怪しき輝き
執行班としての最初の仕事は、学院周辺の見回りであった。
「こうして、街を歩くのってなかなか新鮮なものですね」
「確かにそうかも。僕も最初はそんな感じだったかな」
「それにしても案外平和なもんですね」
「そら普段から世紀末状態だったらやってられないよ」
「それもそうですね」
それならまた違うことになっているやもしれない。そんなもんは勘弁願いたいものだ。
「ところで。今までどんなことをしてきたんですか?」
「見回り以外だったら。スリや強盗の確保から始まって……一回他校の生徒らとの協力もあって密売班を取り締まったこともあったかな」
「結構なことしてるんですね……」
「そういう組織だからね。執行班は」
やはりいろいろやっているようだ。
「草薙さんはどう思ってますか? この組織」
「そりゃ誇りに思ってるよ。後……」
「草薙さんじゃなくて、悠って呼んでいいからね?」
「え? いいんですか?」
同じ学年とは言っても、執行班の中で見れば俺は後輩になるし、こうして話すのも初めてなわけだ。いきなり下の名前で呼ぶのは躊躇っていた。
「組織内じゃ先輩後輩関係もあるだろうけど、僕は学年も性別も同じだからさ」
「そうは言ってもですね……」
「気にしない気にしない」
本人がそういうのなら、甘えさせてもらうとしましょうか。
「……それじゃあ、ちょっと聞いておきたいことがあるんですけどいいですか?」
「なんだい?」
今執行班の面々では俺と悠の二人しかいない場なので、この際聞いてみようと考えたことがあった。本当はあまり触れないでおこうとは思っていたが。
「袴田さんのことについて」
「あーやっぱりそうなるかぁ。まぁ無理もないよね……」
「悠もだいぶ苦労してたのか?」
「まぁね。僕も執行班に入った当初は大いに苦労したからね。ほら、僕ってこういう見た目でしょ。おかげで袴田さんに結構いじられたよ。自分自身、容姿が嫌ってわけじゃないんだけど、女子扱いされるのはさすがにね……」
「あぁ……」
一理ありそうだ。178の俺から見る限り背丈は……160くらいかな。今こそ俺と同じ男子制服を着ているが、顔たちはもとより、高校生男子としてみれば小柄なので、女子の制服を着せても違和感なさそうだった。
「言いたいことだいたいわかるよ。一回女性服着せられそうになったから」
「マジですか……」
「マジです」
「すいません」
「謝らなくていいよ。袴田さんって、今でも何を考えているのかいまいちわからないからさ……」
「そうですか……」
「まぁ気をつけておいて。とだけ言っておくよ」
袴田さんについて話しながら歩いていると、ある光景を目にした。
「っと蓮。あのあたり。なんだか様子がおかしくない?」
「……あぁ確かに。なんだか怪しいなあれ」
俺たちが見かけたのは、二人組と話をしている、スーツを着た男性であった。
「何か話し込んでいるみたいだが、どう思う?」
「どうも何かありそうだね。あれは」
「みたいだな……っと。あいつら別の場所に移動するみたいだ」
「僕らも行こうか」
「あぁ……わかった」
二分ほど歩いたところ、人気の少ない場所に辿り着いた。そして彼らは何やら話を始めだした。それを俺たちは離れたところから伺っている。
「いったい何の話をしているんだ?」
「さすがにわからないな。でも口外したくないことなんだろうね、きっと。こういう場合、何かしらの取引をしている可能性が高いんだけどね」
「取引、か」
「明らかに格好の違う者同士が、人気のないところに場所を変えて話をしている。それだけでも怪しいと思わないかい?」
「それもそうだな」
詐欺とか商会の勧誘とかでよくありそうな光景だ。
「でも今はそういう可能性があるだけ。彼らがそういう取引をしているのか、見定める必要がある」
「そうだな……っておい、見ろ悠」
思わず声を上げそうになったが、今は身を潜めているということを思い出し、声をできうる限り抑えて悠に注意を促す。
「どうしたの蓮」
「何かを手渡そうとしている」
「どれどれ。ホントだ。あれは……」
「あぁ、間違いないかもしれない」
俺と悠の意見が一致した。スーツの男が顧客と思われる男性からお金を受け取っているのが確認できた。しかし何を売っていたのかまではわからなかった。
「明らかだね。カメラに収めておく」
「了解。もちろん報告は必要なんだよな」
「うん。学院に戻ったらね。っとまた移動する。取引も終わって別れるみたいだ」
「両方追うのか?」
「もちろん。二兎を追う者は一兎をも得ず……なんていうけど、今は二人いる。あのスーツの男性は僕が追いかける。蓮は二人組を頼む。何かあればこの通信機で」
「わかった」
「忠告だけど、とにかく今は情報を集めるのが最優先。捕まえようとは考えないほうがいい」
「了解だ。理由は後で聞くことにするよ」
一度お互いに頷いてから、分かれてターゲットを追いかけることとなった。
「(くそっ。逃がすものか)」
俺は二人組の男を必死に、気配を悟られぬように尾行する。こんな経験なんて今まであるはずもないのでどういう行動が最善なのかはわかるわけもない。それでもできることをするだけだ。
悠の言葉通り、今は一つでも多くの情報を集めることを第一に行動する。しかしむなしくも、二人組は近くに止めてあった車に乗って走り去ってしまった。
何とかその車の写真こそとったが、結局は見失ってしまった。とにかく一度、悠に通信しないとな。
「悠。俺だ」
『どうなった?』
「すまない。車で逃げられた」
『そっちもかぁ。実をいうと僕もなんだ』
「とにかく俺はどうすればいい?」
『さっき偵察していた場所で一度合流しよう』
「了解」
数分後、再び悠と合流した。そして俺はある質問をした。
「なぁ悠。追いかけている道中で拾ったんだ。あいつらが落としていったものだと思うんだが、何だと思う、これ?」
俺が追いかけている道中で拾ったのは、透明な袋に入れられた金色の粉。そのままであるが、言うなれば金粉であろうか。
「これはもしかしたらきっと、上層部に提出する必要がありそうだね」
「上層部?」
「あぁ、今頃になるけど説明しないとね。各校の執行班の統括を行ってるのが、僕らが上層部って呼んでる総合管理局。ここだと25号支部になるかな」
「25号っていくつあんだよ」
「各都道府県ごとにいくつか置かれているそうだよ。それで、事の内容によっては行動の前に上層部への事前報告が必要になるんだよ」
「今更になるが、執行班ってずいぶんと大規模な組織の一部ってことなのか」
「そういう認識で今はいいと思うよ。ぶっちゃけ僕もあまり詳しいことは知らないから」
「成程な。俺がさっき拾ったこの粉は少なからず関係があると考えていいんだな」
「まだ確証はないけど、その可能性は大いに高いと考えていいよ。あっ。ちなみに麻薬の類でないことだけは先に言っておくよ」
「その心意気に感謝するよ。それで、こいつは何に関係しているんだ?」
俺の質問の後、悠は一呼吸おいてこう答えた。
「今僕らが追っている、不正取引を行っている組織」
「ふ、不正取引だって!?」
「あぁ、今僕らの最重要項目になっているんだ。詳しいことは学院に戻りながら話すよ」
「やっぱり一発撃ちこむべきだったかな…」
「何のことですか?」
「あ、ううん。何でもない(またやったら邦岡さんが黙ってないだろうな…)」
穏便にいきましょう。




