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金メッキの巣

 それから数日。作戦決行の当日となった。俺たちは、奴らの巣の近くにあるビルの一室にいる。


「さてと、用意は完了しているな、お前ら」

「はい」


 正装に身を包んだ七人全員が、威勢よくそう返答する。

 黒宮と邦岡は少しくたびれた感じのスーツ。天王寺は運送業のライトグリーンの制服。残り四人は学院の制服とは違う、執行班としての紺色の制服に身を包む。



「にしても、そういう制服もあるんですね」


 これまで外の見回りをしていた時は学院の制服で、こういう制服があることは知らなかった。


「そういう組織だからね。これくらいないと」



 崎田がファッションモデルのように胸を張って答える。


「にしても、俺と天王寺さんと邦岡さんはそれじゃないんだな。って当たり前か。俺等には役があるからな。というか崎田さんと……悠も役貰ってたろ。何で天王寺さんと同じ格好じゃないんだ?」

「あぁー。それなんだけど……」



 崎田さんが理由を言おうとしたところで主任がこちらに向かってくる。


「邦岡、黒宮。こいつを」


 小松主任が俺と邦岡さんに渡してきたのは、腕時計であった。一見ただのへんてつもない普通の腕時計だ。


「これ……」

「ただの腕時計と思うなよ。こいつには小型の発信機と盗聴器が内蔵されている」

「はえー。それはまたハイテクな」


 興味深そうにそれを眺めていると主任が困り顔でこう言う。


「言っとくが任務が終わったらちゃんと返せよ」

「わかってますよ。私物化はしませんから……」



 俺と小松主任が話していると、オペレーターの通信が入っているのが耳に入ってくる。



『こちら馬場。先程、こちらの迎え役が出て行ったところだ。あと五分もすれば待ち合わせの場所に到着するだろう』

「了解です。何か動きがあれば報告願います」

『了解。こちらからは以上です』



「さてと、そろそろ時間だ。邦岡、黒宮。先に向かってくれ」

「「了解」」

「気を付けてな」



 出動する前に、先程まで会話していた崎田さんに近づく。


「悪い。理由が気になるが、今はやるべきことがある」

「そうだね。というか知らない方がいいと思う。行ってらっしゃい」

「ど、どういうことだ?」

「黒宮。行くぞ」

「あ、はい」



 理由を聞こうとしたが、邦岡さんの言葉によって遮られてしまった。




 黒宮と邦岡は他のメンバーより先に部屋を出る。その一分後、別の人物らがその部屋に入る。


「失礼します。山水高校執行班一同。ただいま到着しました」

「ご苦労様です。長坂主任」

「……あの二人は? 見かけんようだが」

「すでに先行させています。こちらも用意出来次第、残りのメンバーを配置につかせます。」

「了解であります。お前ら! 速やかに用意を済ませろ」

「「「了解!」」」



 着替えに向かった生徒たちを長坂主任が見送った後、彼のもとに小松主任が歩み寄る。


「相変わらず威勢がいいですなぁ」

「それがうちの売りですから。それに、彼等だって十分気合入ってますから」

「いい心がけです」




「長坂主任。準備、完了しました」

「おう。すぐに打ち合わせ通り、三手に分かれて待機場所まで移動しろ」


「「「了解です」」」

「袴田、北島。お前らもだ。指定の待機場所まで移動だ」


「「了解」」

「長坂主任。現場からの指示、お願いします」

「おうよ。」



 作戦開始。13時30分。





 あのビルから徒歩で数分のところにある建物の前で待ち合わせの約束となっている。暫く待っていると、近くに一台の黒い車が止まり、降りてきた二人の男がこちらに近づいてくる。


「お前らか。取引したいって輩は」

「あぁ、そうだ」


「にしてもなんだがガキくさい連中だなおい。」

「まぁそういわれても仕方ないな。確かにこういう商売始めてまだまだ日は浅いほうだが、つては結構多いんだ」

「ほーう」

「こんな口だけで信用が得られないことは十分承知している。だからこそ、じっくりと話し合いたい」


「その眼付、いいじゃねぇか、気に入ったよ」

「そりゃどうも」

「ほら、こんなとこで話をしても野暮ってもんだ。さっさと車に乗んな」


 車に乗せられ、走ること数分。事前に確認していたビルの前で車が止められる。



「(情報通りだな……)」


 邦岡さんがこっそりと耳打ちする。


「憶するなよ。ここからが本番だ」

「わかっています」

「それにみかけはあぁだが、まだかなり警戒しているようだ。怪しいそぶりを見せるなよ」

「はい」


「着いたぞ、降りろ」



 男らに連れられ、ビルの三階の一室に案内される。ボディチェックを受けてから部屋に入ると、そこには三人の男がいた。そのうちの一人は、写真にあった滝川陽介であった。



「お前らは下がれ」

「「はっ」」


 滝川の一言で、俺たちを案内した二人組は退室する。 


 商談開始、14時ちょうど。



「とりあえず、そこに座れ」

「「失礼します」」



 俺と邦岡さんは一礼してからソファーに腰かける。


「にしても、ただの商談だってのに、ここまで厳しいチェックをするんだな」

「ここは俺らの縄張りだ。勝手に暴れられても困る」

「あぁ、そうだな。商品には傷をつけたくないからな」

「まぁそういうこった」

「改めて。俺は山木壮馬。本日は……」



 そんな会話をしてから名刺を差し出そうとするが、滝川の言葉で止められる。


「そういう社交辞令は必要ねぇよ」

「そうかい。そっちがそう言うのなら、割愛させてもらおう」


 山木は出そうとした名刺を胸ポケットに収める。



「ところで、隣の女は?」

「失礼した。日下部若菜といいます。山木代表の秘書兼ボディーガードをしております」

「ほう。女性のボディーガードとはまた粋な。」

「えぇ。実力、手腕を高く買ってのことです」

「いいねぇ嬢ちゃん。そそるねぇ」



 滝川の右横に立つ男が日下部のほうへ近づこうとするが、山木が日下部の前に歩み出て、男の前に立ちふさがるようにして止める。


「ナンパはご遠慮いただきたい。それに、彼女は仕事とプライベートの分別には特に厳しいんでな」

「そういうことだ。こちらも早いところ商談を進めさせてもらいたい。」


 二人で男を睨むと、日下部に近づこうとした男は観念して引き下がり、元居た場所に戻る。


「す、すいやせん」

「部下が失礼をした。申し訳ない」

「気にしないでください」



 山木壮馬と日下部若菜。この組織と取引に来た若手の仲介業者の代表とその参謀。それが今俺と邦岡さんが演じている役だ。

 彼らが売買している金の卸売りをしたいという内容のもとで交渉に来ている。というのが上が用意した大まかな台本だ。


 作戦の一部始終についてざっくりと説明しよう。

 黒宮、邦岡、天王寺、崎田、草薙が業者を装い建物内に。袴田、北島、山水高校の執行班の面々が合図で突入。その合図を、事前に潜入している総合管理局の者が出す。混乱に乗じて一網打尽にするというものだ。



「ではこちらから単刀直入に聞かせてもらおう」

「えぇ。どうぞ」


「そちらも知っての通り、こっちは金を始めとした貴金属類を扱うとこだ。聞けばあんたらはその卸を担いたいという話だそうじゃないか」

「そうなりますね」

「あんたらみたいなひよっこに、そんなつてなんかあんのかい?」

「まぁこれでもいい知り合いは多くてな。この間は数千万単位の金を動かす大仕事もしたぐらいだ。最近よく聞くだろ。若手の敏腕社長なんて響きをな」


「へぇー。最近の若いのは怖いもんだねぇー。俺の知り合いにもそんな奴がいたよ」

「そりゃどうも」



「で、どんなもんなんだ。その大仕事ってやつは」

「聞きたいか。いいぜ、教えてやるよ。ヤクだよ。ヤク」

「おいおい、マジで言ってんのかよおい。そんなこと言っちゃってよぉ」

「うちは何だって扱うさ。金でもヤクでも、それこそ何でもだ。だからこそいろんなつてがあるんだ」


 一呼吸おいて俺はこう続けた。



「それにあんたらの場合、危ない市場ってやつなのだろう。だからここまで言ったんだ」



 俺のその言葉でこの部屋に、一瞬の静寂と、すさまじい緊張感が走った。



『こちら一班。配置完了です』

『二班から四班。こちらも配置完了です』

「了解。合図があるまで待機。通信は緊急時に限定する」

『了解です』



 その言葉で一斉通信が切れる。


「小松主任。一班から四班、準備完了です」

「了解だ。美川に連絡入れろ。行動開始だ」

「了解です」



 オペレーターが再び通信回線を開く。今度は先程とは別の相手だ。


「零班。待機命令を解除。行動を開始せよ。繰り返す、行動を開始せよ」

『了解』


 野太い声とともに、わずかにであるが、エンジンの起動音もマイク越しに聞こえた。



「邦岡と黒宮は?」

「たった今、目標の建物に到着しました」

「分かった。引き続き頼む」



 場所は再び奴らの巣へ。黒宮たちがついさっき入っていった場所とは反対側。一台の小型のトラックが止まり、裏口から荷物を運び入れようとしているところであった。



「すみません。こちらの荷物。どこに運べばよいでしょう」

「ご苦労様です。中身は……備品か。ここを入って右手側二番目の部屋、第二倉庫にお願いします」

「ありがとうございます」


 ライトグリーンの制服に身を包んだ男性は、大きめのダンボールの箱が乗った台車を転がし、言われた部屋に荷物を運び入れる。



 現時刻、14時7分。

「役を演じているとはいえ、あれがあの子の本性みたいに思えるわねぇ。李梨華ちゃん」

「彼の正体はバーサーカーというわけか。面白い」

「それにしても、あんな策に付き合わされる紅葉ちゃんと悠君が不憫でならないわねぇ」


 人には裏表があります。

 

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