虚空の刻
腕試しと称した模擬戦を終えた俺と執行班の面々は、先程の会議室に戻ってくる。
「さてと、正式に執行班のメンバーになるわけだ。他の面々の紹介もしないとな」
俺以外の六人の生徒が俺の前方を囲うようにして並んだ。
「改めて、この執行班の班長をしている。三年の天王寺聖 だ」
「同じく三年の邦岡麗奈 だ。私はここの副班長をしている」
「同じく三年、袴田美音 でーす。よろしく坊や」
「よろしくおねがいします」
三年の女子二人はそれぞれ細かいイメージは違うが、大人の魅力というものを感じる。
邦岡さんはおしとやかな感じで蒼い瞳とロングヘアーがよく映える。
袴田さんは大人のお姉さんという感じのミステリアスな雰囲気。あと口に出しはしないが……めっちゃ大きい。何がとは言わんが目のやりどころに困りそうだ。
「僕は二年の草薙悠 だよ。よろしく」
「ふっふっふ。我はすべてを見通せしもの。運命に魅せられし者よ、我のことは大魔道士リリーシェと呼びなさい!」
「え? リリー…え?」
「この人なりの挨拶だから気にしないで。彼女は北島李梨華ちゃん。私や草薙君と同じ二年生 」
崎田さんがサラッとフォローしてやる。そういうアレなのか……。
「うっ。雰囲気ぶち壊し!?」
「そんで、もうわかってるだろうけど改めて。崎田紅葉だよー。よろしくー」
次に俺と同じ二年の三人。崎田さんについては省略。
草薙さんは、先程俺と天王寺さんの模擬戦を一番近くで見ていた生徒になる。
俺と同じ制服着ているから男子のはず……だが女子生徒に見えなくもない顔たちをしている。
金髪の彼女が北島さん。彼女についてだが……うん、考える余地なし。中二病ですね。言動といい、さっきからずっと右手で顔の左半分かくして微笑んでいるんだもの。
ということで執行班のメンバー六人の紹介を終える。そのあとで天王寺さんにこう言われた。
「さて黒宮君。改めて確認したいことがある。君の有する能力についてだ」
「やっぱり説明したほうがいいんですか?」
「もちろんだ。直接交えた俺がこんな質問をするのも野暮ってもんだが、この場にいるものはそれを確かに知る必要がある」
「そうですよね。ただ、口で説明しただけではうまく伝わりきれるとは思いません。実際に使って見せてもいいですか?もちろんこの部屋を荒らすような真似はしません」
「いいだろう。君の最善だと思う方法で構わない」
「ありがとうございます。それじゃあ…崎田さん」
邦岡さんの承諾をもらってから、俺は崎田さんを呼んだ。
「どうしたのー? 黒宮君?」
手招きして、崎田さんに、俺の近くに来るように促した。
「ひとつ協力してほしいことがあって」
「いいよー。何すればいいの?」
「助かるよ。それじゃあ――」
「崎田さんの剣で、俺を斬って見せてくれますか?」
聞こえてなかったのか、そうでも無いのかはわからないが、一瞬室内が静かになった。
「え? えぇと……も、もう一回聞いてもいい?」
「えぇと。能力使って俺を攻撃してくれ…って意味だ」
「く、黒宮君もしかして……」
崎田さんが俺に質問し終えるより前に、とある人物の声がそれを遮る。
「き、君もしかして……」
「真正のドMなのかい!?」
「……へ?」
「成程ー、君なかなか見所あって実に興味深い人だとあの時見ていて感じたよ。一見クールな印象があるのに反してまさかそういう嗜好も合わせもっていたとは!君を見ていたら今度もいい作品が書けそうな気がするんだ。ぜひお姉さんと二人で話をしようじゃないか。もっと資料を私に提供してくれ!それで…」
「……?!」
袴田さんが突然こちらに歩み寄って来る。力強く肩をつかまれ、何を言われるのかと思ったら突然のこの語りである。作品とか資料とか言ってるけどいったい何されるんだ俺は。
「またですか」
「あぁ」
「草薙」
「ラジャー」
俺の後ろで天王寺さんと草薙さんがひそひそと何か話しているのが聞こえた。おぉよかった。どうやら何とかしてくれそうな雰囲気だ。そう思って後ろを振り向こうとしたその時――――――
応接室に一発の銃声が響いた。先程よりは、近くで聞かないとわからないくらいの小さい音ではあったが、突然のことで驚いた。
取り合えず痛みなど違和感はなく、自分に被害は及んでいないようだ。
改めて袴田さんのほうに視線を向けようとした時、さっきまであった肩の重みが無くなっているのに気が付いた。そして床のほうに視線をやると、彼女があおむけで倒れていた。
「あ、あの。いったい彼女に何を?」
「あぁ、ちょっと眠ってもらってる」
「……」
改めて床に倒れている袴田さんに目をやる。見たところ目立った外傷はないように見える。
草薙さんは軽い口調であぁ言ってるが、こんなことが日常茶飯事…とまではいかないだろうが、さっきの会話を考えるに、度々こんなことになっているのだろう。
「あ、あの……」
「どうしたの、蓮?」
「その、もうちょいましな方法ないんですか……」
俺が草薙さんにそう質問すると、床に倒れている袴田さん以外の五人が口をそろえてこう答えた。
「「「「「ないんだな、それが」」」」」
「あいつはいったんスイッチが入るとなかなか止まらんからな」
「それで天王寺らと相談した結果こうなった」
「草薙君に一発。ということに落ち着いたの」
「楽な仕事じゃないんだけどね……」
「欲に溺れた者への裁きの魔弾というわけだ」
「もうこのことはこの場で聞かないことにします」
多分、踏み込んじゃいけない領域なのだろう。
「っと話がそれてしまったな。黒宮君。それは本気で言っているのか?」
「そうだよ。黒宮君死んじゃうよ!?」
天王寺さんと崎田さんが、聞けば無茶無謀といえるレベルの要求に対し、お前は何を言ってるんだ。というような状態であった。
「ねぇ、邦岡さん。流石に……」
「いいだろう。崎田、協力してやれ」
「そうですよねぇ……ってマジですか!?」
「あぁ、マジだ」
「邦岡さんまでおかしくなったんですか!? く、草薙君!何とかして!」
事の発端である俺が言えたことじゃないが、崎田さんまで混乱しだした。
「待って待って落ち着いて崎田さん。邦岡さんはいつだって冷静だから。そうですよね? 邦岡さんなりに考えがあるんですよね?」
「あぁ、彼の目は冗談半分というようなものではなさそうだ。まっすぐで、自信に満ちている。それに、私の推測が正しいのであればおそらくは……」
「そこまで言うなら……わかりました」
「ありがとうございます」
ひとまず俺と崎田さんを応接室の空いたスペースに移動させ、他の面々は二人から離れてそれを眺める。
「じゃあ。遠慮なく」
崎田さんが力を籠めるように右手を開くと、彼女の右腕を炎がまとい始め、次第に炎の剣が形成される。十分な長さになったところで彼女は剣の柄を握った。
剣というよりは刀に近い形をしている。成程、こうして近くでみると結構迫力あるな、あれ。
「言っとくけど、わざわざ斬ってくれって大口叩いておいて、今更ビビッて大げさに避けるのは無しだからね」
「わかってる。そうなら最初からこんなことは頼まない」
「最終確認だけどホントにいいの?」
「構わない」
俺のその言葉の後、崎田さんは目を閉じて刀を振り上げ、集中力を高めていた。
向き合う二人を遠くから天王寺たちが見つめていると、倒れこんでいた袴田が目を覚ました。
「あれー、わたしはいったい……」
「起きたか。袴田」
「うみゅぅ……、って紅葉ちゃんと蓮君、向き合っちゃって何してるのー?」
「実証実験だ」
「今、ある意味恐ろしいこと言ったねぇ、班長」
「……!!」
崎田さんの目が見開き、俺に向かって炎の刀が振り下ろされる。その瞬間に俺は能力を発動。
その刀が俺を焼き斬ることはおろか、空を切ることさえなかった。
「袴田。いきなりそんな話をするもんじゃないだろ」
「いいじゃないさ―麗奈―。またそそられるものが…」
「…(無言で銃を構える)」
(蓮はドМとかでは)ないです。




