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足元をすくえ

 ライトグリーンの制服に身を包んだ男が倉庫の中に入ると、台車に乗せたダンボールを下していく。二回に分けて計二つ。下したところでダンボールに向かって声をかける。


「もういいぞ」


 その言葉の後、男は段ボールを梱包していたガムテープを勢い良く剥がす。

 その後、ダンボールの中に在った物の正体が明かされる。


 いや。この場合、物ではなく者というべきだろう。



「はぁー。この中狭い」

「ホントにですよ。何でまたこんな方法で……」

「俺に聞くな。それに合計約百キロ超のの積み荷を台車で運ぶのも楽じゃねぇんだぞ」

「私ってそんなに重いですか? 女性にそういうこと言うのは失礼だと思いますよ。天王寺さん」


「誰もお前一人のことは言ってないだろ。高校生二人分の体重と、その他もろもろ含めた重さなら、それくらいにはなるだろうって言っただけだ」

「人を荷物扱いしないでください。天王寺さん」

「だからそんなことは言ってねぇっての、草薙」

「どのみちそういう風に受け取れますけどね」


 中から現れたのは崎田と草薙であった。

 積み荷に紛れるようにして建物内に侵入、それを運送業者に成りすました天王寺が建物内に運び込んだのだ。


「誰ですかこんな方法思いついたのは」

「上の連中の誰かだろう。それ以外は知らん」

「聞いたときは驚きましたよ……」

「気持ちは解るが、愚痴は作戦終わってからにしろ。暫くはここで待機だ」

「「わかってます」」


 二人は少々のイラつきもありつつ、それをこらえて返答する。



「俺はもう行く。なかなか出てこないとなると怪しまれるからな」


 立ち去ろうとしたと同時、天王寺の胸ポケットに入っていた通信機が反応する。



『こちら馬場』

「こちら天王寺。第一段階はクリア」

『うまく潜入できたようだな』

「それがわかるってことは、監視カメラは抑えたということですね」

『あぁ。崎田と草薙はその場で待機だ。天王寺はこのまま一班に合流しろ。一班が建物内に入ったところで二班を向かわせる』

「了解です」


『にしても、あんな方法で入るとは。あの人の考えることはわからんな』

「全くです。二人もかなり困惑していたようで」

『まぁそういうべたな話は終わってからにしよう。引き続き作戦を継続する』

「了解です。お気をつけて」

『そちらこそ』



 通信を切ると、崎田と草薙の入っていたダンボールを床に下し、隅のほうに置いておく。


「じゃあ頼む。俺は袴田らと合流する」

「「了解です」」



 天王寺は何も乗っていない台車を押しながらビルを立ち去る。


「搬入終わりました。お疲れ様です」

「おう。今後ともよろしく」



 裏口に立っている男性に一言挨拶してから、その場を立ち去った。




 商談の執り行われているビル三階の一室。山木の放った一言が、場の空気を一気に凍らせる。先程日下部に歩み寄ろうとした男が血相変えて山木の胸倉をつかむ。 


「わかって言ってんのか。おいてめぇ!」

「よせ」


「ですがしかし……」

「お客様にその態度はねぇだろ。下がれ」


「ですが……」

「聞こえなかったか。下がれ。これ以上俺の機嫌を損ねるんじゃねぇ」

「へ、へい」


「部下の無礼。代わって謝罪する」


 掴まれてヨレヨレになったスーツを直してから話を進める。


「そう言われるのも無理ありません。急にあんなこと言えば疑われるのも仕方ない。だがうちは、いかなる相手とも平等に接するのがセオリーなんでね」

「それは殊勝な心掛けで」


「最近は警察だけでなく、執行班の連中まで動いているっていう話じゃないか」

「確かにな。正直言って目障りだ。おかげでこれまではコソコソと活動していたよ」

「それに関して俺らと組んでくれるならいいもんだと思うぜ。俺等、そういう情報には一段と詳しくてね。奴らにも見つからないような裏ルートの情報を提供するというのはどうだ」

「ほう。そんなものがあるっていうのか」

「お前らにとっても興味深い情報だろう」


「だが、単なる卸売りがなぜそこまでする。マウントを取ったつもりか?」

「まさか。我々は対等でありたいだけだ。有益な取引の為にも安定したルートは欲しいだろう。ウチはもともと、あんたたちのようなとことの取引ってのが主なんでね」

「成程。うちらとは好都合ってわけか」

「そういうわけだ」


 お互いにんまりと笑って見せた。




 天王寺が搬入を終えてから数分後。同じ場所に三人の人物が現れる。


「あっ。羽田さんじゃないすか。お帰りなせぇ」

「お疲れ」

「どうしたんですか? 今日は外回りの仕事があるって言ってたじゃないすか」

「キャンセル食らってな。おかげで早戻りする羽目になったよ」

「そういうことっすか。食えない奴らっすねぇー。そいつら」

「いいさ。取引先なんて、これからいくらでも見つかる」

「ところで、何で裏口からなんすか」

「なんか表のほうが騒がしくてな。何やら言い合いになってるみたいだぜ」

「ま、まっじですか」


 正面の入り口に向かおうとする男の腕をつかんで止める。


「お前まで行く必要はない。あれだったら二人いりゃ十分だ。それに、ここががら空きになるぞ」

「そ、そうですね。すいやせん。戻ってきたこと連絡しやしょうか」

「その必要はない。引き続き頼むよ」

「へい!」



 その数分後。騒ぎがあるといっていた正面入り口では――――――


「何だあんたたちは。うちに何の用です」

「要件を言う前に、そちらの責任者と話をさせてもらいたい。」

「アポはありますか? そうでないならお引き取りご願います」

「アポも何もへったくれもない。先日お宅の商品買ったもんだが、文句言いに来た!さっさと責任者をよんでこい!」


 クレーマーと思しきスーツを着た男性が文句を言いに来ている状況であった。彼の後ろには、同じような格好の二人の人物が。

 単なる騒ぎでは治まらず、激しい言い合いになっていた。


「うちだって暇じゃない。たった今も大事な商談の最中だ。突然来られても対処は致しかねる」

「そんなもん知らねぇよ。こちとら悠長に待ってる余裕はねぇんだよ」

「連絡をいただければこちらも十分に、懇切丁寧な対応ができますので、今一度ご連絡いただけると……」

「ンなもん知るか!! 時間がねぇっつってんだこっちは。さっさとしろ!」

「ですから……ん゛ぐぅ」



 話をするビルの側にいるスーツの男の一人が、突然背後から何者かに襲われ、そのまま気を失う。


「な、なんだ!? ぐわぁ!」



 もう一人の男も背後から現れた何者かによって無力化される。


「対象の無力化を確認」



 その何者かは、スーツの二人組が倒れているのを確認すると、クレームをつけていた男に向かって歩いてくる。



「……よくやってくれた」

「そちらが意識をそらしてくれたおかげです」



 現時刻、14時18分。

「あーもー。作戦終わったらこれ考えた人殴ってやりたい」

「お、落ち着いて崎田さん」

「じゃあせめて私の剣で…」

「そういう問題じゃないよねぇー……」


 こらえましょう。

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