教王国への旅 ~俺、行ってないんだけど!?~
春休み、春期講習がはじまる・・・
「では私はこれで」
「メレーヌ、これを」
BARから出て行こうとする彼女に僕はあるものを投げた。
「これは?」
彼女はそう言って受け取ったものを見るとそれは桜マークの入った銀の盾の付いたネックレスだった。
「それを使えばむこうのサクラ商会で裏メニューを出してもらえる。そこに特別なのもあるから見てみるといい。僕にとって特別人ということだからできればもっていてほしいな」
僕がそう言うと彼女は顔を真っ赤にして「わかったわ、考えておく」と顔をそむけて行ってしまった。
「ヤイチ、君はいいのかい?」
「うん?」
「聖女様に」
「ぶッ!?・・・なんで」
「知ってるかって?いや、前回の潜入の時に君が助けたの知っているし・・・」
「まさか、聖女様に会いに行かなかったのは・・・」
「君のコネがあるから・・・ああ、そうだ。大司卿と枢密卿、暗殺されたことになっている教皇には根回し
は済んでいるよ」
「アルム大司卿とエコール枢密卿はわかる。でも教皇様だと?今のお飾りではなくだよな」
「ああ、先代教皇。聖人 バルトス王」
「・・・とんでもない名前が出てきたな。かれはどこに?」
「レジスタンス幹部は?」
「え?・・・発起者である司祭テルク、老騎士エルトワ、魔術師ストルバ・・・あ」
「そうだ、バルトスの二つ名は魔術王。あの魔術師の反対から読むと」
「か、彼が・・・俺結構ため口を言っていた気がするぞ?」
「はは、色々と文句言われたがお前の人柄は気に入っていたようだぞ」
「そうかよかった」
「でも聖女様が目にハート浮かべていたと言ったら、次会ったら殺す。だって」
「バカ野郎!?何言ってるんだよ」
「はは、いい機会じゃないか。少しもまれて来い」
「いや、もみころされるよ、俺?俺一応国王だよね!?」
「あ、そうだった」
「おい!?」
僕がそれを見て笑うと彼も笑いだす。
「あれは確か、2か月前だったか?」
「ああ、建国準備で忙しいだろうあの時期に、良く行ったものだ」
「ああ、あとはあそこの国だったし、残りはお前とあの二人だけだったからな」
「どういうことだ?」
「お前に以外には言わないでほしいんだが、俺はすでにこの第4大陸と呼ばれるこの大陸の国家にはすべて
面を通してあるし、ちょっとした拠点の建設も完了している」
「・・・トモ、お前何か焦ってないか?」
その言葉に僕の酒が止まる。
「・・・いいや。これは急いでやらないといけないことなんだ。僕らはこの世界に始めから生を受けた存在
じゃない。『来訪者』なんだ。…この言葉含みがあるように思えないか?」
「来訪者にか?来訪者は遠方から訪ねて来た者という意味だよね?」
それに僕はうなずき、空になったカップに酒を注ぐ。
「訪ねてきたものは帰ることが前提なのさ。・・・いや、強制帰還かもしれない」
「どういうこと?」
ヤイチは不思議そうに僕に聞く。僕は『メニュー』を開きストレージから一束の書類を出しヤイチに渡す。
「これは?」
「来訪者が一番集まるのは教王国だ。そして、教王国は来訪者を歓迎するとともに一番に警戒していた。そうりゃあそうだ。あそこは今じゃ魔神信仰が根を張っているんだから、創生神の祝福を受けているかもしれ
ない来訪者なんて容認できるはずもない。だからずっと監視していたようだ。動向、発言全てに注目し、『どうやって帰還させるか』をずっと考えていたんだ」
「・・・帰る方法があるんだというのか?」
彼はこの世界に来て言われた女神の言葉を思い出したのだろう。ゆえに僕もこう答える。
「それは分からない。・・・ただ正直言って、僕達はイレギュラーなのかもしれない」
「どういうことだ?・・・あ、ストルバからお前がもらっていた本」
「・・・さすがヤイチ。いい着眼点だ」
僕はそう言って一冊の本を取り出す。
古くくたびれ所々ほつれているが、大切にされていたことが良くわかるものだった。
僕は思い出す。あの国で出会った人と、来訪者が来訪者と呼ばれる由縁を。
※※※
ヤイチと教王国に行くことになったのはちょっとした手違いからだった。
この新生ヤマト法国は3つの大きな山を挟み3つの国と接し、背後には広大な海を要する国である。この国の特徴はその3つの山を保有することとそこに発生するダンジョンと鉱石の独占、また都が他国と比べ数倍巨大であり、その代わり村や町がなく山越えを果たした商人や、ダンジョン帰りの傭兵の休憩地となる盾に伸びる宿町があるぐらいだ。
しかしその代りの多くの自然が残っており、危機が生い茂り生き物は多く住んでいる。
ここまで言うと分かってもらえると思うが、わが国には食糧生産地が全くと言っていいほどない。唯一、何代か前の王によってつくっられた都の農場にでは野菜が育てられているが穀物は一切ない。またその農場も元の4割が食えない畑。綿や綿を作る畑へとシフトしてしまっている現状だ。
それゆえに今のこの国食糧事情は完全に輸入に頼っていることになる。
人の、生物の3大欲求の一つ『食欲』。
これをおおさえられでもしたらこの国はあっけなく瓦解することは目に見えていた。
無論その点は、既に対策を始めており村を作り奴隷を解放と引き換えに村に住んでもらい、新たな宿町兼農業村とする。また力ある者には武術をお教え、傭兵登録させて村の警備にも一役を買ってもらい、知恵ある者には管理をお願いする。
これで自給率をあげながら、こちらのあいさつもかねてひそかに各国を回り、秘密を握り『交渉する』。
建国してもこちらが邪魔をくらわないように。
目下の目標としてこの国から大陸中央に目を向けて右の帝国、中央の商会連合、左の教王国へとそれぞれパートナーを連れて出ていたのであった。
帝国にはホシカとサラ、商会連合にはロビンとレライト。ただ、謎の多い教王国には一人まあ、正確には月詠と行くつもりだった。
その計画がホシカにばれたのがいけなかった。
彼女はみんな(テンとスーは抜きにしてもらった)の前でさんざん僕を問い詰め、教王国に行くこと。しかも一人で。そしてみんなを危険なに合せないためということを言うと彼女はさらに怒った。
「トモくん!私たちそんな信用無いの?私たちも君の力になりたいの」
その言葉に僕は何もいうことはできなかった。
いや、正確にはその言葉をどこか肯定も否定したくないと思ってしまった。
僕の考えるこの国の先で彼女たちがどうなるかを考える。
だけど僕にはわからない。人はいつも無限の可能性を秘めているから。
何処でどうなるか分から無すぎるのだから。
そんな時ヤイチが言ったのだった。
「え?みんな国外旅行言ったの?俺、行ってないんだけど!?」
この一言によって、僕とヤイチそれに月読の面々による教王国へ旅が決定した。
頑張って連日更新します!応援のメッセージ感想、ブックマーク宜しくお願いします!




