轟の予兆
「おはようございます」
「おっはよーございまーす」
週明けの放課後。今日の応接室には、班員の全員が揃っていた。例の小松主任からの短いメールによって召集されたからだ。といっても今回は、月曜の放課後に報告会を行う。という内容の故、これ以上文章を長くする理由もないだろう。
会議以外となると、全員が揃うというのはあまりない。見回りの担当に当たっていない日の場合、応接室で作業しているか、何かしら別のことしているか、そのまま帰るか。それは人によって様々だ。
「おぉ、来たか。お前らで最後だ」
いつもは遅めに来る小松主任であるが今日は早く来ており、既にカーテンが閉められ、プロジェクターの準備ももうすぐ終わろうかというところであった。というよりも、今日は俺らの方が遅かったと言うべきか。HRが少し伸びたというのと、終わったあとも、紅葉が自販機行くのについて行ったというのもあるが、言い訳しても時間を無駄にするだけであろう。それに遅刻はしていないのだから。
遅めに来た俺達は空いていた場所に座った。
「それでは全員が揃ったところで。報告と、幾つか連絡事項を話そう」
主任は左手に握っている黒いリモコンを操作し、プロジェクターを起動する。
「先ずは先日絡みの件からについて話そうか。芝本グループについては前にも話した通り、管理局が最優先事項で調査にあたっている。当面お前達の方にそれ関連の仕事が回ることはないとは思うが、もしもの時は尽力してもらいたい。先に行っておくが、この件はこれまで以上に大きな作戦になると予想されている。こんなことを今言いたくはないが、多くの執行班の協力が必要となることはほぼ間違いない」
「覚悟の上です」
「それで、なにか分かったことはあるんですか」
「まず話しておくべきことはそうだな。羽田零次。お前達なら、この名前に聞き覚えはあるだろう」
羽田零次。俺が執行班に入ってから初めての大規模作戦において相手することになった、金の不正取引を行っていた企業、というよりは密売グループと言った方がいいだろう。その主犯格として上げられた二人の男、滝川陽介ともう一人がこの羽田零次というわけだ。
先日の作戦の際組織は壊滅したものの、運悪く居合わせなかった彼の身柄を押さえることには失敗した。その後彼の行方は分からなくなり、管理局がその行方を追っていたそうだ。
「ようやく彼の今の身元が明らかになった。彼は今、芝本グループに身を置いている」
「どうして彼がそんなところに」
「そうなった理由としては、彼の構成していた密売グループが、芝本グループからの援助を受けていたことにある。それにより双方には関係があったということだ」
それだけ話すと、主任はプロジェクターの電源を切った。
「今できる報告は以上として、ここから先は今後の連絡事項になる。年に二回ほど、全国各地の執行班から代表者が集まっての説明会が開かれている。来月開催されるそれにおいて、兼城学院の執行班が招待されることになった。詳しい案内が届いたら折り入って説明しよう」
それを聞いた班員がざわざわとしだした。俺にとってはよく分からんが、よっぽどの一大イベントなのだろう。
「そういえばありましたねー。うちに声がかかるのは初めてでしたっけ」
「いや、俺がここに着任する前に一度呼ばれたことがあるらしい。三年程前。天王寺らが入学するより前のことだな」
「そうでしたか」
「話せることは以上だ。何か質問しておきたいこと、俺に報告しておきたいことのある奴はいるか」
主任が最後にそう確認するが、手を挙げるものはいない。なんというかそれがいつもの光景に見えなくもない。
「そうかい。じゃあこれで終わりだ」
「これから忙しくなりそうだねー」
「忙しく。って言葉じゃすまないような気もするがな。俺としては穏やかに事が解決して欲しいけど、そういうわけにも行かないよな」
「それは仕方の無いこと……で片付けるのは無理やりかな」
「どうあれ向き合っていくしかないんだろうな。逃げることは許されないってとこか」
会議が終わってこのまま帰ることに、生徒玄関まで紅葉と二人並んで歩いていた。
「それもあるけど来月のことが楽しみだな。李梨華ちゃんや袴田さん、なんかすごく楽しみにしていたし。東京行くのって、私小さいころ以来だからさー」
「観光に行くんじゃないんだろ。執行班のことなんだからさ。それに東京行くってだけで大げさな」
「蓮君は何年か住んでたからそう思うだろうけれど、そこから離れたところに住んでる私らとしては一大行事みたいなものだよ!修学旅行みたいなもんだよ!」
「お、おう……」
五年ほど埼玉のほうに住んでいた俺からすると、東京自体よく世話になったもんなので、全て知り尽くしているとまでは言わん。が、紅葉のように特別感があるわけでもない。
特に距離があるわけでもないので、すぐに生徒玄関を抜け、校門まで辿り着いた。
「じゃあねー! それじゃあまた明日」
「あぁ。明日な」
紅葉が向こうの方に歩いていき、俺も家に帰るために反対の方向に向かおうとした時、二人の男子生徒によるこんな話が聞こえてきた。
「なぁあれ聞いたか?」
「なんだよアレって?」
「一昨日だったかな。なんでもゴロツキ六人全員が病院送りになるような乱闘があったとかって」
「なんだよそりゃ!? 吹っ切れてプロレスラーにでもケンカ吹っ掛けたのかよ」
「それがそうでも無いんだって。どうやら病院送りにした奴って、俺らと同じくらいの少年だってよ。背だって奴らよりも小さいって」
「世の中恐ろしいもんだなー」
「あとは何故だか近くの山に、不可解なえぐれた跡があったとかで……」
「なんか嘘くさく聞こえるがなー。てかそんな話誰から聞いたんだよ」
「俺は噂で聞いただけだよ。何処が発信元かなんて知らねぇしよ……」
「何だよそれ」
六人をぶちのめした少年か。そういや前に、泰牙のやつが乱暴者がどうとか言ってたような気もするが。
忘れてしまいたい時のこと、偶然出会った泰牙の口から聞いた乱暴者の噂。詳細までは聞いていないが、山水の執行班はその人物を探していると言っていた。もしかすればさっきの話にあったその少年がそうだというのだろうか。
それにもう一つ気になったのがそのあとのことだ。もしかしたら……。
気になるという衝動を抑えられず、その話をしていた二人の方に近づいた。
「そこの二人組! ちょっと待ってくれないか!」
「な、なんですか?」
突然声をかけられ驚き、こちらを振り向いた一年の男子生徒のほうに走っていった。追いついたところで話をしようとしたところ、今度は向こうの方からこう言われた。
「あ。もしかして黒宮さんのお兄さんですか。俺たちに何の用ですか」
「え? そうなのか?」
「クラスに黒宮って女子がいるだろ。その人のお兄さんだろ。それにほら、前に校内新聞で話題になっていたろ」
執行班云々じゃなくて、むしろそっちのほうで有名になるのか。という内心は伏せて話をすることに。
「すまない。さっきふと聞こえてきた一昨日の話ってのが気になってな。急ぎでなければ執行班として、教えてくれないか?」
「いいですけど俺は噂伝いで聞いただけですし、あまりたいそうなこと知ってるわけでもないですけど」
「それでもかまわない。教えてくれ」
「わ、わかりました。あれは……」
この一件で事が思いもよらぬ方向に動くことを、この時の蓮は想像さえしなかった。
「気になる所いっぱいあるのよねー」
「見たことないものとか、聖地とかそれからそれから……」
「ついにこのリリーシェが魔境の地に……」
「お前ら目的を勘違いしてはないか」
観光したい




