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大事なこと

「これはどうだろー」

「俺としてはこっちの色の方が似合いそうだがな……」

「でも蓮君、背高いから……」

「いやそれはなんか違くないか!?」


 二人で服を吟味し、選び、似合うかどうか確かめてみる。最初は紅葉の服を見ていたんだが、話の流れで俺の服も見てやると言われて、今度は俺の服を買うことになった。


「そう言えばだけど、真琴ちゃんとかとこういうことはあんまりしないのかな」

「俺がこっち戻ってからもそういうことは無いな。前居た時は小学生だったからそんなことする歳でもねぇし。それに大体の高校生男子って、私服とかにあんまり興味とか強いこだわりってないように思うんだ」


 昔っから服を買いに行く時間というのは、俺にとっては退屈な時間だった。自分でこれと決めることはなく、母さんが似合いそうと思ったものをいくつか持ってきては、そこから俺が選んでいた。まぁ簡単に言えば興味など無かった。


「もったいないなー。人間中身は大事って言うけど、外見も大事だと思うよ。顔とかそういうのとは違うけど、それだけで印象変わると思うよ」

「それもそうか。そうだ。こっちなんかはどうだろ」

「おー悪くないんじゃない」


 でもこうして服を選ぶ時間は、今にして思えばなかなか悪くない。今まで感じることもなかった楽しさに、少しばかりかは気づけた気がする。

 こうして大事な人とだからだろうか。




「いらっしゃいませー」

「こんにちわー」

「おやおや紅葉ちゃんじゃないか。それに蓮君まで」

「紅葉がここに行きたいと、そう言ってきたので」


 近くで昼食をとった後、どこか行きたい場所はないかと紅葉に聞いた。彼女が行きたいと言った場所は、俺がちょくちょく世話になっている喫茶店のフォルテだ。希愛や真琴達とはよく訪れるが、そういえば二人で来たのは初めてだ。


「そうかいそうかい。気に入って貰えて嬉しいよ。こちらとしてもいい所ずくめでね」

「なんかありましたっけ?」

「崎田紅葉がこの店のこと気に入ってくれてるっていう話が広まってくれて、お客が増えてきてね。特に兼城の女子生徒なんかがね。いやー、お得意様様々ってわけだ」


 店の中をチラリと見回してみると、たしかにこの店にしてはお客がそこそこ入っている。俺らと同じくらいの年代の客は見られないが、それ以上の女性の客が計十人ばかしはいた。それに、エプロン付けた女性が一人。でも干場さんの他に従業員なんていただろうか?


「ちょいと忙しくなったなぁーって思って、接客担当何人か雇ったんだ。今あっちで動いてくれてる彼女もそのひとりさ」

「そうなんですか」

「さてと。立ち話はこのくらいにして、あちらのテーブル席にどうぞー」


「そうだお客さん。つい最近考えたばかりのドリンクの新商品あるんだけど、良かったらどうですか?」

「ドリンクですか?」

「せっかくだから頼もうよ! 干場さん、私それひとつ!」

「はいよ。蓮君はどうするんだい」

「じゃあ同じやつで」


 いつも通りコーヒーでいいかと思ったんだが、新規と言われるとどうにも気になってしまう。その誘惑に負けた。

 だが運ばれてきたものを見て、その誘いにまんまと乗せられたというか、謀ったなと少々悔やんだ。



「ほいお待たせー。新作のスペシャルドリンク、カップル仕様になりまーす」

「おー」


 大きなワイングラスに入れられたピンク色のドリンク。果物のほのかな甘い香りがする。問題なのはドリンクのその見た目と言えばいいだろうか。

 グラスに差してあるのは二股になっているハートストローだ。いつからこの店はメイド喫茶みたいなことをやり出したんだ。


「あのー干場さん。どういった方針でこれを開発なさったので?」

「前に真琴ちゃん来た時かなー。とうとう蓮にも彼女ができた。色々そそかっしいとこあるから上手くやっていけるのかねー。っていうようなことを言ってたからそれで思いついたんだよなー。こういう商品もたまにはありかと」

「いやいやないない。ここそういう店じゃないと思うんですけど」


 最近の真琴の考えてることが、幼馴染の俺でさえよくわからない。内心、一体全体彼女はどう考えているんだか。


「何を言うか。喫茶店なんだからこういうもんあったって別に普通だろ。それにいつまでも同じことしてても駄目なんだ。思い切った改革ってもんも必要だと思うんだ」

「分からなくもないですけど改革の方向間違ってません!?」

「ねー早く飲もうよー。ようやく来たんだからさー」

「そういうこった。ごゆっくりー」


 テーブルに伝票置いて、干場さんはカウンターの方に戻っていってしまった。


「さて。いつまで顔真っ赤にしてるの。早く飲もう」

「あ、あぁ」


 視線だけ周りの方を向ける。周りにとっちゃ赤の他人だが、これをここで頂くのはかなり勇気がいる。

 それでもやけになり、周りのことは視界から排除することにして、ドリンクを飲んだ。




「今日はありがと。すっごく楽しかった!」

「あぁ。あれには驚かされたけどな」

「ホントホント。私もちょっとびっくりした」


 時刻は気づけば午後の六時を過ぎていた。紅葉を家に送るために、彼女のお屋敷に。門の前にバイクを停め、そこで二人語らい合っていた。


「今度は何をしようかな」

「遠くの方にバイク走らせるのもいいかもな」

「蓮くーん」

「ん?」


 紅葉が俺の肩に右手を伸ばして、自分の方に寄せようとした。あの時のように。体が引き寄せられるよりも前に俺は、少し膝を曲げて顔の高さを合わせて近づけた。それから二秒間ほどキスをした。流石にこれを人前でしようとする勇気は俺にはない。彼女は違うのか。はたまた俺と同じなんだろうか。


「じゃあね蓮君。また月曜日に学院で」

「あぁ。それじゃあな」

 紅葉が門の奥に消えていったのを見てから、俺はバイクに跨って家に帰った。




 家に着いた頃だった。突然なにか聞こえてきた。


「なんだ?」


 小さいけど、ズドーンっていうような、なにか爆発したような音が聞こえてきたのだ。


「爆発か? でも煙とか出てないし、それにしちゃ随分と小さい音だったし。場所が遠いとかか?」


 音の聞こえてきた方を最初に、その後ぐるりと見回して見るが、特に変わったものは見られなかった。煙が立っているわけでもなく、火災が起きているわけでもなかった。


「まぁいいか。ひょっとしたら気のせいなのかもしれないな。先週の分の疲れ、まだ残ってんのかな……」


 特にその後は、その爆発音について考えることはせずに、今日のことを思い返しながら夜を過ごした。


「しかしまー仲良いってかイチャイチャっていうか」

「天使の賛歌が相応しい」

「恋すると、人って変わるものなのねー」


ベタな変装して尾行する三人。

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