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それこそが真実

「草薙悠。ただいま戻りました」

「黒宮蓮。同じく」

「おかえりー」

「二人とも、お疲れ様」


 戻ってきたきた俺たちを崎田さんと邦岡さんが出迎えてくれた。


「あれ? 天王寺さんと袴田さんは?」

「二人とも今日は非番だから、あの後すぐに帰った」

「そうですか」

「主任は?」

「あぁ、もうすぐ来ると思う。いや、今来るところか」


 次第にこちらに向かってくるテンポの速い足音が大きくなってくる。そして扉越しの場所でその音は止んだ。



「すまない、遅くなった」


 小走りで来たのだろう。荒くなった呼吸を整えながら奥の机の席に座り、改めて俺と悠に向き合う。


「さてと二人とも。報告を聞こうか」



  口頭でできる報告を終えた後、主任から俺が拾ったものについて追及された。


「それで黒宮。お前さんが拾ったものってのは何だ?」

「あぁはい。これなんですが…」


 俺は制服の左ポケットからさっき拾った袋を手渡した。


「こいつは中々たいそうなものを。どうやって手に入れたんだ?」

「俺達が目を付けたスーツの二人組の男のうちの一人が落としていったものです」

「成程。お前さん運がいいな」


「そんなに重要なものなんですか?」

「こいつはサンプルみたいなもんだが、奴らの不正を暴くための重要な資料だ」

「不正ですか。密売ではなく?」

「まぁ密売ってのもある意味間違ってはいないが。そうだな……」


 主任はその袋を開けるとその一部を、白い手袋をつけた左手の手のひらの上に広げる。こうして直接見ると、本物の金粉に見えるが…。不正とはどういうことだろうか?


「黒宮。ちょっと手ぇ出せ」

「え? あ、はい」



 言われるがままに俺は右手を差し出した。すると主任はその右手に、先程の粉末の山を乗せた。


「素人が見た感じ、疑いようもなく本物だと感じますが……」

「そう思うだろ。だがこれが違う」

「どういうことですか」

「黒宮。お前の能力を使ってみろ。一発でわかる」

「能力を? いったいまたどうして」

「いいからさっさとしろ。すぐにわかるからよ」


 そういって主任は数歩後ろに下がった。


「は、はい。では……」



 金色の粉末の山を右手に乗せたまま、俺は能力を発動した次の瞬間――――――


「な、なんだこれ!?」


 その粉末は見る見るうちに輝きを失い、そして明らかに質量の少なくなった灰色の物体が俺の手の上にはあった。


「これ、ただの灰じゃないですか!?」

「はっきりとわかっただろう。能力によって金に変えられているんだ。そしてそれを独自のルートで高値で売りさばいている。密売だけでもたいそうなやりようだが、もともと明らかに金ではないものを金にして売っている。さらに罪を重ねてるってこった」


「ところで、どうして能力を使っているってわかったんですか?持ってみてもそうですし、目視では金と思うようなものですよ」

「以前押収した置物があってな。俺の仕事仲間が能力を使ってみたところ、金を偽造して作られていたという事実が発覚したんだ」


「金を偽造って。普通は聞かない響きですよ。それにしても、どうして能力を使うって考えに?」

「それはだな……」


 少し間をおいて主任はこう答えた。


「そいつの能力の誤作動だ」

「……」


 思いもよらぬ返答が帰ってきた。主任が口ごもっていたのは気づかなかったことにしておこうか。


「捜査の途中で、そいつが間違って能力を使ってしまってな……。しかし今考えればファインプレーだったのかもしれんな」

「そうでなければ、始末書どころの話ではないと思うのですが……」

「ま、まぁともかく。お前が拾ったそいつは貴重で重要な証拠品だ。お手柄だ」

「あ、ありがとうございます」


「これに加え、二人が撮った写真も上層部に提出する。おそらく近いうちに奴らの素性を明らかにできるだろう」

「それはよい限りです」

「今いない奴らにもこの進展は報告しておけよ。今日はこの辺で」



 主任が応接室を去った後。ソファーに腰かけ、邦岡さんの淹れてくれた紅茶を飲みながら室内の四人で話をしていた。


「黒宮。初日から大活躍じゃないか」

「そんな大活躍なんてもんじゃないですよ。主任の言うように運が良かったってだけです」

「だが、大きな進展となったんだ。もうちょい自分に自信を持ってもいいんだ」


「そうそう」

「三か月か。今まで進展がなかった分、長く感じるな」

「だがここからというべきだな。一層気を引き締めないとな」

「そうだね! 頑張ろっか。黒宮君」

「あぁ」



 ティーカップの紅茶を飲み切ると、立ち上がってリュックを背負った。


「では、お先に失礼します」

「お疲れさま」






「ただいまー」

「おかえりー、お兄ちゃーん」


 普段よりもゆっくりと、二十分程歩いて自宅に戻った。


「お帰り。お夕飯、もう少ししたらできますからね」

「ありがと。部屋で休んでる」


 もうこんな時間になっていたのか。そう思いながら洗面所で手を洗ってから二階の自分の部屋のベットに横たわる。


「にしても、疲れたぁぁ」


 こんなに疲れを感じたのなんていつ以来だろうか。いや、天王寺さんと交えたあの日もそうだったか。

 ともかく学校行事以外でこんなにせっせと動いたことなんてしばらくなかったであろう。平穏を願ってひっそりと生活していた前までの俺を変えようと、こうして執行班に入って何かの為に生活している。

 何かが何なのかは考えてみると難しいもんだが、答えは案外単純なのかもしれない。



「案外こいつのおかげなのか……」


 そんなことを考えつつ、起き上がって朝と同じようにペンダントに手を伸ばしてみる。



「……んなこたないか」



 再びペンダントを元の場所に戻す。今になって思ったことだが、何でこのペンダントのことを突然気にするようになったのか。

 夢を見たからなのか、自分で何か始めようと思ったからなのか、はたまた突然のふとした思い付きなのか。

 それ故に昔のあの出来事を思い出したからなのか。その答えなどわからない。


 悩んでいたら、疲れに増して否応に頭が痛くなってきた。もうこのこと考えるのはやめておこう。そんな時、階下から希愛の声がした。


「お兄ちゃーん! ご飯できたから早く降りてきてー!」

「あーい、いまいくー」



 さて、飯の時間だ。飯食って風呂入ってさっさと寝ようか。これから頑張らないといけないのだから。休めるときにはしっかりと休みたい。そう思って俺はゆっくりと階段を下りた。

「今日の飯が一層美味く感じられる。おばあちゃーん、御飯お替わり」

「お仕事の後のーってやつ? なんかおっさんくさいよお兄ちゃん」

「いいだろそういうこと言ったって……」


 労働の後の飯はいいものなのだ。

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