前を見つめて
「ねぇーどこに向かってるのー」
「どうしても紅葉と行っておきたい所があるんだ」
「もったいぶらなくたっていいのにー」
木曜日になり、まず俺は紅葉と共に家に帰り、その後俺の運転するバイクに乗ってある場所に向かっていた。デートなんかでは無い。ちゃんと付き合うことになって、あるところに挨拶に行かなければと思ったからだ。
「蓮君が行きたかった場所ってここ?」
「あぁ」
十分弱バイクを走らせて着いた場所は、山の上にある霊園だ。バイクを脇に止めてしばらく無言で歩き、ひとつの墓石の前で足を止めた。そこには黒宮家と掘られている。
地面にしゃがみこみ、持ってきたロウソクと線香を用意しながら紅葉に話した。
「前に挨拶しに行った時に少しだけ話したんだが、俺の父さんと母さんはもう生きていない。ある事件に巻き込まれてな」
「そういえばそうだったね。でもある事件って?」
「昨年起きた、埼玉にある能力研究所が襲撃された事件だ」
今でも忘れることはない。いや、そうしてはいけないことだ。
「全国的に大きなニュースになっていたよね。確かに向こうの方の管理局は、今もその事件の真相を追っているって。なんでもえらいものが盗まれたとかって話で」
「えらいもの? 随分と曖昧な表現だな」
その後の紅葉の話によれば、その盗まれたというエライものに関してはトップシークレットものみたいだそうで。それが盗まれたというのを知ってるのはごく一部の人だけみたいで。その正体についても知っている者は、国中探しても二桁くらいしかいないそうで。
「そうか。てかそういうの言って大丈夫なのか?」
「蓮君は執行班の関係者だから大丈夫。でもみだりに言いふらさないでね」
そのトップシークレットものの情報をどうして紅葉が知っているのかについては聞かないでおこう。彼女なら問題ないと思うが、聞く相手によっては記憶どころか、存在を消されそうで怖いのだ。
「でも確か、お父さんが研究員でお母さんは主婦って言っていたよね」
「事件があったその日、母さんはたまたまその研究所を訪れていたんだ。父さんに会うために。その日、運悪くって言うのかな。あの時はこうなることになるなんて、俺も希愛も、思いやしなかったさ」
俺の話を、紅葉は黙って聞いていた。俺としては詳細を話すのも辛いが、彼女には知って欲しかった。涙が出そうになりそうなのを堪えて話を続けた。
「でも悲しむことはやめにした。悔やんだって仕方が無いし、それで結果が変わる訳でもない。過去を受け入れて未来を生きる必要があるって思ってさ」
「なんか蓮君らしからぬ言葉だね」
「とうとう紅葉にまでそう言われるとは。まぁこれも父さんに言われたことだ。入れ知恵ってやつだよ。俺には哲学とかそういう難しいのはよく分からんからな」
ロウソクを立てて、一息吐いてからバックからライターを取り出す。
「気の沈むような話はこのくらいにしておくか。目的を忘れちまうからな」
「目的って、お墓参りでしょ?」
「あぁ。と言っても今回は報告も兼ねた挨拶だ。」
ロウソクにライターで火をつけ、そこに線香を近づける。十分に燃えたところで線香の火を消し、線香を立てかけるように置いた。
「先のことなんてわからないし、考えるのは尚更。でも今こうして付き合ってる彼女ができたからさ。父さんと母さんにも紹介してやりたいって思ってさ」
「そっか」
蓮君がしゃがみこんで、墓石に向かって手を合わせた。それを見て私は彼の横に腰を下ろし、心の中で語りかけた。
「(初めまして、蓮君のお父さんとお母さん。崎田紅葉という者です。この度私は、蓮君とお付き合いをさせて頂けることになりました。蓮君は私のことを何度も助けてくれた、とても頼りになる人です。私はこれからたくさん迷惑かけるかもしれません。困難なことに直面するかもしれません。でも蓮君と一緒に乗り越えていきたいです。どうか天国から私たちのことを見守っていてください。よろしくお願いします)」
三十秒程は目を閉じて、口には出さず心の中でそう言った。蓮君のお父さんとお母さんに、この想いが届いていますようにと。
「随分と長かったな」
「心の中で、蓮君のお父さんとお母さんにご挨拶してた」
「そっか。それでなんて言ったんだ?」
「へっへっへー。内緒ー」
はぐらかされたけど、無理に聞くのは悪いと思い、これ以上は聞かないことにした。
「さてと。付き合ってくれてありがとな」
「いいのいいの。でも初めて二人で行った場所がお墓ってのはなんかねー」
「悪かったなムードってもんがなくて」
「じゃあ週末空いてる? デート行こうデート!!二人でお出掛けしてそれで……」
「いいな。どこに行こうか……」
週末どうしようかと盛り上がっていたら、俺たちの方に近づいてくる人影があった。
「おやおや。こんな偶然もあるものだ。久しぶりだね蓮君」
「あっ。大桑さん」
大桑さんにばったりと。そういえば初めて・・・ではなく前にこうして話をしていたのもここだった。
「蓮君の知り合い?」
「俺の、と言うよりは父さんの同僚の人。以前は同じ研究所で研究していたんだ」
「そうなんだ」
「今度は妹さんではなくて、ガールフレンドと一緒かい」
紅葉の方を見ると大桑さんの言葉が途切れた。そして驚き、深々と礼をしながら言った。
「これはこれは崎田家のお嬢さんじゃないですか! お久しぶりです。あれから年数経ちましたけど、立派に成長なさったようで」
「え? 面識あり?」
俺が紅葉にそう聞くと、彼女は唸りながらなにか思い出そうとしていた。
「研究所……あそっか。中学生くらいの時に一回、お父さんに連れられて来たような気がする」
「マジか」
「崎田家からは資金援助を頂いているからね。彼女のお父様とは、我々としては面識深いんだ。こちらの今の代表とは、時々会っては酒を呑み交わす仲でね」
「そうなんすか」
ここにきての驚愕の事実であった。
「それにしても蓮君が彼女とお付き合いすることになるとは驚きだよ。どうか良い仲であって欲しいよ」
大桑さんが嬉しそうに話しているところに、紅葉が質問をしてきた。
「あの~大桑さん。聞いてもいいですか」
「なんだい? 答えられることであれば」
「蓮君のお父さんとは仲が良かったんですよね?どんな人だったんですか?」
顎に右手の指をあてて考えてから、大桑さんはこう答えた。
「そうだねぇ。一言で言うなら、真っ直ぐな人だった。研究熱心なのもそうだし、一度そうと決めたことを、易々と投げ出すようなやつじゃあなかった」
「そうなんですか。蓮君と似てるなって」
「血の繋がった息子だからね。似るものなんだろう」
その後大桑さんは両親の墓石に花を供え、手を合わせた。
「それじゃあ僕はこれで。君達の今後が良いものになることを応援しているよ」
「ありがとうございまーす」
「さて。じゃあ今度こそ帰るとしますか。週末のことはゆっくりと話そうか」
「でも木曜日だから、あんまり時間ないよー」
「おっとそうか。なら早く決めとかないとな」
そのあと二人で色々話しながら、帰路に着いた。




