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奮起せし頃合い

 校内新聞の騒動から休みを挟んで数日。執行班としての仕事も、軽いものでありつつもこなしながら過ごしていた。


 ある日の朝。目覚ましのアラームで目を覚まし、カーテンを開ける。まぶしい日の光が部屋の中に入り、俺の意識を覚醒させてくれる。制服に着替えてから、何気なく充電を終えたスマホに手を伸ばしてみると、メールの通知が入っていた。

 確認してみると小松主任からのものであり、内容はこうだ。



 ”本日の放課後応接室に集合せよ。”



 簡潔に。ただその一文であった。


「こんだけ?」



 集合せよ。という文面を見るに執行班の他のメンバーにも同様の内容で送信されているのだろう。

 小松主任がどういう意図をもってこういうメールを送ったのかはわからないが、放課後になればわかることだ。そう思って制服に着替え、階段を下りた。




  その日の昼休み。今日は弁当を持ってきていないので、食堂で将星と昼食をとっていた。カレーをほおばりながら、彼と他愛のない話をする。


「ふーん。色々大変だったのなー」

「他人事みたく言わないでくれ。結構大変だったんだよ」

「まーまーわかってるよ。期待のスーパールーキーさんよ」

「何だその通り名は。誰が広めた」


「広めたというか、班長との手合わせを見ていた人らの一部がそういうこと言ってるって話らしい。実際あの人と能力込みでやりあえる同年代の人って、この辺だとなかなかいないからね」

「そ、そうなのか。というか天王寺さんで思い出した。最近な……」

「どうしたんだ?」


「毎日とまではいかないんだが、放課後に天王寺さんが稽古の相手をしてほしいって頼みこんでくるからよ。おかげでくたくたなんだよ」

「お、おう。というか、そこまでやれるってなんか格闘技の経験でもあるのか?」

「いいや。俺は単に運動神経がいいってだけだ。強いて言うなら、小さいころやんちゃで、よくケンカとかに首突っ込んでたってくらいだ。」

「それでよく……。あぁでもお前。この間の体力テストの結果、どれもめちゃくちゃ成績良かったもんな」

「それって関係あんのかね。あぁ言っとくが、他人にケンカを売ったことはないからな」

「お前はそんな風には思えねぇっての」


 勝手に買うことはあっても、自分から売るようなことは一度もない。



「もともと争いごとは嫌いなんだよ。余計なことには関わりたくない。お前だってそうだろ」

「当たり前だ。ていうか、だったら何で執行班入ろうなんて思ったんだよ。スカウトされたらしいとはいえ、入るは強制じゃないんだぜ」

「まぁそうだが……今になってみりゃ何でだろうな」


 無論執行班になった以上、これから先様々な問題、いざこざにかかわることになるだろう。俺としては、できるならそれを避けたかったであろう。

 それなのに俺は執行班に加入した。

 すなわち、それらと向き合う選択をしたのだ。その場の勢いなのだろうか。それが本意なのか。結局のところもやもやしている。


「おいおい。当の本人がそんなんで大丈夫かよ」

「何もおろそかにしてるって意味じゃない。やると決めた以上は、相応の責任は感じているさ」

「なーらいいんだけど」



「隣いいー?」


 左のほうから女子の声がした。振り返ってみると、それは俺が学院で一番よく知る人物であった。


「あぁ、構わんよ。って希愛か」

「別にいいでしょー」

「ダメとは言ってないだろ。それに……」


 希愛の横にはもう一人の人物がいた。


「南原さんもか」

「ど、どうも。黒宮先輩」

「あれ? 夏鈴ちゃんのこと、お兄ちゃん知ってるの?」

「知ってるというか、ちょいとな」

「ふーん」



 俺と南原さんは軽くアイコンタクトすると、お互いニコッと笑う。その後、希愛が俺の左隣に座り、テーブルを挟んだ向こう側、将星の右隣の椅子に南原さんが座る。


「お隣、失礼します」

「あいよー。どうぞどうぞ」

「希愛と仲良くしてやってくれ。ポジティブな分退屈しないと思うからさ」

「はい。ありがとうございます」

「お兄ちゃんって。お前妹なんていたのか」


 一時会話の輪から外れていた将星が割り込んでくる。俺はそれに応答し、仲介役となるように、互いのことを紹介する。


「あぁ。そんで希愛、こいつは俺の友人の扇将星だ」

「よろしくねー」

「よろしくお願いしまーす。で、お兄ちゃん。今日の放課後なんだけど……」


「あぁ、悪い。執行班がらみで呼び出しがあってな。悪いが都合がつかん」

「そっかー。執行班ってやることづくめで大変だもんね」

「頑張ってください。黒宮先輩」

「ありがと」


 後輩二人と話していると、テーブル越しに嫉妬の視線を感じる。


「やろー。かわいい妹ならいざ知らず、女の子の後輩にそういうこと言われるのだけでも羨ましいぞおい」

「言ってろ言ってろ」


 少々ドヤ顔で将星に言ってやる。正直なところいい気味であるがそこは表情に出さないようにする。


「お兄ちゃん時々意地が悪いんだよなー」

「そういうこと他人の前で言わんでくれ」

「そういうような言動をしたのはお兄ちゃんじゃない」

「そこは……うむ」


 すみません。大いに反省してます。そう心中で言っておく。

 そんな感じでいつもとはまた違った、賑やかなお昼休みを過ごした。



 放課後、クラスメイトでもある崎田さんとともに応接室に来ると、他の五人が既に揃っていた。


「おや、君達で最後だな」

「もう皆さんお揃いですか。やっぱり主任からのメールですか?」

「言わずもがなだ。というかあの人も相変わらず、なんだがな」


 邦岡さんは少々困ったような顔でこう続けた。


「主任は、人をメールや電話で呼び出すときはいつもああいう感じなんだ。来てくれとだけ書いて、要件は一切伝えない」

「そうなんですか」

「そうなのよぉ~」


 ゆるーい口調で袴田さんが相槌を打つ。


「僕も最初は混乱したよ」

「私もー。最初は急いでいて伝え忘れたのかと思っちゃったよー」


 悠と崎田さんもそういうことには苦労していたようだ。


「ふっふっふ。我にはそのくらいはお見通しよ」


 一人、明らか風格の違う人物が。


「じゃあ北島さん。今回俺らが呼び出された理由もお見通しってか」


 右手で顔の左半分を隠すようにして、指先を額に置いた構えで少々プルプルした後、彼女はこう答えた。


「……わからん」

「ならそういう態度とるのはやめろ」

「そういうのではない。あとリリーシェと呼びたまえ」

「いえ、結構です」


「黒宮君、李梨華ちゃん相手だと、なかなか辛辣だねぇ……」

「まぁ確かにな。あの件も崎田から聞いたがお前、時々容赦ないところがあるな」

「そ、そうですかね? それはそうと、邦岡さんたちも、理由はわからないんですか」

「おそらくなんだが……」



 天王寺さんが口を開いたあたりでドアの開く音がして、一人の男性が入ってくる。


「おう、全員そろっているな」


 小松主任が執行班七人のいる応接室に入ってくる。彼の左手にはタブレット端末があった。


「さてと、天王寺の奴には事前に簡単な話はしているが、我々が長いこと追っている金の不正売買を行っている組織についてだ」

「班員全員を集めたということは、大きな進展があったということですか」


「まぁそんなところだ。口で言うより見てもらったほうがいいだろ。おい黒宮、ちょいと用意している間にカーテン閉めろ」

「あ、はい」



 一番窓に近い場所に座っていた俺は、主任にカーテンを閉めるよう言われたのでソファーから立ち上がってその通りにする。その間に主任は部屋の電気を消し、プロジェクターの用意をしていた。カーテンを全て閉め終えて、元居た場所に戻るとちょうど準備が終わったところであった。


「さてと、言うべきことから先に言わせてもらう。遂に奴らの巣を見つけ出した」


 その言葉で続々と声が上がる。


「ほ、本当ですか!」

「それで、どこに……」

「遂にか」


 それに困惑したように、主任が遮るように話をつづける。


「落ち着けお前ら。今から順を追って説明する」



 主任はタブレットを操作する。プロジェクターによって映し出された画面にはどこかの地図と二人の男性の顔写真が映し出された。地図のとある一転に赤い点が打たれている。


「この赤い点の場所が奴らの巣だ」

「ここって、前に俺らが見回りをしていた場所からそんなに遠くないな」

「あぁ、本当だ」

「そしてこの二人がリーダー格とされる人物だ。お前らに向かって左から羽田零次、滝川陽介だ」

「今まで殆ど有力な情報が少なかったって状況だったのに、急な進展ですね」


「黒宮と草薙が得た情報が大いに役立ってな。いい仕事をしてくれた」

「ど、どうも」

「見つけたのはただの偶然ですよ」



「と、本題はここからだ。ここまで突き止められたんだ。近く、作戦を決行する」

「どうしたの紅葉。首傾げて」

「真琴ちゃん。これは重大な問題なんだけど……」

「唐揚げ定食と生姜焼き定食。今日どっちがいいだろ?」

「……(えぇぇ)」


 とても大事なこと。

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