色々オドロキ
時刻が六時半を過ぎた頃。もうすぐ夕飯のできる頃合いだ。この時皆そろって数学の問題集に取り組んでいるところであった。
「そういえば前にこんなこと聞いたんだよ。なんでもトラックを止めた少年がいたーっとかって」
「トラック止めたって。夢でもなきゃどんな怪力だよ」
「そういえばクラスの友達も言ってたよ。実際その時に居合わせた人がいて、もう凄かったって」
「私は初めて聞いたわ。希愛ちゃんどういうことだったの」
「確か、前の土曜日のことだったーって言ってたかな。友人と遊びに行った帰りにその現場を目撃したんだって」
「前の土曜って言うと、あの日か」
「まさしくその日だねー」
その土曜日の日は、俺と紅葉が初めてデートしに行った日のことだ。
「小学生、か幼稚園児位の男の子がボールを追いかけて車道に飛び出しちゃって、そこにトラックが走ってきたの。それを見た少年が男の子を助け出して、それでかつ向かってくるトラックまで止めてしまったって言ってた」
「それができるなら相当な怪力の持ち主。ってことなのかな」
「人間の力でどうこうできることでもないと思うけどな」
「じゃあそういう能力者ってことかな。そんなすごい人がいるなら、私一回会ってみたいかも」
「会いに行ってどうするんだ紅葉。それにもし凶暴な奴とかだったら……」
俺の心配をよそに、紅葉は希愛のほうを見て質問していた。
「でもその人は人助けをしたんだよね希愛ちゃん?」
「え? えぇーと。まぁそうなるのかな」
「なら大丈夫だよ! 人助けする人に、悪い人なんていないもん」
「それ言うと例外がいくらでも出てきそうだが」
アニメによくあるような何処ぞの有名な怪盗とか、名誉ある上官が実は真の黒幕だとか。まぁそれに限らずの話なんだが。
そう言えばあの日……と思ったんだが、先日うちの生徒から聞いたあの話題については言わないことにした。今話をしている男の子を救ったという話と、六人のごろつきを全員病院送りにした少年の話。このふたつについては無関係。そう思ったからだ。
「というかどうしたの? なんか悩んだ顔して」
「あぁいや。なんでもない」
「おーいお前さんたちー。夕飯の用意ができたぞーい」
「あっ、ごはんだ」
「そういやもうこんな時間か」
一階のほうからじいちゃんの呼ぶ声が聞こえてきた。時刻は七時をとうに過ぎていた。
四人でリビングまで降りてきて見ると、テーブルの上には六人分のご飯とお味噌汁。それから珍しく、煮物と炒め物の乗った大皿が二つ。
「婆さんに言ったら久々に腕がなると、とても気合いの入ったようでの」
「そ、そうか」
「でも今日は人数多いから」
「そうだな」
これ以上ベタなことを考えるのはやめにして席に着いた。
六人で夕食をとり、話をするじいちゃんが紅葉と話をしていた。
「それと、紅葉ちゃんだったかの」
「はい! 崎田紅葉と言います。今のお宅の息子さんの蓮君と、お付き合いをさせてもらっています」
紅葉がそう言うと、じいちゃんとばあちゃんの箸を動かす手が止まった。なんかまずいことでも言ってしまっただろうか。それとも付き合ってるってこと今まで隠していたことか?
「さきた……と言うと、あの崎田家でよろしいのですか」
「えぇ。お爺様の考えている、崎田家で問題ないです」
ここからのじいちゃんの話しぶりは、さっきまでののんびりとした感じではなく、キリッとしたものに変わる。
「紅葉さん。不肖な孫ですが、何卒宜しくお願い致します」
「こちらこそ」
「いえいえ。お願いするのはこちらのほうですよ」
「まぁその……そういうことです」
俺はじいちゃんのほうを向いてそう言った。
「蓮。くれぐれも、粗相の無いようにな」
「そうですよ。昔から危ないことに巻き込まれてばかりなのですから」
「いや。もう世間を知らないガキじゃないんだから。てかそれは関係ないだろ」
「蓮が言えたことなのそれ」
「全くもって。真琴姉に同意」
返す言葉もねぇ。実際、執行班の仕事で色々厄介ごとであったり、時に危ないことに巻き込まれたりはしているから、ガキの時のような単純な馬鹿まではいかなくとも、危なっかしいというのは否定できない。
「あぁそうそう紅葉さん。菊市郎殿はお元気ですか」
「はい、まだまだお元気ですよ。祖父は当主の身を引いて、今は私の父上が継いでおります」
「そうでしたか! あのお方には私たち共、色々お世話になりましたから」
「お役に立てていただき光栄です。あぁそうだ。ご飯のお替りいただいてもよろしいですか」
「どうぞどうぞ。遠慮なくおっしゃってください」
紅葉に頼まれて、ばあちゃんが炊飯器からご飯を茶碗に山盛りによそって紅葉に手渡した。
紅葉はそのまま食事もしながら、じいちゃんと話をしていた。じいちゃんもだが、紅葉の話しぶりも変わっており、流石名家のお嬢様だと感嘆してしまう。
「今更なんだが、紅葉の家ってそんなに力のある家なのか?」
煮物の人参を口に放り込み、噛み砕いて飲み込んでから真琴に聞いた。
「私は前にお母さんから聞いた話だけど、崎田家は三百年ほど前から、この辺りで栄えた由緒ある家柄なんだって」
「そんなに前からか」
「そ、今はいくつかの地元企業を抱えてるって話だから、尚更ね」
「そうかい」
適当に話を聞きつつ、味噌汁をすすってから今度は炒め物のほうに箸を伸ばす。適当な量を小皿にとって口に放る。
「てか付き合ってんならそれくらいは知っときなさいよ。いつか闇討ちでもされるんじゃないの?」
「んぐぅ?!」
真琴にさらっとした顔でとんでもないこと言われた。ちょうど口の中のモノを飲み込もうとしているところだったんで、せき込みそうになった。
「さらっとえぐいこと言ってくれるなおい……」
「容赦ないなー真琴姉はー。でもそうなってもおかしくないかも」
「希愛もさらっと同意しないでくれ。俺ずっと背中に注意向けて暮らさなきゃいけねぇじゃねぇか」
そうしてきそうな候補を俺は一人知っているから、尚更なんだよ。
まったく飯の時間くらいのんびりとさせてくれ。
夕食を済ませた後、俺は紅葉と真琴を自宅まで送っていった。
「流石にそれはないから」
「だよな!? そうだよな!」
「お兄様を何とかしておけばね」
「せやな」
好感度は低い。




