探り合い
悠には学院の正門で張り込んでもらい、最終ラインとする。万が一逃げられてしまうのを防ぐためだ。
今いる五人の中で一番警戒される可能性の低い南原さんが、先に彼女のいる新聞部の部室に入る。気を引かせているうちに残り三人でアプローチするというのが少ない時間で考え出した作戦だ。
「もしもの場合はアドリブになるけど、まぁ何とかなるよね?」
「元々この事案がアドリブみたいなもんだからそんな大差ないだろうが、大丈夫なのか?」
「アドリブもこなせてこその執行班だからね」
「そうかい」
「じゃあ僕は先に行くよ。用意出来たら連絡する」
「了解」
悠は一足先に応接室を出て行った。少し時間をおいてから残りの四人もその場を後にした。
二分程して、悠から連絡が入った。
『こっちは用意できたよ』
「わかった。彼女がもうそっちに来ていたりっていうのはないか?」
『いいや。それはなさそう』
「そうか、こっちは段取り通りやる。もし彼女を見かけたらすぐに連絡くれ」
『りょーかい』
「それで、新聞部の部室はどこにあるんだ?」
「一階の南校舎。最悪窓から逃げられる可能性もあるから李梨華ちゃんには外を張り込んでもらうつもり」
「挟み撃ちって算段か」
「そういうこと」
廊下をしばらく歩いたところで足を止めた。
「この先曲がったところが新聞部の部室。じゃあ南原さん。いってらっしゃーい」
「はい。いってきます!」
「私達は近くの食堂で時を待つことにするよ。」
「気を付けてな」
南原は部室のドアをノックする。二回ノックした後、半音ほど置いてからさらに一回、また間隔をおいて今度は三回。
「あいよー。どうぞー」
少しして返答が聞こえ、鍵の外れる音がする。それを確認して、南原はドアノブを回して部室内に入る。
「おぉーお疲れー。何かいい情報は入った?」
「すみません。めぼしいものは何も……」
「まぁそういう日もあるって」
南原は部室中央のテーブル近くにあった椅子に腰かける。
「ところで榊さん。お聞きしても?」
「んー? なんだい?」
「どうしてここまでして編入生さんのことを?」
「気になるから。それ以外の理由はない」
「ず、ずいぶんとまぁ……」
「あの記事だってまだまだ未完。まだまだ情報が必要なのだよ」
「でもあの人執行班ですよ? 後の事考えたら……」
「それを気にしちゃ新聞は書けない」
その後は、榊は持っているボールペンを右手の指先でいじりながら、南原はスマホを操作しながら他愛もない会話をする。
「変わってますよね。榊さんも」
「変な言い方しないでもらいたいなぁー」
「あなたが言いますか……」
『変わってますよね。榊さんも』
『変な言い方しないでもらいたいなぁー』
「……」
北島さんが新聞部部室での二人の会話を、コードレスのイヤホン越しで盗み聞きする。俺たちは食堂の自販機で買った紙コップの飲料を飲みながら、時を待っている。
「というかこっちも盗聴するのか」
「下手に携帯で連絡を取ろうとすると、かえって怪しまれるかと思って。目には目を歯には歯を―って言うでしょ?だったら耳には耳ってやつよ。彼女の制服の裏に、こちらで用意したものを仕込んだの。それで向こうを探って、突入のタイミングはこちらで判断するの」
「なんだそりゃ」
「私たちだって執行班。やられっぱなしってわけにはいかないの」
「お、おう……」
「李梨華ちゃん。向こうの状況は?」
「ふっふっふ。余興に酔いしれているよ」
「えーと……。わかるように説明してくれ。マジで頼むから」
「警戒心はほぐれて呑気に話している。ってさ」
「なんで分かるし……」
厨二病である彼女の言葉は、俺には理解できない。
「まぁおんなじ組織でやってきたからね。これくらいの理解はできないと」
「そういうことよ」
「入って一週間程の俺が、理解できるとお思いで?」
「慣れだよ慣れ。いずれは其方にもきっと……」
「うん、たぶん無理だと思う」
「最後まで言わせなさいよ!」
ばっさりとそう言い切ってやった。理解できないと。
「まーまーそれより。こっちもそろそろ用意をしたほうがいいよ」
崎田さんの目の色が変わった。初めて会ったあの時も、頼んだとはいえ俺に炎の刀を向けた時も、そんな目をしていたのを覚えている。
普段こそのんびりとした印象ではあるが、こういう時の崎田さんは凛とした顔付きになっており、何とも頼りになるって感じだ。学院内外で注目されるのもなんとなくだがわかる気がする。
「打ち合わせ通り李梨華ちゃんは裏から、私と黒宮君が正面から行く」
「了解」
「御心のままに」
三人が食堂で話している頃。榊千尋はやや落ち着かない様子であった。
「どうしたんですか? さっきからなんとも落ち着かないような感じしてますが?」
「そ、そうかい? ちょっとお花摘み行ってくるよ」
「あぁ、はい」
そういうと榊は部室を出ていった。ドアが閉まった瞬間、小走りでいったのが南原には何となくではあるがわかった。彼女はそっとメッセージを送った。
「やっぱり、警戒されてるのかな…」
「あれ? 南原さんからメッセージが」
「嫌な予感がするが、内容は?」
「お花摘み行くって言って出ていきました。もしかしたら気づかれている可能性があるかもしれません……。って」
「急ごうか、崎田さん」
「そうだね」
新聞部の部室に急ぎながらも、俺は愚痴というか本音を爆発させた。
「というか警戒心が強いとかいうレベルじゃないだろ! 普通はまず気付かないだろ!」
「彼女の能力は視覚の強化。あの警戒心の強さと相重なれば、中々お縄には掛けられないんだよ!」
「そんなことを今冷静に語らないでくれ! どうしようもないじゃないか!」
「遠くを見るのはもちろん、その気になれば透視だって可能。意識を極力そらしておくってそういうことなのー! でないとどうしようもないのー!」
「人はそれを無理ゲーだとかクソゲーだとかいうんだろうがぁぁ!」
「そこをなんとかこらえてぇ!!」
部室に向かいながらそんなことを言い合っていた。
部室に到着してドアを思い切り開けてみると、おどおどしている南原さん一人だけがいた。
「さ、崎田さん。黒宮さんも……」
「先手を打たれたかぁ……」
「す、すみません」
「気にしなくていいよ」
「どうするんだ? 作戦を今一度考え直す必要があるが?」
「それなんだけど黒宮君。一つ考えがある」
「なんだ? いい案でも思いついたのか?」
「いいかはわからないけど。彼女をあるポイントに誘導する」
「誘導か。分かった」
「おっとその前に…」
崎田さんは部室の窓を開ける。すると、いいタイミングで北島さんと窓越しで合流した。
「如何した紅葉?」
「作戦を練り直す。ひとまず南原さんをお願い。それと……」
手招きして北島さんを呼ぶ。そして何か囁いているようであった。
「ふっふっふ。承知した。我の力に不可能はない!」
「じゃあよろしく。一度生徒玄関で合流して。私と黒宮君で彼女を追いかける」
「わかりました。北島さん、よろしくお願いします!」
「任された」
南原さんと北島さんは合流のため、生徒玄関のほうへと歩いて行った。
「そういや、悠にも動いてもらうか? この際」
「そっか……。そうしよう。ちょっと待ってて」
崎田さんは通信を開いて、悠に指示を送った。それにしても通信がやけに短いのが気になった。
「おっけー。じゃあ行こうか」
「それがいいが、ずいぶんと単純な指示だったな」
「それでいいの。早く行こう」
「どうした? 悩み事か?」
「気にしないで~麗奈」
「そうか。ならいいが」
「(いいネタが浮かばない。こういう時はあそこに行くに限るな……)」
こちらもネタを欲しています。




