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初心

 ”あなたってなんか……面白い人”

 ”ねぇ、また会えるかな?”




 あの日の晩。珍しく夢を見た。


 俺の記憶にはないどこかの公園のベンチで、俺と見知らぬ女の子が話をしていた。

 ただ、見知らぬというと違うのかもしれない。どうにも夢に出てきた白い髪の少女が記憶のどこかに引っかかるような……。




 ベットから降りた後、まだ眠い目をこすりながら机に向かい、壁に掛けられていた一つのペンダントに手を伸ばす。透き通るような白い宝石のようなものがつけられている。


 郊外に住んでいた頃、とある日に助けた少女からもらったものだったか。

 きれいなものだと思ってこうして大事にとっておいてはいるのだが、そういえばこうして手に取った覚えはなかった。

 というより、今無意識に手が伸びたのだろうか。もしかしたら、夢に出たあの少女と関係があったりするのだろうか。



「……まさか」



 まぁそこまで重要なことでもないか。そう思って、ペンダントをもとあった場所に戻した。



「さてと。今日から忙しくなるな」



 ラックにかけてある制服に目を向ける。胸ポケットにつけられた、昨日貰ったバッジが輝いて見えた。




 この日も忙しいものであった。朝行われた緊急の全校集会で俺の承認式が執り行われ、正式に執行班入りし、このことも全校生徒の知ることとなった。


 朝登校してからもそうだが、休み時間の度にも、俺は編入してきたの日のように質問攻めにあうことになった。

 やはり執行班に入ることが、どれだけ重要なことなのかというのが少しばかりかわかったような気がする。



 その日の昼休み。俺は将星と一緒に昼食をとっていた。流石に昼休みになる頃には気を楽にできたので、どこかでひっそりということにならなかったのは幸いだ。

 飯の時間は、俺にとっては憩いの時間でもある。



「それにしてもお前が執行班になるなんて驚きだよ」

「それ聞いたのもう三回目くらいな気がする」

「まぁまぁ、それだけお前がすごいってことだ」

「あんがとよ」

「そうと、昨日もいろいろあって大変だったんだろ?」


「まぁその原因は俺なんだがな。執行班のほうはまだ何とも言えないけど」

「正式に決まったのは今日の朝だからな」

「今日も忙しくなると思う。というより今日から一層というべきか」

「そうかもな」


 将星が、紙パックの牛乳を飲み干してから、こんな話題を持ち掛けてきた。


「あぁ、そうだ。暫くの間、校内にいるときは少しばかり警戒してたほうがいいぜ」

「ん? どうしてだ? まさかとは思うが俺の籍を狙ってるやつでもいるのか?」


「流石にそれはないと思うけど。と言いたいがありそうだな。執行班になりたかった奴だって多いからな。まぁ問題はそこじゃない」

「ならなんだ?」


 地位では無いならなんだと言う。



「新聞部。なかなか厄介な人物がいるって話なんだと。これまで学院内の数々のスクープを暴いたって。本当かはまだわからないけど、昨日のことを真っ先に知ったのは新聞部のとある部員らしいってさ。今校内で最も注目されてんだぞお前は」

「忠告どうも。気を付けておくよ」


「まぁでも、話せる範囲でならインタビューくらいは応じたほうがいいと思う。変なイメージ持たれるとなおさら面倒だろうし」

「そうか。話せる範囲でとどめておくよ。詮索されるのは好きではない」

「知られたくないことの一つや二つ。誰だってあるだろ」

「そうだな」



 そうこう考えるうち、あっという間に放課後となった。今までの俺はそのまま自宅に帰っていたが、これからは違う。今日から執行班として働くのだ。



「やっほー黒宮君。その顔見るに、気合入ってるねぇ」


 教科書なんかをまとめている最中、崎田さんに声をかけられ少々びっくりした。


「お、おう! な、なんたって初日だからな。何事も始めが肝心だっていうし」

「ほうほう、殊勝な心掛けだねぇー」

「力むんじゃないわよーあんたは」

「お兄ちゃーん。無茶するんじゃないよー」


「あ。真琴ちゃん」


 そこに真琴と希愛が介入してきた。


「俺もそこまで馬鹿じゃねぇっての。てか希愛までどうしたんだ」

「一緒に帰ろうかって思ったけど、そういえば執行班のお仕事あったんだよね」

「あぁ」

「紅葉ー。もしこいつが何か危ないことしそうになったら、殴ってでも止めていいからねー」

「お前は俺のこと心配してんのか、只々弄んでんのかどっちなんだ」

「さぁー?」


 思うがこんな性格だったっけな真琴は……


「おいこの野郎……」

「女の子に野郎はないでしょー」

「俺の知る真琴はもうちょいかわいいやつだと思ったんだが……いへはははは!?」

「何か言ったかなー、れーんー?」

「すぶばせんふびまへん?!」


 右頬を思いっきり引っ張られて、痛いしまともに喋れないのなんのだ。からかいが過ぎた。


「お兄ちゃん時々口悪いもんねー」

「黒宮君。この一年の子は?」


 まだ頬を引っ張られているこの状況で、冷静にそういう質問するか!?全くとまではいかないが喋れないんだが!?


「初めまして。黒宮蓮の妹の希愛です。よろしくお願いします」


「黒宮君妹居たの!?」

「ふぁ、まぁほんはほほ」

「そっかーよろしくねー。気楽に紅葉って呼んでいいからね」

「ありがとうございます!も、紅葉…先輩」


「で。あんたは今日から忙しいんでしょ」

「ふぁあ、ふぁい」

「まぁまぁ。黒宮君。早く行くよ」

「へいへーい。口には気ぃつけなー蓮」


 やっとのことで開放してもらった。…ごめんなさい。


「あぁ。身をもって思い知ったよ。じゃあな、真琴」

「気を付けてねー。お兄ちゃん」


 崎田さんとともに、教室を後にした。




「おはようございまーす」

「お、おはようございます」


「おはよう黒宮君。崎田も一緒なのか」


 応接室に来た俺たちに真っ先に気づいたのは、ソファーに腰かけていた邦岡さんであった。


「クラスが同じだから一緒に来たってだけです。深い意味はないですよ」

「それくらいわかってる」

「ひょっとしてー。手つなぎながらきたのかしら?」

「な、なに言ってるんですか袴田さん!?」

「初日だからってそんなウキウキしなくていいのよー。」

「あのー?」

「もしよければー、お姉さんが相手してあげるよぉー」


 そう言いながら袴田さんが誘惑でもするようにこちらに近づいてくる。

 ただ、次の瞬間。袴田さんが何かに気づいたのか、こちらを見たまま固まっていた。若干冷や汗書いているようにも見える。

 何だろうと思って後ろを振り返ると、拳銃を構える草薙さんがいた。


「ゆ、悠君? ストップストップ。わかったから勘弁してください」

「自覚あるならどうにかしてください。全くですよ……」


 彼が構えを解くと同時に、右手に握られていた銃が消えた。あの銃、能力で作られていたのか。


「はいはい。おふざけは終わりだ。黒宮、こっちにこい」


 言われるまま天王寺さんのほうに向かう。


「さてと、君も執行班の一員となったわけだ。本日より、君にも任務についてもらいたい」

「それで……具体的にはなにをするんですか?」

「基本的には校外、周辺地域での治安維持活動になる。必要時にはこちらで動くことになるが、普段は見回りが基本となる。」

「見回り……ですか」


 なんか意外。って思っていたら。


「あまり軽く考えないでもらいたい。こうして誰かの目があるっていうのは、迷惑行為、犯罪行為等の減少に少なからず大きな効果がある」

「そうなんですか」

「毎日とまではいかないが、メンバーでペアを入れ替えながら交代で行っている。早速今日は君にも出動してもらおうと思っている」

「わかりました」

「ペアは……そうだな。草薙。黒宮と一緒に行ってくれないか」

「了解です。天王寺さん」

「学年も同じだし、同じ男子だから君も接しやすいだろう」

「お気遣いありがとうございます」



 俺は先程拳銃を構えていた生徒のほうを向く。草薙悠だったよな。同じ男子だって言ってたけど…。


「(男子……だよね?)」


 なんだろうな。こうしてみると女子に見えなくもないんだよなぁ…。



「今日はよろしく」

「よろしくお願いします」


 軽くストレッチをしていると草薙さんがあるものを俺に渡した。


「これは……」

「これは通信機。スイッチ付けたら左耳にかけるようにして装着して」

「こうですか」

「そうそう。さ、用意もできたところで行こうか」

「気をつけてな」

「はい、それでは行ってまいります!」

「いっ、いってきます!」



 俺の初任務。いよいよ開始。

「まぁ見回りだし大丈夫だろう」

「どうしたんですか?邦岡さん」

「いや、何でもない(草薙が羽目外さないことを祈ろうか)」


 まだ平和です。多分。

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