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お昼休みの狂宴

「ちょっとそこの君ー。お隣失礼するわねー」

「どうぞどうぞ!! いえむしろ大歓迎ですよ!」

「そう言って貰えると嬉しいわねー」

「済まないな柏葉。隣失礼する」

「いえいえお構いなく」


 袴田さんが山中健吾の左隣。邦岡さんが真琴の右隣に座った。


 何がどうしてこうなったというのだ。別に昼休みに会おうと決めていた訳でもないのに、気がつけば俺の知り合いの女子が集結していた。

 落ち着けただの偶然だ。気にすることは無い。気がついたらたまたま集まっていただけなんだよ、うんそうだ。そう自分に言い聞かせてみるも、やっぱり落ち着かない。

 自分を真ん中にして計十人。男子が三に女子が七。男女で隔てられてる訳ではなく、男子を挟むようにして女子が座っている。

 学校で同年代の女子とお昼を一緒にする機会なんざほとんどないってのに、ここまでの大集団になるだなんて思いもしなかったよ!?

 内心嬉しくも思える反面、こういう時穏やかにことが進まないのを、俺はこれまでの経験で痛感している。


「それにしても邦岡さん達までどうしたんですか」

「あ。ほんとだいつの間に」 


 南原さんがそう聞いて、邦岡さんが答えてくれた。二人で話し込んでいた紅葉と悠も、それで気がついたようで。


「袴田にお昼を誘われて食堂に来たまではいいが、袴田が突然駆け出すものでな。追いかけてみたら黒宮達を見つけたというわけだ」

「そうなんでしたか」

「こんなに集まるなんて、こーいう偶然もあるものなのねー。見つけた時は驚いたわー」

「そ、そうですねーあはは……」

「袴田のいつもの気まぐれだ。あまり深く考えんでくれ」


 特にこの人に関わると大抵の場合、エラいことになることを俺は知っている。


「ところで、執行班の先輩達に聞きたいことあるんですけど」

「あらー。どうしたのかしらー」


 頭数が増えたところで、健吾がこんな質問を。


「先輩達が普段、悠達とはどういう感じなのか気になるものなので。あぁ自分、二年の山中健吾って言います。悠の幼馴染です」

「悠君のお友達ねー」

「それでどうなんですか一体!?」

「慌てない慌てない。今ゆっくりたっぷり話してあげるからー」

「袴田。口が滑ってあまり余計なことを話すなよ」

「私そこまでお口は緩くないの」


 味噌汁を一口飲んでから、袴田さんが、執行班のことについて話を始めた。


「そうねー、執行班のお仕事は色々と大変なことは多いけれど、面白いこともあるわねー。皆にちょっかい出すのもなんか楽しいからねー」

「堂々と言ってくれますね袴田さん」

「おかげでいい迷惑だがな」

「僕はある意味で一番の被害者ですけどね……」

「悠君は可愛らしくていじりがいあるのよー」

「お願いですからやめてもらえます!?」


 堂々と宣言しちゃったよこの人。


 なんだかんだと、二年男子が他のメンバーよりも袴田さんに弄ばれてるってか、いじられているのは事実だ。一人はその見た目が故、そしてもう一人は新人であることの未知であるが故のことだ。


「でもなんだかんだで面白いことばかりだけどねー。退屈しない日々を送っているわねー」

「悠久の宴、冷めやらぬ灯火をここに……。というわけか。それもまた一興……」

「袴田さんや李梨華ちゃんは面白いですし、天王寺さんや邦岡さんはとても頼りになります!」

「紅葉のそのポジティブ精神が羨ましいぜ」

「崎田先輩はとても明るい人ですからね」

「この人ひとりで雰囲気がガラッと変わっちゃう。って感じだもんね」


 色んな話題で盛り上がりつつ、お昼の時間は過ぎていく。俺も会話に混ざり箸を進めているんだが、しばらくしてなんともない何かが押し寄せてくる気がしてきた。


「というかどうしたの蓮君。さっきからしどろもどろで」

「あぁいやなんでもない」


 あぁは言ったが、こういう場合のお決まり事で何も無いわけがないのだ。俺が気になっているのは、周りのことだ。




「なぁおいあそこ見てみろ。執行班の人達そろい踏みじゃねぇかよ」

「なんかあの一点だけ輝いて見えるわ」

「それに真ん中にいるのってあの黒宮じゃねぇか。あいつ崎田さんだけじゃ飽き足らず他の女子にまで……」

「でもまぁあの人たちは執行班だから、集まっていても違和感とかはないわな」

「それにしたって、あの中に入れる男が羨ましいよ。俺じゃまず、あん中入る勇気はないな」

「このヘタレが。俺なら堂々と声掛けに行こうと思うな」

「おう、なら逝ってこいよ」

「そのいってこいが別の意味に取れるのは俺の気のせいだといいがな……」


 その一。この状況を羨ましく思っている奴ら。



「ちくしょうあの輪の中に入りてぇ・・・」

「やっぱり見せつけてんのか!? なんなんだよあいつは!?」

「あれが勝ち組ってやつかよ……」

「崎田さんと付き合ってるってのは聞いたけど、あれまで来るともうハーレム作ってるじゃねぇのかあいつ!?」

「もうあれだろ。ラノベかエロゲーの主人公なんじゃねぇのかあいつはよぉぉぉ」


 その二。妬んでいる奴ら。



「あんだけ女子に囲まれて羨ましいわなー。七人だぜ七人」

「いや待つのだお主。捉え方を考えれば女子八人ともとれますぞ」

「あぁー成程、草薙を女子としてカウントすれば……じゃないだろおい。あいつはあれでもれっきとした男子だろうが」

「何を言うか。男の娘はもはや女子と同意義なのだよ君」

「角間。悪いがお前の考えを俺は理解できない。あの人が女子扱いを嫌ってるって話、聞いたことあるだろう。野田、こんな奴の話聞かなくたっていいから……」

「いや俺は分かる。そう考えれば女子八人と見ていいよな」

「流石お主は分かっているではないか。そんな君に、某が男の娘の持つ魅力について……」

「俺、もうついていけねえよ」


 その三。男の娘の概念とやらについて話している者。




「なぁ悠。さっきから寒気ってか圧を感じるだが……気のせいじゃないと思うんだ」

「き、奇遇だね蓮。僕はどういうわけか悪寒がするんだ……」

「どうしたんだよお前らー。こんな機会滅多にないんだからもっと楽しもうぜー」

「「あ、うん……」」


 健吾にとってはいい時間であるし、俺らにとってももちろん悪い時間ではない。こうして大勢で食事をしながらわいわい話すのは嫌ではない。問題はそこではなく周りのことだ。編入してからというもの、否応に周りの視線が気になるようになってしまったからだ。


「二人ともどうしたのー風邪?」

「い、いや大丈夫だ紅葉気にするな。しばらくすりゃなんとかなると思う」

「蓮の場合いつもこんなんだから、気にしなくていいわよ紅葉」

「でも辛かったらいつでも言ってね」

「あぁ。お気遣いありがとう」


 でもせっかくの時間なんだから、周りを気にするのはやめにしてこの会話を楽しもう。そう言い聞かせてこの日のお昼休みの残りを過ごすことにした。

「悠の奴、中学の時男に告白されたこともあって……事実知った時の相手の顔がともう面白くて」

「なにそれ……」

「でも今でもありそうかもー」

「お願いだから黒歴史掘り返さないで……」

「あの人容赦って言葉を知らないのか……」

「うちの者が済まない……」


性別という壁は、越えよう思ったら越えられるらしいよ。

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