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甘いも苦いも使いよう

 祖父母の隣の家。真琴姉こと柏葉真琴の住む家のインターホンを押す。隣の家ということもあり、小さい頃からよく一緒に遊んでいた。俺と希愛が関東の方に引っ越すことになってからも、度々連絡を取っていた。

 暫くして一人の女性が出てきた。



「はい、どちら様で……あら~いらっしゃい。蓮君、希愛ちゃん」

「どうも。お久しぶりです」

「そういえばこうして顔を会わせるのは久しぶりだったわねぇ。以前会ったときはご両親の葬儀の時だったから、こうやってお話というのはできなったから……」


「気を使っていただきありがとうございます。でも過去のことでずっとくよくよしていたら、きっと父さんも母さんも悲しみますから」

「あらあら、蓮君は強いのね」

「もう俺も希愛も、子供じゃないですから」



 俺が真琴のお母さんと話している横で、希愛は落ち着きなくきょろきょろと周りを見回していた。



「ところでおばさん。真琴姉いますかー?」

「えぇ、部屋にいると思うから呼んでくるわね。せっかく来てくれたんだから上がって待ってて」



 出迎えてくれた真琴の母親に、家に上がるよう促される。



「おじゃましまーす。ほらほらお兄ちゃん」

「だから引っ張るな」



 荷解きしなくちゃならんけど、どうせ運び込むのを待たなきゃならんし、少しくらいはいいかと自分に言い聞かせた。

 恐らくそうしなくとも、希愛に引っ張られて家の中に入ることは確定しているわけだが。


 また妹に引っ張られるように、俺は真琴の家に上がらせてもらった。




 紅茶とクッキーを用意してもらい、リビングで真琴が来るのを待つ折となった。一分程待った後、彼女は姿を現した。



「真琴姉ー久しぶりー!」

「あらー、希愛ちゃんしばらく見ないうちに大きくなったのねー」

「えへへー」


 キャラメル色の長い髪をした少女。彼女が柏葉真琴だ。希愛は彼女のことを真琴姉と、本物の姉のように慕っている。


 真琴は飛び込んできた希愛を、ペットの猫でもめでるようになで回していた。



「あのねー。私来月から真琴姉の後輩になるんだよー!」

「希愛ちゃん兼城学院に入学するの?それじゃあ私は先輩だねぇ。思う存分頼ってくれたまえー」

「へっへっへー」


「……。あのーなんか忘れられてないか俺」

「そんなことないよ。ところであんたは高校はどこに入ることになるの?」

「それなんだが、希愛と同じ兼城学院に編入することになっている。お前と同じクラスになるかもな」


「そっ、そうなの?」

「急なこととはいえ、そこまで驚くことはないだろ。別に付き合いがどうこうっていうわけじゃないし」



 希愛が進学するという兼城学院は、十年ほど前に設立されたばかりの比較的新しい学校だ。

 色々と資料を見ながら、通学の利便も考えて決めたのがこの学院だ。……なんてことにはなっているが、理由の大半は真琴が通っているからに尽きる。まぁ知ってる人がいるっていうのは、安心なことなんだろうが。


 かくいう俺も大して変わらないのだが、俺も編入にあたって色々考えるのも面倒なので、それなら希愛と同じ学校にしようかという安直な考えにまとまった。もちろんちゃんと考えたが故のことだ。




 あれやこれやと話していると、三人の意識がテレビのニュースに向いた。


 ここで速報が入りました。渋谷区の住宅街にて、先週世田谷区で起こった能力者の暴動事件に関与していたと思われる鷺村耕作容疑者、23歳が現場付近の住民の通報で駆け付けた警察官に取り押さえられました。

 この事件にかかわっていた鷺村容疑者の同胞と思われる、白澤壮馬容疑者34歳については現在も逃走中とのことです。

 現場の深川アナと中継がつながっています。……。




  そのニュースの報道の後、雰囲気が少し重くなる。同時に話の話題も切り替わる。



「最近ホント物騒になったものだよね。都市郊外とはいえ何か巻き込まれることはなかったの?」

「そのあたりは大丈夫だ。俺達二人はそういうことにはな」


「でもあんたのお父さんって能力の研究してたんでしょ? 実際その……あったわけだしさ」

「その節についてはもういい。あまりくよくよしないようにしている」


「そっか。っと。せっかくこうして直接会って話をしているんだから明るい話しようか」

「うんうん。希愛はこういう重苦しい話はきらーい」


  暗くなってしまった雰囲気を明るくしようと、真琴が気を使ってくれる。と言っても話の主題が能力であることに変わりはない。



「さて、結局能力関連になるけど、使っている感覚ってどうなの?」

「どうって言っても、なんと言えばいいのやら?」

「なんか楽しそうだなーって思うのよ。能力使えるの。面白そうで」

「実際いいもんでもないと思うがな。色々と面倒ごとはある」

「でもあなたたちは能力者なんでしょう」

「まぁ、俺も希愛も使えるって分かったのは結構最近のことだからな。と言ってももう数年は経ってるか」



 能力についてなんだが、先天的に発現する者と、後天的に目覚める者と分かれているそうだ。俺と希愛は後者にあたる。


 ある考えによれば、能力は脳の成長に応じて発現するものなので、その関係上先天的なものでも発現するのは五、六歳頃になるらしい。そうなると十代になって発現する者が後者にあたるというのが大衆の認識になるだろう。


 能力者のほぼ全員は十代を終える前に発現する。それ以降に能力が発現するのは極めて珍しいというか、ほぼないといっていいだろう。



「真琴姉も、もしかしたら突然能力使えるようになったりーなんて」

「どうだろ、まだ若いといってもなー。でもこんな能力だろうなーって考えるのはちょっと楽しいかも。希愛ちゃんって確か……」

「よーし。ならやってみようかー」



 そう言うと希愛は、テーブルに置かれた自分が飲んだ後のティーカップに手のひらを向けるように構える。すると次第にティーカップがふわりと浮いて、十センチほど上の空間でふわふわと漂っている。



「おぉー浮いてる浮いてる! 念力だったっけ?」

「そんな感じかなー」


 その後、浮かんでいたティーカップはゆっくりとテーブルの上に戻される。


「すごいもんねぇ……」

「これでもまだほんの一部だけどねー」

「ほえぇー。ところで蓮はどんな能力なの? 何度聞いてもはぐらかされるんだもん」

「どうって言ってもなんと説明すればいいんだか……。しいて言うならこう……」



 どう説明するべきか難しいものだった。

 もちろん自分の能力を理解していないわけではない。きっぱり言ってしまえば単純なのだが、見せてくれと言われて希愛の念動力のように単独でやって見せてわかる能力ではない故、どうしたらいいものか。



「大体の能力者相手であれば何とかできる能力…かな」

「「……なにそれ」」



 真琴だけでなく希愛からでさえ、なんだそりゃといわれる始末。

 むしろ俺自身もどうしてこんな言い回しをしたのだろうと後悔したくなった。説明、というより実証するのがこうも難しいとなると。


 そうこう思い悩んでいると、真琴が希愛のほうに向かって――




「裁判長。検察側は被告人に対し、詳細な説明を要求します」

「いいでしょう。お兄ちゃんもとい被告人。証言をお願いします」



 何で言葉足らずなだけで俺は犯罪者みたくなってるんだ。



「……黙秘権を行使します」

「被告の申し上げを却下しまーす」

「ひでぇ!?」



 妹と幼馴染は無慈悲であった。



「わざわざ隠す理由ないでしょう蓮」

「い、いやーその……。あぁそうだ。そろそろ搬入も終わっただろうから、荷解きしないとなー」

「あーお兄ちゃん逃げるつもりかー!」

「頼むから執行猶予を…って俺は犯罪者じゃねえし!それにいい加減に作業始めないと今日部屋で寝れなくなるぞー」


「おう、ナイス乗り突っ込み」

「うぅぅーー」



 希愛が猫の威嚇みたいにこちらを睨んでくる。



「兎に角ここでやってみても多分もやもやするだけだと思う。時間もないし、近いうちに何とかする」

「絶対よ。猶予の条件として、フォルテでパフェ奢りね」

「私も。真琴姉と二人分ね」


「というわけで頼むよー蓮」

「うぅ……承知した」



 猶予の条件として二人分のパフェを真琴と希愛に要求された。

 フォルテというのはここの近くにある喫茶店の名で、小さい頃は度々訪れていた。

 まぁ説明を拒むような態度をとったのは俺自身なのだから、仕方がないと自分に言い聞かせることにした。




 引っ越してからしばらく経って、四月になった。そして明日から新学期が始まろうとしている。玄関で靴紐を結んでいると、希愛がやってきた。



「あれ。お兄ちゃんどこか行くの?」

「明日から編入することになるからな。向こうでいろいろ話をしてこないといけない」

「私も行く」

「お前は普通に入学するからいいだろ。それにそういう楽しみは明日に取っておけ」

「むうぅー」



 希愛が頬を膨らませながら俺を睨んでくる。でも仕方ないとわかってくれたのか、「わかった。いってらっしゃい」と言って身を引いてくれた。



「おりこうさん。それじゃいってきます」

「希愛ちゃーん。私も能力使ってみたーい」

「そうは言っても、どうしようも…」

「ねぇー、何とかしてよー!」

「ガキかお前は…」


 可能性はあります。…多分。

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