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経験も技量

 今日は執行班の見回りもないので、直ぐに帰ろうと思い生徒玄関に向かう途中、学院の地下に向かう紅葉を目撃した。

 そう言えばここ最近見回りの時以外はよくここに来るって言ってたっけか。詳しいことについては教えてはくれないんだが。

 邪魔するのも野暮だろうと思い、そのまま帰ろうかとも思ったんだが。この日ばかりは違っていたようだ。


 地下に向かう階段の手前で、紅葉は邦岡さんと合流していた。少し何かを話してから、そのまま地下の方に向かっていったようだ。

 こうして思うと、俺は天王寺さんに言われてくる以外に、ここに足を運ぶことはなかった。たまには自主的に行く方がいいだろう。そう思い、俺は自販機でスポーツ飲料を買ってから学院の地下へと向かった。



「あ。蓮じゃないか」

「どわぁ!?」


 地下の廊下を歩いていたら、左方向のドアが突然開き、中から悠が出てきた。突然の事だもんで思わず声が上がってしまう。


「あ、ごめん驚かせちゃって」

「いやいいんだ。悠は訓練か」

「うん。久々にライフル射撃の確認をと思って」


 悠の出てきた部屋は射撃訓練場。ほとんどの生徒は利用することのない。というか使用許可が降りているのが執行班か小松主任といった管理局に関係している人物くらいだからだ。

 なんでも年に数日だけ解放されているという噂もあるらしいが、事実かどうか俺は知らない。


「そうか。それで成果は?」

「んー。五百メートルならぜんぜん問題なし。八百行くと怪しいかなって」

「素人以下の俺からすりゃ十分すごいと思えるんだが」

「でも本物の一流はもっと遠く、一キロ越えなんかもあるそうだし、世界最長ともなれば三キロを超えたっていう記録もあるんだ! そう考えると凄いよね! 僕なんかはまだまだって思うよ」


三キロか。考えてみるとすごいもんだ。想像つかなくて。


「そ、そうか。というかそんな訓練どうやってやるんだよ。そんな長距離射撃できるような広さはここには無いだろう」

「ハンドガンくらいのものなら問題ないけどねー。さっき言ったスナイパーライフル、長距離射撃となるとVRでのシミュレーションになるかな。管理局が作成した最新型で、かなり精巧に再現されているんだ」

「へー。そりゃあ凄いな」

「でも限界はあるよ。長距離射撃となると特に影響が大きくなる要因があってね。風向きなんかももちろんそうだけど、その時の気温や湿度や天候、対象を狙う際の視覚条件なんかでかなり変わってくるものなんだ」

「そうなのか」


 それら諸々考えるのって、決して容易いことじゃないよな。


「そう。でもさっき言ったことはあくまでその一部。他にも色んな要素が関わってくる。機械で再現出来るのにも限界があるから、実際に撃ってみるのが一番だけど、それが出来ないのがねぇ」

「そんなことができる場所はこの辺にはないし、そういうことは勘弁願うよ」

「そこまで僕は野蛮じゃないよ」

「そう、かい……」

「なんだよぉその目は」


 可愛い顔してるけどさ、この前遠慮もなしにRPG-7とかグレネードランチャー構えて撃とうとしていた奴に言われても、全然説得力を感じない。微塵にも感じない。


「蓮こそどうしたの。一人で来るのは珍しいね」

「いつもは天王寺さんと一緒に鍛錬。ってなってたからたまには自主的に。というのもあるんだが、こっちに向かう紅葉と邦岡さんを見つけたから、それで気になってな」

「そうだったんだ」

「最近なんか特訓してるってのは聞いてたけど。どんなもんなんだって聞いても、蓮君達を驚かせるための新しい試みをしているの! って言われるだけで。核心的なことについては教えてくれねぇんだわ」

「崎田さんのことだし、剣術でも磨いてるのかな」

「邦岡さんだったら、的確なアドバイスとか出来そうだからなー。でもそれだったら剣道部の友人だとか、もっと剣に詳しい奴に聞けばよくないか」

「だとしたらなんだろうね。あぁそうだ蓮。せっかく来たんだから、久々に腕前試してみるかい」

「あれ以降やってはいないがどうなんだろうな」


 以前一度だけやった射撃訓練に誘われた。


「そこはフィーリングで。握ってみたらある程度感は戻るんじゃないの?」

「俺はそんな熟練者じゃねぇよ。まぁそう言うなら久々に一セットだけでもやってみるか。俺はそんな派手なのはいいからハンドガンとかで頼むよ。種類はよくわかんねぇから、前使ってたヤツを同じやつを頼むよ」

「はいはい。おまかせあれ」


 部屋の中に入っていった俺は、悠からゴーグルとハンドガンを受け取って、十メートルほど離れたところにあるターゲットの的に向かった。




「今度は命中八枚。それも全部が枠内に。かなり良くなってきてるよ」

「そう言われると嬉しいな」


 一セット終えて、ゴーグルとハンドガンを置いた。前の時よりも落ち着いて撃つことが出来た。腕は震えていたが、前よりも抑えられていたし、制御もできていた。


「射撃に関して技量も確かに大事なことだけど、僕が特に重要だと思うのは集中力と忍耐力。そう考えているよ」

「集中力と忍耐力か」

「これはそう簡単に身につけられるものでは無いよ。これまでの経験が、君を強くしているってことさ。この結果はまぐれじゃないよ」

「そっか、あんがとよ」


 思えば色々なことがあったよ。不正取引の捜査に、連続失踪事件。それが終わって何があるかと思えば女になって、今度は婚約事情に首を突っ込んで。なかなか経験できないことを経験させてもらったよ。

 それらを乗り越えてきたからこそ、今の自分がいる。きっと悠達も俺の知らない色んなことを経験してきたんだろうな。


「それにしても、紅葉と邦岡さん。まだやっているのかね」

「ときどき向こうの方から物音は聞こえるから、まだやっているんじゃないのかな」

「ちょいと見に行ってみるか。悠も行くか?」

「僕も気になるから、御一緒させてもらうよ」


 一通りの片付けを済ませて、その場所を後にした。




「それにしてもどういうことしてるんだろうね」

「さぁな。わからん以上は見てみないとな」


 奥に向かい、地下でも一番広い部屋の扉の前に立つ。そしてその扉をゆっくりと開けた。

 入ってきて真っ先に目に飛び込んできたものは――――

「「飛んでる……」」




「というかその目はなんなの蓮」

「お前、自覚はあるのか?」

「なんのこと?」

「そうかい」


危ないですね、これは。

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