ああ、何とやら
かくして捕まえた榊千尋を応接室まで連行(?)する。あれだけ逃げ回っていた彼女であったが、流石に五人、それも全員能力者で取り囲んでいるからか異様なほどに大人しくしていた。応接室まで行く途中、その光景が異常だからだろうか、周りの視線が否応に突き刺さる。
「なんだありゃ」
「何やってるんだ」
「またあいつか」
「懲りないな……」
誰が何を考えているのかなんて知ったものではないが、時折そんなこと言ってるのが聞こえてくる。周りの目を気にするのはやめにしてとにかく歩き続けた。
気づけば目的地に到着し、六人が室内に入る。悠と北島さんが入り口の見張り。俺と崎田さんは当の彼女から話を聞く。南原さんは崎田さんの右横に座っている。全員位置についたところで崎田さんが話を切り出す。
「さてと……私と黒宮君が言いたいことにはだいたいわかるだろうとは思うけど」
「……はい」
「あの新聞作った真意について、本人の口からききたいと思う。」
「ハッキリ言います。興味本位です」
「興味ねぇ……」
「部室でもそういうことを話していました」
南原さんがフォローを入れる。表情を見る限りそのようだと考えていいだろう。
「そうか。ただ問題は、そういうことを俺らの知らないことで勝手にやっていたということだ。」
「すみませんでした……」
一言謝った後、榊はテンションを変えてこう切り出す。
「でもしかし、スクープを追い求める身としては一刻も早く情報が欲しいのですよ!そうとなればこうして動くことだって少なくは……」
「だからといってそれを快く容認することはできん」
「で、ですよねー」
「まず俺が言いたいのはこういう勝手なことするのは止めろ。それが第一だ。」
「なら改めて、正式にお願いします。編入生の特集としてお話を伺わせてもらえませんか!」
中々タフなメンタルしているな。と内心思う。崎田さん達が厄介だと言っていたのもわかるような気がする。まぁあん時将星が言っていたように、多少なりとも応じたほうがいいだろう。
「仕方ない。俺もそこまで鬼じゃない。話せる範囲でならインタビューくらいは応じてやる」
「ホ、ホントですか!」
榊の目が光を取り戻したかのように輝きだす。
「ただし条件は設ける。一つはもう俺らの知らないとこでこういうことをやらないこと。もう一つは捏造しないこと」
「あ、はいぃぃ……」
目の輝きは俺の言葉で再び消え失せていく。何でそこで縮こまるんだこいつは。そう思っていると隣に座る崎田さんが耳打ちをしてくる。
「実際何度かあったんだよ」
「……」
「とにかく。インタビューさせてもらえるということでよろしいですか」
「それはさっきの俺の要求をきっちり呑んでくれるかと、今後のあんたの振舞い次第だ」
「善処します」
「あぁ、あと。南原さん。あれ、こっちに渡してくれないか」
「あれって、あれですか」
「あぁ。頼む」
「はい」
南原さんは制服のポケットから小型の黒い機械を取り出し、俺に手渡す。
「一応言質は取ってある事は忘れないでほしい」
「げぇぇ!?」
「げぇぇって何だおい」
「あっ。すみません」
「黒宮君。こういう面倒ごとは嫌いって言ってた割に、結構容赦ないね……」
「嫌いだからこそだ。より大事になって、もっと面倒なことになるほうが俺にとっちゃごめんだね」
「そ、そう」
今後の行動の改善を条件に、俺は二十分ほどの取材に応じることにした。
「さてと、ご協力ありがとうございました」
「今後は俺らを敵に回すようなことはしないでくれよ」
「わかっています。それに今思い返してみると……うぅ」
「どうしたんです?」
「あ、あぁいやいや何でもない、何でもないの」
「そう。ならいいんだが」
「じゃあ私は失礼します。執行班の活動、頑張ってくださいねぇー」
突然何かにおびえるかのように応接室を後にしようとする榊。その理由はすぐに明らかになることであった。
榊が立ち去ろうとドアノブに手を伸ばそうとする寸前、応接室のドアが開く。退室しようとしていた彼女の身体は、入ってきた誰かの弾むような柔らかい感触にはばまれる。
「むにゅう……」
彼女の身体はそのままトランポリンで弾んだように後ろに動き、バランスを崩してお尻から倒れこむ。
「あらぁ……ごめんなさい」
「いえ。私のほう、こそ……」
応接室に入ってきた人物が誰なのかに分かった瞬間、榊の顔が一気に青ざめていた。眼からハイライトが消えていき、恐れていたことが現実になったというそんな感じであった。そんで、その人物なんだが――――
「袴田さん。どうしたんです? 忘れ物でもしたんですか?」
「ううん、創作活動に行き詰まっちゃって。ここだと落ち着くから作業が捗るの。それにしても……」
「はわわわぁぁ……」
「まさかこぉんなところであなたと会うなんて珍しいこともあるのねぇ……」
「え、えぇ。そうですねぇ……」
なんだろう。今の袴田さんが恐ろしく、怖く見えてくるんだが。
「それでぇ、どういったご用事で?」
「編入生の記事作成にあたって取材を……」
「あらぁ、そう。嘘ってわけじゃなさそうだけど、随分と私のかわいい後輩を困らせてくれたみたいねぇ……」
「あわわわわわわ……」
彼女の体が震えている。袴田さんの存在感がより一層、何かまがまがしいオーラでも出ているかのような気がした。まるでスズメと鷹、猫とライオンのような圧倒的力の差を感じさせる。
「相変わらず懲りないのねぇ。これはまた教育の必要があるわねぇー」
「あ、あの。お願いしますからお願いしますから……」
「うふふふふふふふふ……」
袴田さんが両手の指先を、何かわしづかむかのようにして動かしながらじりじりと榊のほうへと歩み寄る。それと同じく榊も後ろに座り込んだままの姿勢で逃げるように後ずさる。
顔は笑っているが、あれは明らかに裏があると言わんばかりの面持ちである。
てか教育って何するつもりなんだあの人は。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
榊さんの目が明らかによどんで見える。絶望に満ちたそんな顔をしていた。
「さぁ。観念しなさぁい……」
「いいいいいいややややああああぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
その絶叫の後、なぜかエロい喘ぎ声が聞こえてきたのは…うん。聞かなかったことにしよう。
ここから先のことについては、あまり触れないことにしておきたい。放送できるのかとか、そういうのかはわからんが。もしかしたら見せろ、事細かに内容を教えろというやつもいるだろう。
こんなメタな発言をしている場合でもないのだろう。こんなものはただの現実逃避にすぎないのだから。いや、考えるべきことはそんなことではないだろう。
「なぁ、悠」
「何だい」
「お前たちがあぁ言っていた理由が少しばかりわかった気がするよ」
「ドウモ」
「南原さん。アレハミチャイケナイヤツ。ウン」
崎田が両手で目を覆うようにして、彼女の視界を遮る。
「さもなくば、災いが起こる……」
「あ、はい」
自身等の目先でで繰り広げられている光景から目を背ける執行班の二年組+一名であった。
「時には逃げねばならない時がある」
「時に眼を背けねばならぬ時がある」
「時に認めねばいけない時がある」
「「「そういう事だよ」」」
「意味わかんねぇ」
ごもっとも。




