袴田美音の執筆アイディア
CHAPTER2の21話以降
例の校内新聞騒動の翌日の放課後だったか。なんとなくの感覚で応接室に立ち寄ってみたら、何やら袴田さんが頭を抱えているところであった。
「袴田さん一人ですか」
「あらーいらっしゃーい。どうかしたの?」
「いえ、非番ですけど何となくよっただけで。そういう袴田さんは何してんですか」
「そうねー。ネット小説書いてるのだけど、次にどういった話を作ろうか考えているところでね」
「ネット小説ですか」
テーブルの方に視線をやると、スケッチブックとペンが置いてあり、なにか色々とアイデアらしきことが書かれていた。
「気になるのー」
「そこまで」
「まぁまぁいいじゃないの。そうだ、せっかくだからネタ探しに協力してちょうだいよー」
「そう言われても俺じゃ何も出来ないとは思いますが」
「いいからいいからー。一人よりも二人って言うじゃないのー。三人寄れば文殊の知恵って諺もあるじゃなーい。まぁここには二人しかいないけどねー」
「……」
言われるままにというよりも、そうする以外の選択肢が与えられることもなく、袴田さんの手伝いをすることに。
「というかどういうジャンルで書いているんですか」
「ざっくり言ってしまえば異世界転移ね。よくあるやつ」
「確かによく見るやつで」
異世界転移とか転生ものって、最近のラノベだとよくあるジャンルにも思う。あまりに溢れかえっているもんだから、俺としては、あーはいはいそうですか。と言ってしまいたくもなるもんだが、少し読んでみると一定層に受けるのは何となくわかる。
「異世界って言うと、どういった感じで」
俺がそう聞くと、袴田さんは置いてあったペンを右手に持つと、そのペン先を俺に向かって突きつけてきた。
「先に言っておくけど、私は異世界ものと言ったって、圧倒的な能力にかこつけて無双するようなチート系とか、そういうのは好かないタイプの女よ」
「……急にどうしたんすか」
普段は穏やかな人が目付き変えて、座ったままとはいえこっちにずいっと顔を近づけてくるもんですから。
「だってね。偶然という形で異世界に飛ばされただけだっていうのに、文句のつけようのないくらいの特典ガッツリ貰っちゃって、それで楽々異世界で生きていこうだなんて、そうそう甘いものじゃないのよ! だから私はそういうのが……」
「と、とりあえず、言いたいことはだいたい分かりましたから」
その後は熱弁を振るわれたんだが、その辺あまり詳しくない俺にとってはもうよくわからん話なもんで。
「じゃあ一つ蓮君に聞きましょう。人を殺したこともない純情な少年がいきなり異世界に飛ばされました。神様からそれはもう溢れんばかりの特典貰って最強になって、その世界にすくう魔王を倒してこいと言われて、蓮君がそういう状況になったらそれを実行できると言い切れるかしら?」
「そう言われると……無理な気がしてきます」
「人間、心ってものはそう簡単にホイっと変えられるものじゃないのよ。もしそうだとしたら、言い方悪くなると洗脳だとかサイコパスって言うところかしら」
「それは、まぁ……」
「最初から強いにしたって、真っ当な理由があるのなら私としては許せるわね。例えば長年訓練を受けていたとか、そのひとつの分野において卓越した何かを持っているとか。主人公が考えを巡らせて物事を解決していく秀才だとか」
「あぁー成程」
「ともかく最強である理由が、転生あるいは転移時の特典って言うのなら、私はそれで読もうって気にはならないわね」
「そうすか……」
「でもあくまでこれは私個人の意見。勿論そういうジャンルが好きだっていう人もいる訳だから、これ以上とやかく言うつもりは無い。好みってものがあるからね」
「ならその辺聞かないことにします」
「とまぁそういう話はこのくらいにして、ネタ探しと行きましょうか。それじゃあ蓮君。最近あった変わった経験について教えてくれないかしら?」
「それを聞いて何を……」
これから小説書こうと言うのに、俺のそういう話を聞いてなんになるんだと。そうした理由が俺には分からなかった。
「いい経験っていうのは色濃く記憶に残るものだから、小説を書く時にいいネタになるの。考えやすいし、転換もしやすいでしょう」
「確かに」
「漫画や小説を創る時において大事なことは想像力だけじゃないの。様々な体験をして、それらを思いのままに生き生きと表現することなの」
「小説の登場人物だって知り合いだったり、執行班のメンバーを参考しさせてもらってるところもあってねー」
袴田さんはテーブルに置かれていたスケッチブックを手に取ると、パラパラとページをめくってから一枚のラフ画を俺に見せてきた。
「こんなものまで……」
「イメージは大事でね、こうした絵があると小説も書きやすいの。この子はカエデちゃんっていうのだけどね、食欲旺盛な明るい侍の少女で。ここまで聞いてくれたらわかると思うのだけど、紅葉ちゃんをモデルにさせてもらってるの」
「言われてみると……」
外見は流石に違っているけど、キャラ設定は崎田さんを思わせるものであった。ムードメーカーとなるような明るさ。食べることが好きだと言うところ。戦闘スタイルとか。
他にも色々とラフ画を見せてもらった。最強を目指す鍛錬好きな格闘家。自分に厳しい可愛いもの好きな女性騎士。女の子のような可愛らしい見た目の弓使いの少年。その世界に伝説として語られている大魔術師。みな執行班の面々を思わせるようなキャラであった。
「それからこれなんだけどねー、今考えてる新キャラのイメージ図」
今度見せてきたのは、ローブに身を包んだ一人の青年の絵。
「元々は王国の実力ある軍人。数年前の大戦以降、戦いの火を逃れるべく森の奥深くに一人で住んでいた青年。ある日窮地に陥っていた主人公達を救って以降、彼らに関わる度に自らの意思に反して行動する自分に葛藤する。そんな謎多き、悩ましきキャラなのよ」
「成程」
「ちなみにこのキャラ、蓮君をモデルにさせてもらったのだけど、どうかしら?」
「えぇと……」
まだ知り合ってそんなに期間経ってないんなんだが、良くまとめられているなぁって。感心してしまった。この人の観察眼は恐ろしいものだなと。
「悪くないんじゃないですか。いいと思いますよ」
「あらー、良かったわー。それと、生き別れの妹がいてシスコンって設定加えようかと思ったのだけど……」
「妹いるは解りますけどシスコンは勘弁してくれませんか!?」
そこまでされると色々ときついものがあるのですが!?
「えー。だって一個下に可愛らしい妹さんがいるじゃないのー。よく登下校以外でも一緒にいるところは見るけどなー」
「なんかそれだとシスコンじゃなくてブラコンみたく聞えますけど。…というかそういうのじゃないですし、そういう設定は例え空想のものでも勘弁して欲しいんですけど」
「仕方ないわねー。じゃあ妹いるってだけにしておこうかしら」
「そういうことにしといてください」
何とかシスコンだというこじつけを避けることはできた。もちろんそんなことはない。
その後は真面目に相談しつつ、話のネタを考えることになり、しばらくしてから解散となった。
「さてと。言っていたやつってこれだよな」
帰ってきて夕飯も済ませてから、ベットの上で袴田さんの手がけた小説を読んでいた。
望まぬ運命によって魔法の存在する異世界に召喚された主人公が、泥臭くも成長しながら、道中で出会った仲間とともに冒険をし、この世界の謎を解き明かしていくと言うものだ。主人公には特別な能力も才能もない。それでも自分を見つめ、様々な困難、試練に立ち向かい成長していく。というのが印象に残る。
「キャラ紹介?」
途中、目次にあったキャラ紹介の項目に目がいった。そこの一番下にあったクラウスという名のキャラ。おそらくこれが放課後に言っていた、俺を元に考えたキャラのことだろう。
そのキャラの説明を読んでいて、俺は悶絶してしまった。
「……」
元々は王国軍の有力な軍人だったが大戦以降に行方をくらます。唯一残された家族である、囚われの妹を救うべく一人奔走するさすらい人。ある理由により戦いを憎んでいるにも関わらず、戦場に飛び込む自分自身に悩んでいる。要約すればそんな感じの紹介文であった。
それを読んでひとつ、確信したことがある。この人相手に隙を見せてはいけないなと。さもなくば、俺の確信に至るまでを知られるような気がしてならなかったからだ。
「ところで袴田さんはどういう設定のキャラでこの話に関わってるんです」
「そうねー。タイトル教えるから読んでみて探してみてよー」
「言いたくないとかじゃないですよね」
「私は原作者よ。人様に言えないようなキャラにはしてないわよ」
「……そうですよね」
これ以上聞いても無駄だと、聞く前にわかった。




