見せかけの自信
主任のこの一言で応接室内にはすさまじい緊張が走る。
「とうとうこの時が来たってことだ」
「そうですね。我々がここまで追ってきた以上、けりをつけるのも自分たちということですね」
「そういうこった、天王寺。ただ今回は我々のみではない。山水高校の執行班と、上から数名の応援と共にあたることになっている」
「他校の応援はわかりますが、上からの応援なんて異例ですね」
「今回の件は上でもかなりの重要項目だ。それゆえの措置だと言えよう。最も応援といっても、既に諜報員として潜伏しているんだがな」
「そ、そうなんすか」
驚きであった。まさかそこまでやっているなんて。
「山水高校のですか。彼等とは前にも一度、別件で協力していますよね」
「そうだな。彼等とはお互い友好的にやっているからな」
「山水高校って、向こうの方にあるの進学校でしたよね」
「あぁ。黒宮は転入したばかりだから、あまり知らないか」
「いえ。小さい頃はこっちで過ごしていましたから、そういう名前の高校があったことは知っています。俺の祖父が、昔そこに通っていたので」
「あぁそうか。なら、事細かい説明はいいだろう」
主任は一度咳払いしてから、スクリーンに映る画面を切り替えて説明を再開する。
「さて、話がそれてしまったな。今回の作戦を説明しよう」
「ウチから二名、相手団体との取引に来た。という名目で彼らに接近。交渉中の隙に残りのメンバーで施設を掌握する。というのが大まかな流れだ」
「それで、その二名というのは、もう決まっているんですか?」
「あぁ、上と相談して既に決定している。まずは邦岡、そして…」
その次に上がった名は――――
「黒宮だ」
「え!? 俺ですか!?」
「あぁ。お世辞でもなく、君の総合的な能力を上が高く評価しているそうだ」
「評価って、俺ここにきてからまだ一カ月と経っていないですよ」
「事細かく詳しいことまでは機密もあって言えんが、いろいろ調べたうえでのことだ」
「そ、そうすか……」
「黒宮君。もっと喜んでもいいんだよ。期待されているってことなんだから」
「そうはいっても崎田さん。俺にそんな大役が務まるかなんて……」
「蓮。主任がそう言ってるんだ」
「悠……」
「それに麗奈もいる。先輩の胸を借りても構わんのだよ坊や」
「あぁ。いつでも頼りにしてくれ」
「邦岡さん……」
こんな役が俺に務まるのかなんてわからないが、期待されたからには断れない。
「……わかりました。うまくいく保証はできませんが、任されたんです。やってみます」
「おう、その意気だ。それじゃあ各々の役割と配置について説明しよう」
皆が俺のことを鼓舞してくれるのだが、一人だけ納得してなさそうな顔をしていたのがちらりと見えた。
「邦岡と黒宮が商談中に、業者を装って数名が建物内に潜入。その後、事前に潜伏している上の連中がタイミングを見て突入の合図を出す。施設の内外両方から畳み掛ける。他五人の配置だが、崎田、草薙、天王寺。お前らは業者役だ。袴田と北島はこの場所で合図があるまで待機だ。
「「「「「了解です」」」」」
「よろしく頼む」
「ところで主任。質問いいですか?」
「あぁ、構わんよ崎田」
「業者役に何で三人も?」
「それなんだが、俺も詳しい理由は聞かされていない。その三人が内部に侵入するグループということになるんだが、会議の時だって心底気になって落ち着かなかったよ」
「「「……」」」
業者役にあてがわれた三人は、それで大丈夫なのかよと内心思っただろう。その理由は作戦の当日に明かされることになる。
主任はプロジェクターの電源を切り、照明をつける。
「今日話せることはこのくらいだ。また当日に打ち合わせを行う。今日は解散だ」
会議も終わってわらわらと解散した。その時に俺は、神妙な面持ちをしている天王寺さんの姿を見た。
その日の夜。自室のベットでスマホをいじる。少しでも気分を紛らわせたかった。
あの時こそああ言ったけどはっきり言って自信がない。
夕飯を食べているときも、風呂に入っているときもずっと作戦のことを考えていた。こんなに悩むなんてなんだか俺らしくないとさえ感じてしまう。
「はぁー。なんだか落ち着かねぇ……」
そうぼやいていると、ドアをノックする音がする。少し後でそのドアが開いた。
「お兄ちゃーん。洗濯物」
「あぁ、ありがと。どこか適当なとこにでも置いといてくれ」
「はーい」
希愛は洗濯物の山を部屋の中央のテーブルの上に置く。そのまま部屋を立ち去るのかと思ったが、何やらベットで横たわる俺のことをじーっと見ているようであった。
「な、なんだ希愛。さっきから俺のことずっと見て」
「いーや。なーんか今日のお兄ちゃん変だなーって思って」
「そ、そうか? いつもと何ら変わりないと思うが」
「うーそだー。今日一緒に帰った時もご飯食べてる時も、お兄ちゃんずーっと難しい顔してるんだもん」
「そんなことないって」
「うー……てぇえい!!」
突然希愛は俺のベットに飛び乗り、俺の身体をくすぐってくる。
「ちょ、ちょいやめろおい。あひゃひょい……」
もはや自分でも何言ってんのかわかんないような笑い声をあげてしまう。
「あははー。お兄ちゃんやっと笑ったー!」
「おまえ、あんなことされりゃ笑うっての……」
「それで。何か吹っ切れたものはあった?」
「さぁな」
少々笑いながらそう答える。体制を直してから今日あったことを希愛に話した。
「詳しいことは言えんが、近く執行班の任務があってな。初めてのことでもあるから緊張してな」
「ふーん」
「……気にしてた割に反応薄いなおい」
「どーせ執行班のことだろうなって思ったよ。お昼休みの時は全然そんな顔してなかったもん」
「ならわざわざ聞くな」
「だってお兄ちゃん困った顔してるもん。気になるんだもん」
「まぁ困ってるって言えば違ってないかな。その任務で重要な役回りになってな」
「どんなもんかなんてわかんないけど、なんかお兄ちゃんってそういうのって向いてなさそう」
「言ってくれるなおい」
「だってそうだもん。……詳しいことは知らないけど」
「せめて建前でも、根拠の一つくらい考えてから言えよ」
「はいはい」
「とにかく。そんなにお兄ちゃんなんてらしくないの。小さい頃みたく真っすぐにいればいいじゃん」
「あのなぁ……。俺だってもう十七の高校生だぞ。考えなしに突っ込んでも解決しないことぐらいわかってるっての」
「そうじゃなくて。難しいこと考えるのがらしくないって言ってるの」
「だからなぁ……」
今度は希愛が俺の手を優しく握ってくれる。
「はいはいやめやめ」
「……わーったよ」
「それでいいの。馬鹿正直なお兄ちゃんで」
「希愛、お前俺の事弄んでねぇか?」
「そんなことないよ」
「お前ももうちょい可愛いやつだと思ったがねぇー」
「あーっお兄ちゃんだって私の事からかってる!」
「兄なりのお返しだよ?」
「やっぱり意地悪だぁ!」
その後はガキの頃のようにじれあっていた。取っ組みあったり、くすぐりあったり。そうしているうちに悩むことさえ忘れていた。
「って。何だかさっきまで考えてたことがアホらしく思えてきた」
「ただ遊んでるような気もするけどね」
「いいんだよ」
「そ。じゃあ私もう寝るから」
「あぁ、あんがとな」
「ど、どうも」
顔を赤くしながら希愛は部屋を出て行った。
いちゃこらして疲れたからか、その後は何も考えることなくゆっくりと眠れた。
「あぁは言ったが、黒宮には荷が重いかねぇ。やっぱり……」
「それ決めたの上ですよね。主任」
「天王寺。それはそうだが、上の考えることってのはよくわかんねぇんだよ。」
「(入って半年くらいの僕が言うのもあれだけど大丈夫なのかなこの組織)」
仕事は真面目です。




