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約束

 その後は俺が休んでいた部屋に戻って、邦岡さん達と話をしていた。今度は執行班とかそういうのは関係なく、お見舞いとしてだ。

 話も終えて天王寺さん達が帰ってしばらくしてから、その部屋に紅葉のお父様がやって来て俺に言った。


「蓮君。君と話したいことがあるのだが、よろしいかな」

「あ、はい」

「紅葉。一緒に来なさい」

「はーい」


 そう言われると俺と紅葉はお父様に着いて行った。着いた先はまた違う部屋だったが、今度はどこか見覚えがあった。記憶が正しければ、最初にお父様にの挨拶に訪れた際に通された部屋だ。

 お父様と向かい合わせになる形で正座で座り、紅葉は俺の右隣に座った。



「まずはお礼を言わせて欲しい。この度は崎田家の為、力を尽くしていただき感謝する」

「あ、いえいえそんな。こちらとしてもよくわからない成り行きでこのような形になってしまったわけで、自分の方は崎田家にご迷惑をお掛けしてしまったと」


 向こうから勝手に勝負を挑まれて、俺は考えるまもなく応じることになった。最終的には俺が勝ったとはいえ、崎田家にはご迷惑をお掛けしてしまった。詫びを入れなきゃ俺の気がすまない。それどころか詫びて済むようなもんでもないだろう。


「そんなことは無い。むしろ今回の件で向こうとはキッパリと関係を断つこともできたし、管理局からの牽制をかけることもできた。彼らのことを心配する必要は無い。」

「あの恐縮ですが、元々ご関係はよろしくなかった。ということですか?」

「良くはなかったね。互いの考えのズレというのもそうだが、一番にあったのは彼らの汚職を知っていたからだ。それを知っていて提携関係など有りやしない。まだ公に明かされていないが、先程話したように、今後は管理局の方々とともにそれらを世に知らせる必要がある」

「そうですね」


 今日において能力者の存在は日常の一部にもなっている。それらが発展に生かされる反面で、悪用される事例も少なくない。能力者に対抗するという意味で設立されたのが管理局であり、その傘下である、俺の所属する執行班の役目でもあるのだ。


「その為の管理局であるし、君や紅葉の所属する執行班の勤めでもある。私の立場で言うのもあれだが、頑張って欲しい」

「はい」

「分かってるよ、お父さん」



「さてと、前置きもこのくらいにしておこうか。私も午後から予定があるのであまり長々と話ができない」


 そして、ここからが本題のようだ。


「紅葉の話や、君の昨日これまでの振る舞いを見ていて、君という人がどういう人物かよく分かった。私としても頼みたい、どうか娘のことをよろしくお願いしたい」

「……」


 最初は言葉が出なかった。突然こう言われたことへの驚きなのか、はたまた喜びなのか。

 以前ご挨拶に伺った際は、俺の方からお願いしようとして、言い切る前に邪魔が入って、その後結局言うことができなかった。そして今、俺が言うべきことを今度はお父様の方から言われた。

 以前はこう言われた。あとは君次第だと。

 一度目を閉じて、少し俯き言葉をまとめ、整ったところで目を開き、再びお父様の方を向いて俺は言った。



「付き合うと決めた時、俺は紅葉のことを守ってやりたいと。そう思いました。それだけでなく初めて出会った時も、先日の事件に巻き込まれてしまった時も、そしてこれからも。その気持ちは嘘偽りなく変わりません。こちらこそ。とは言いません。お父様。この度は崎田紅葉とのお付き合いを、認めて頂けないでしょうか!!」


 俺は思いの全てをぶつけて、お父様に深々と礼をした。お父様が任せてくれた、からではない。自分からお願いしなければならない。


「私からも、お願いします!!」


 紅葉もお父様にお願いして言った。今彼女の姿は見えないが、俺と同じように礼をしているのやもしれない。


「君のその真っ直ぐな思いは十分に伝わってきたよ。改めて言わせて欲しい。紅葉のこと、よろしく頼む」

「ありがとうございます!!」


 改めて認めてもらえたこの瞬間は、あの時のように、忘れられないほどに嬉しかった。





 休み明けの月曜日。学院に通うぶんには問題ないので、普段通り登校。よく晴れた気持ちのいい朝だ。


「あれから具合はどうなの?」

「痛みはもうほとんどないが、今日はまだ包帯は巻いてある。取ってもいいんじゃないかとは思うんだけど、明日までは付けていろって昨日言われたからさ」


 怪我はほぼ治ってきてはいるが、まだ様子見も必要なので今日と明日は、体育の授業とか執行班の活動は休ませてもらうことにした。


「黒宮先輩ー!」


 学院に着くと、背後の方から俺の事を呼ぶ男子の声がした。つい最近き聞き覚えのある声だった。振り返った時にはちょうど俺のすぐ後ろの方にいた。


「おはようございます! 黒宮先輩!」

「あぁおはよう。和泉だったか」


 以前俺に相談持ちかけてきた、和泉という一年の生徒だ。


「はい、そうです! って右腕包帯巻かれてますけど大丈夫なんですか」

「そう騒ぐな。もうほとんど治ってるし、保護って意味で付けてるようなもんだ」

「そうですか……。それはそうと、この前はありがとうございます。あれから自分、色々と鍛えたりして頑張ってるんです。黒宮先輩みたいな執行班の班員になるのが今の目標なんです」

「そうか。無理しない程度に頑張れよ」

「はい! では失礼します!」


 和泉は朝だというのに元気よく挨拶してから生徒玄関の方に走っていった。


「今の一年の子だよね。どうしたの急に?」

「前に三年に絡まれていたところを助け出したんだ。そんでその後相談持ちかけてきてな。どうしたら先輩みたく強くなれるんですかーって」

「あっそ。それであんたはなんて答えたのよ」

「まぁ鍛えろって言うのはそうだが。自分に嘘はつくなよってだけ」

「あんたがそう言っても、私らとしちゃ胡散臭く聞こえるのよね」

「悪かったな胡散臭くて」


 そう言われても仕方無い。付き合いの長い二人には、俺のそういった悩みだとか内心も丸見えと言ってもいい。


「お兄ちゃんの場合、考えと行動が一致してないって感じだけどねー」

「そうそう」


 そしてこの追い打ちである。返す言葉も出やしない。考えることが回りくどいってことは、俺自身もよく知っています。


 教室に入ると、今日は珍しく彼女は先に学院に来ていた。俺と真琴が入ってきたことに気がつくと、一目散にこちらにやってきた。


「おはよー蓮君、真琴ちゃん」

「おはよ」

「おはよう」


 今日も彼女は笑顔だった。いつもの紅葉だ。


「あーそうだ蓮君。小松主任から伝言預かってるの。執行班の見回り明日入っているの、水曜の草薙君と入れ替えだってさ。だから水曜は私と見回りね」

「わかった。ありがとな」


 伝言を聞いた俺はその後少し考え事をしていた。今週の予定に関してだ。整理が着いたところで、俺は紅葉に言った。


「なぁ紅葉」

「どしたの蓮君?」

「その……今週の木曜の放課後って、空いてるか?」


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