで滝川の横にいた二人の男性が立ち、俺と邦岡さんに向かって――――――


「これ以上大口叩くのはよそうか」



 二門の銃口が突き付けられる。


「大人しくしろ。命までは取らねぇからよ」



 ……ばれたのか。


 そう心の中で思いつつ震える足を、感じたことのない動揺を抑えて面と向かう。

 落ち着け。この場の駒の数はこちらのほうが多い。それにあと数分だ。なんとか時間を稼ぐことを考えるんだ。


「何のつもりだ。脅しは得意技か?」

「うまく丸め込めると思うなよ」

「脅せば俺が大人しく食い下がると思っているのか」

「そんなんじゃねぇ。さっきから下が騒がしいんだよ」

「だからどうした。チンピラでも迷い込んだか?」

「お前らのことだよ。警察だか執行班だか知らないが、ガキはこんなことに首突っ込むんじゃねぇよ」

「ガキで結構」

「度胸は大したもんじゃねぇか」


 ちらりと腕時計に目をやる。時刻は14時29分。下に向いた秒針はカチカチと上へ動いていく。

 息を一つはいてから、俺は両手を挙げた。


「しかし……これは流石に仕方ないことだな。わかったわかった。悔やまれるが見逃すよ。その代わりに一つだけ。言わせてほしい」

「なんだよ。まぁせっかくだし聞くだけ聞いてやるよ」


 滝川のその言葉の後、俺は少しにやりと笑ってこう言ってやる。



「気づくのが……ちょいと遅かったな」




 俺のその言葉の後、腕時計の秒針は真上を刺した。14時30分。

 その瞬間、ビル内部に火災報知機の警報が鳴り響いた。

「とにかく暴力はよそう?」

「うぅ。このウヤムヤはどこにぶつければ……」

「(あれ後で絶対やけ食いするパターンだ……)」


なんとかしたい。

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