会議の前、昼寝の時間。
山水高校。黒宮蓮の友人である桐生泰牙らの通う高校であり、県内で執行班の置かれている数少ないの高校一つだ。
百年以上も前に創設された歴史ある学校。その名前、場所を変えながら、今は小高い山のふもとにその校舎はある。
総生徒数約千二百名。そのうち執行班所属の生徒は、三年三人、二年五人の計八名となっている。
通常教室棟の二階の端から、渡り廊下を歩いて行ける職員室や事務室の有る離れの建物。その間の渡り廊下にある一室が彼らの活動場所になる。
「こんちわーっす」
午後一時より少し前。執行班と書かれたプレートが置かれた職員室近くの小部屋。その場所にオレンジ髪の二年の女子生徒、古沼が入ってきた。
「あぁどうも」
先にその部屋に来ていた桐生が古沼に対して挨拶を返すが、その返事の声はその場にいるものがかろうじて聞こえそうなくらいに、小さいものであった。
「何でそんな小声なんすか桐生さ……ってそういうことですかーなるほどなるほどー」
桐生が指さした方向にいたのは、部屋中央のテーブルに顔を伏せて寝ている班長の森嶋と竜胆であった。森嶋は顔を横向きに寝ていたので、気持ちよさそうにしているのが表情から伺える。
彼女もそれに気づいて、桐生と小声で会話をする。
「二人ともぐっすり寝てるもんだし、会議も半からで時間あるから。騒ぎ立てて起こすのは悪いと思いまして」
「そうっすね。時間もあるんでどっか外にでも行って時間つぶしてきましょう。近くのコンビニにでも行きますか」
「そうしますか」
そう決めて二人は各々のカバンから財布とスマホを取り出す。
「近くだしフレンドマートでいいすか」
「いやいや私はイレブン派なんでそっち行きましょうよ」
「別にいいですけどあっち行くの少し遠くないですか?」
「どっち行こうがそんなに距離変わんないっすよ。行くと決めたら早く行きましょうあんまり時間もないんで」
「へいへいわかりましたよ」
ぶつぶつと話しながら二人は外に出て行った。
「こんにちはーって誰もいない」
「いやいや紫苑寺さんそこに二名いますよ。それともう二人分のカバンなら置いてあるみたいですよ」
桐生と古沼が揃って出て行ってから数分後。今度は三年の紫苑寺と二年の荻原がやってきた。
「寝てるのは森嶋と竜胆で。そこのカバンは……」
「これ……桐生と古沼のヤツですね」
「というかなんだこいつのカバン。キーホルダーじゃらじゃらについてるじゃねぇか。前となんか違うやつだし、それに数増えちゃいないか?」
「古沼みたいな女子ってこういうことするもんじゃないんですか。全てがとは言いませんけど」
二人で話しながらカバンを下して隅のほうに置き、寝ている二人の向かい側の空席に座った。
向かい合う先で眠っている二人の女子を見て二人もまたそれについて語る。
「ぐっすりと寝てますね」
「あぁ。ちょっとやそっとじゃおきないぐらいにな」
「というかどうしますか紫苑寺さん」
「近くに携帯が置いてありますね。おそらく森嶋のことですからアラームはかけてあるんじゃないでしょうか」
「こういうところ、森嶋さんはしっかりしてますからね」
何をするか考えつつ、紫苑寺は壁時計を見ていた。針は今午後の一時十一分を指している。
「あと二十分程か。とりあえず会議の準備くらいはしておこう荻原」
「わかりました。やれることは少ないですけどね」
ひとまずは班員全員分のパイプ椅子と、ホワイトボードを用意する。
「こんなところか。後は大人しく待っていようか」
「そうですね。・・・とりあえずデジカメを構えるのはやめにしませんか」
「いいい、いやいやいや! べべべ別に変な目的ってわけじゃななないからな。そ、そうだからな!」
「そんな震えた声で言われても説得力ないですよ」
できる用意を終えて本を読んでいた荻原が、先輩相手に容赦なく言葉をかける。そのまま二人は特に何を話すことも無く各々の時間を過ごした。
「なんですそれ?」
それからさらに十分くらい経ってから最後に無言で入ってきたのは、三年でここの執行班の副班長である中本と、同じ三年の粟津であった。
「竜胆は相変わらずとして、森嶋まで寝てんのかよ……」
「まぁじきに起きると思いますから大丈夫ですよ」
「まぁいるならいいとして、後来ていないのは桐生さんと古沼さんですか」
「それもすぐに戻ってくると思いますよ。そこにかばんはおいてありますから、いったんはここに来たんでしょう」
そう紫苑寺が言った直後、ドアが開く音がした。
「ただいまーっす。って皆さーん、お揃いでしたか」
「そりゃもう五分前なんだから……」
コンビニのレジ袋を提げた古沼と桐生が戻ってきた。少し息を切らしている。
「どこに行っていたんですか二人とも」
粟津が入ってきた二人の方を向いて聞いた。
「時間あったのと、朱音っち達を起こすの悪いと思ったんで、外行って時間潰してました」
「そうですか。なら全員揃ったところで早く始めましょう」
「しかし発起人がこうも寝てるとなると」
「なら放置でよくないですか。森嶋さんだったらすぐ起きると思いますし」
「下手に朱音っち起こすと後が怖いんすよねー」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろう。いいから」
六人であーだこーだと話し始める。次第に部屋に響く声量も大きくなっていった。
「あぁ皆さん。おはようございます……」
「あ、起きた。まぁあれだけ大声で話していれば当然ですね」
「おはようございます。森嶋さんが昼寝だなんて珍しいもんですね」
ウトウトしながら話した森嶋のこと曰く、先に来て寝ていた竜胆を見ていたら眠くなって、気がつけば寝てしまっていたと言う。
「まさか竜胆の奴が一番乗りとは思わなかったな」
「どうというより、こいつの場合はある程度居場所が決まってんだよ」
「それじゃあ皆さん揃ったところで……トランプでもしません?」
「おーいいっすねー!」
「ボケるにもほどがあるだろう森嶋。会議をすると昨日言ったのはあなたじゃないですか」
「そうですよ森嶋さん。本題忘れないでください……」
冷静に突っ込む中本と荻原を見てか、少しづつ眠気も覚めてきたようで。
「むぅ~。そうでしたねぇ……ではー気を取り直しましてー」
目をこすって、涙で少しうるんだ顔をハンカチで拭いてから、近くに置かれた眼鏡を手に取った。
眼鏡をかけて位置を調整。そのあと一息吐いてやると、彼女の目付きが変わってくる。
「会議を始めましょうか。今回は校内からの……」
「おい森嶋、始める前に竜胆の奴を起こしてからにしろ!」
「そういや完全に忘れられてましたね。なんか申し訳ない」
「てかこれだけ騒いでいて起きない朱音っちがすげぇーっすわ。今度安眠のコツでも教えてもらおっかな」
「古沼さん。感心してないで早く起こしませんか?」
「下手なことしないでくださいね。あとが怖いっていうんでしょ……」
「Zzz……」
そのあと一時間弱程の会議は、ドタバタしつつも無事に進められたそうな。
「まさか竜胆の奴起こすのに十分も使うとは」
「起きたならいいんじゃないすか中本さん」
「考えものですね」
「てかまた寝てるし」
「Zzz……」
寝る子は育つよ。




