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最後の欠片

 夜の街中を一人の少年が歩いていた。格好は少しくたびれた赤一色のTシャツと灰色のスキニー。そして黒色のリュックを背負っている。

 歪なリズムの鼻歌を歌いながら歩いている彼はある光景を目撃する。


 その少年が目にしたものは、サッカーボールを追いかけて車道に飛び出した小学生と見える男の子と、それに向かって叫ぶその子の母親と思しき女性。そしてその男の子に迫るトラックであった。


 いけないと思い、何を思ったかその少年は命を省みることなく、背負っていたリュックを放り投げて車道に向かって走り、男の子を歩道の方に押し出した。

 これで男の子がトラックに引かれる心配は無くなった。が、今度はその立ち位置にその少年はいた。


 耳に鋭く響く、タイヤのゴムがアスファルトに擦れる音が辺りに広がる。その場いた誰もがしたくもない想像をする。この後この少年がトラックに跳ねられるその瞬間を。


 そしてトラックは――――




 その少年の手前、両手を前に突き出し踏ん張っていた少年の手のひらで受け止められたがのように静止させられていた。


 誰も予想しなかった結末に、居合わせたものは皆最初は言葉が出ないでいた。

「おいなんだよ!? あいつ何をしたんだよ!?」

「異常だこりゃ!!」

「どうなってんだよあれ!?」


 そして男の子は何があったのかが分からず、歩道の隅で、丸い目をぱちくりとさせていた。そこにさっきの少年がゆっくりと歩いてくる。

「大丈夫か。何があったかはわかんないけど、いきなり飛び出したら危ないからな」

「……?」

 男の子は不思議そうな顔して少年の方をじっと見ている。どうも飛び出していたという自覚がないようだ。


「ゆうた!」


 そこに一人の女性が駆けつけてくる。


「ありがとうございます!ありがとうございます!もうなんとお礼をしたらいいか」

「いいですよそんな。お子さんがご無事だったのなら、それで十分ですから」


 この男の子のお母さんだろう。少年に向かって何度も頭を下げていた。


「ほらゆうた! このお兄さんにちゃんとお礼言いなさい!」

「あ。ありがとぉ……ございます」

「元気そうで良かったです。あぁそれとすみません。咄嗟にとはいえ、いきなり突き飛ばしちゃったんで、転んでいませんか」

「大丈夫だよ!僕転んでないもん!それに転んだって泣かないもん!」


 少年が男の子の怪我を心配すると、その子は元気よく答えた。


「見たとこ擦り傷もないみたいですし、そこは安心しました」


 少年と親子が話をしている所に、一人の男性がやって来る。先程のトラックの運転手の男性だ。


「に、兄ちゃんあんた」

「あぁ大丈夫ですよ。骨の一本も折れてませんから」

「そんなこと言ったって。ちょっといいか」

「え、えぇ」


 トラックのドライバーは少年に確認を取ってから彼の両腕、両足をそっと触って確かめる。


「……なんともねぇ。どうなってんだ」

「言ったじゃないですかなんともないって」

「いやだが念の為だ。ここからは遠くねえはずだ。すぐ病院に」

「いいですよ。なんともないですから。おじさんだって仕事の途中なんでしょ」

「怪我してるかもしれねぇ人が目の前にいるんだ。仕事どころじゃねぇよ!」


 少年は怪我はしてないから問題ないと言い張り、トラックの運転手の男性は病院に連れて行ってやると言い張っていた。これではいつまで経っても話は進展しないであろう。そう思われていたんだが。


「ともかく兄ちゃん。っていねぇし……」

 隙をつかれてか。その少年は姿を消していた。






「溜まったぶん少しだけ使ってあの場から離れたけど、なんか申し訳ないことした気もするな。でもあのままだと言って聞かなかっただろうからこれで良かったんだよきっと」


 あの場所からいくらかは離れている住宅街の中に少年はいた。この言葉を聞くに逃げ出してきたともとれる。


「にしても流石にあれだけの衝撃ってなったらこれくらいだと全部使い切れないかー。どこか手頃な場所ないかなー誰もいないような……」


 そうブツブツと一人で喋りながら少年は、前から来た男性グループとすれ違ったその時であった。


「おい待て」

「……何ですか」


 少年は男に怒鳴られるような声で呼ばれ、無気力そうな声で返事を返す。


「何ですかじゃねぇんだよ!! さっきすれ違った時に軽く当たっただろう。そんときにうちの弟分が怪我しちまったんだよ」

「そうだ。どう落とし前つけてくれるんだこの野郎!!」


 すれ違った六人組の男に因縁をつけられる。それを聞いてか少年はますます嫌そうな顔になる。


「軽く当たっただけでしょう。それくらいで大袈裟に叫ばないでください周りに迷惑ですから」

「そんなことをてめぇに判断されるどおりはねぇ」

「どうやら痛い目に遭わないと分からないみたいだな。おいお前、行って来い」

「ヘイ」


 真ん中に立つリーダーと思しき青年が、六人集団の右後ろの方にいる少年に、目線で合図を送る。それを受けてその少年は前に歩く。


「行っとくけど逃げられねぇからな。俺はまだ優しい方だから最後にもっかいだけチャンスはくれてやるよ」

 気がつけば六人組の男たちは二手に別れて、少年の逃げ道を塞いでいた。前に行こうが戻ろうが、楽な道はなくなっている。


「ほんとにめんどくさい」


 そんな状況であるにも関わらず、少年の態度は変わらない。


「そうかい。今更後悔しても知らねぇぞぉ!!」


 その少年の腹に拳の一撃が入る。が、そのあと辺りにはしばしの静寂が流れる。殴られた少年は痛みで叫ぶことも無く、殴られた勢いで飛ばされることもなかった。


「な、なんだよ思いのほかやるじゃねぇかよおい!」


 気を取り直しもう一発。今度は右の拳で顔面を狙った。流石にこれは避けていたが、その後また腹に繰り出された左の一撃は食らってしまう。しかし少年は一切の反応を見せない。

 彼が唯一起こした行動は、顔への攻撃を避けるために首から上を動かした、ただそれだけであった。


「これで終わり?」

「な、なんなんだお前!? おいお前手ぇ抜いてねぇだろうなぁ!」

「そんなわけねぇでもすよぉ!? 俺は確かにありったけ込めて……」

「そう」


 少年は一息吐いて、目付きを変えて、殴ってきた男の方に近づく。右手に力を込めて握り、男に向かって言った。


「じゃあ少し。手本を見せてやるよ」


 軽く振りかぶり、男の腹に向けて勢いよくその拳を打ち出すと、男は飛ばされる。その勢いのまま、さらに後ろの方にいた二人の方にまで吹っ飛び、その勢いを受け止めきれずに三人諸共吹き飛ばされていった。


「グアァ!?」

「な、何してやがる!! 見掛け倒しだ、三人でかかれ!」


 倒れながらも、反対の方にいた三人に指示をとばす。そして言われるままその三人は、少年に向かって殴りかかった。




「ったく。暴れ足りねぇし、まだ残っていやがるか。こうなりゃあそこにでも行くかな……」

 それから一分と経たぬうち、少年は怒り混じりにその場を後にする。全員倒れ、ピクリとも動かなくなった六人組をそのままに。



「やっと落ち着いた。くそっ、変な因縁つけてきやがって」


 しばらくして少年は街の方へと戻ってきた。その目つきはまださっきの鋭いもののままだ。


「腹減ったし、少し早いかもしれないが飯にでもするか。ラーメンは飽きたし。取り敢えず歩きながら考えるか」



これから長くなりそうだ。

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