閑話:BARカナタ 03
数十分すると、服の少し汚れたマスターが帰ってきた。
「おや、ずいぶんとアルノ―に気に入られたようで・・・」
「おう、こいついい腕してやがるぜ!」
「はあ、またそうやってからんで…。まあ壁は直してくれたようなのでいいのですが…」
えぇ…そこは怒って―――
その言葉に僕は思わず後ろを振り向いた。
そこには新品のような継ぎ目ひとつない壁が立っていた。
今更ながら先ほどから風が来ないことに気が付く。
「・・・すごい」
「わはは、このくらい、一流を名乗るなら普通よぉ!まあ、おれはただのドワーフじゃねえからな」
「・・・ええ、こんないい腕をしたエルドワに会ったのは久しぶりです」
「ほお・・・」
ドワーフの爺さんがそう言うと、barのドアを開けるとなる鈴が鳴り響く。
「よお、マスター!また傭兵ぶっ飛ばしたんだって?相変わらずだね?お、爺さんも。そっちの坊主は・・・新顔か?誰の紹介だ?」
「こんにちは、エルビンさん。彼は私の紹介ですよ。…またギルド長に難癖着けられましたか?」
「そうなんだよマスター、きいてくれよ!?」
彼はどうやらこの中央通りの元締めをやっている人物のようで、今日のギルド長との会合で色々と難癖着けられてわいろをせびられたらしい。
・・・ギルドから手を付けてみるか。
僕はそんな風に考えながらちょっと豪華な食事を持って席を立ち、彼の横の座る。
「自分この国に来て日が浅いので色々教えてください」
「おう、いいぜ坊主。お前さん委は恩を売っておくといいことありそうな気がするぜ」
「それは嬉しいですね。マスター、彼常連ですよね?彼の好きな酒を僕のおごりで」
「お?いいのか?やったぜ!」
こうして彼やそのあと来た人物を酒を酌み交わしながらこの国の色々なことを教えてもらった。
気づけば月が輝く真夜中になっていた。
外からは馬車の音がめっきり減り、一方店内はゆっくりとカウンターで酒を飲む人がいれば、テーブル出口を言いながらどんどんお酒を飲む人といろいろいた。
彼らもこの時間になると奥さんに怒られるからと帰って行き、そうでもない人も、酔いつぶれて眠りだしていた。
・・・まあ案の定酒飲みドワーフさんはいまだにお酒を飲んでいたが。
「マスター、ちょっとお話良いですか」
酔いつぶれてしまった人との経営するお店の従業員とおもわれる人たちが彼らを回収してゆき、僕と酒飲みドワーフ、マスターだけになったのを見計らい、僕はそう切り出した。
「こいつにも聞かせていいかい?」
マスターはそう言って酒飲みドワーフを指差す。
「かまいません。むしろ一緒に聞いてもらうつもりでしたから」
「へえ」
酒のみドワーフはそう言って酒をおくと、マスターはその前に水の入ったコップを置く。
「ならちゃんと聞いてやるよ」
酒の抜けたドワーフのおっさんは職人の面をしていた。
あまりの気配に思わず圧倒されてしまいそうになったのは少し驚いた。
「実はですね・・・」
僕はとある提案をした。
中央通りに我々勇者の政治をする際に情報の中心となるところを作りたいが、いい場所が無くて困っていた。そこでマスターの店を夕方ごろまで貸してもらって、その間今計画中の城下町のbarでマスターをしてほしいという提案だ。
実際のことを言ってしまえば、ここに根を下ろしてもらうための口実だ。
引退していようと冒険者としての経験は大きい。
のちに色々なアドバイスや、こうした店をやっていることもあり口は堅いだろうからこうした息抜きの場を任せる人としてはちょうどいいと感じていた。
「お前さん・・・勇者だったのか」
「エドワードの奴が東の賢者様と同じような雰囲気を持つ方がいたといっていたがまさかお前さんか」
どうやら、エドワードさんと知り合いのようだ。
よく聞けば、エドワードさん貴族だったが家出した元冒険者らしい。
魔法職として彼らの後方支援を担当していたようで昔から器用貧乏だったそうだ。
そんな彼もたまにここに顔を出すそうで普段お真面目な彼からは想像もできないようなことを色々と聞けた。
「それで坊主、俺に話はないのか?」
「いやー、こういてはなんですがあなたの情報を何一つ持っていなくて…」
すると二人は顔を見合わせ、二人して笑う。
あの寡黙でミステリアスな雰囲気を見せていたマスターに会った控えめな笑いと、豪快に酒を飲んでいたドワーフにふさわしい豪快な笑い声だった。
「そうか、こいつの事を知っていながらわしを知らんか」
「まあ仕方なくありませんか?だって、彼らがここに来たのは少し前ですし」
「そうだな。わしはな、儂はな・・・この国の鍛冶師組合の会長にして、北大陸一デカい武器商会〈レメント〉創始者 アルノ―トという。近しいものからはアルノ―だな。坊主もそうよんで構わねんよ」
「レメントの創業者!?・・・アルノ―トですか。不思議ですね、今日尋ねてみようと思っていたところです」
「ほお、それはまた」
「私の仲間、レライトの開く〈サクラ商会〉との併合、又は後ろ盾になっていただきたいと思っていました」
「・・・サクラ商会?もしかしてあの振興会社にして莫大な儲けを出している?」
「そうですよ、私がプロデュースし、影の経済王との呼び声の高い彼女による画期的新商品、新技術、新事業。私は情報、経済、文化の3点からこの国を使って、ある計画を立てていますそれは――――」
...。
二人の反応はかなり驚いていた。
しかし、目の前の彼ならばなぜかできるのではないかと感じてしまったのもまた事実。
ドワーフのおじさんは盛大に笑うと僕の背中を叩か着ながらこう言った。
「その夢おもしれ、うちの店は傘下に入ってやる。・・・今いったこと忘れるなよ」
そう言って快く快諾してくれた。
「私は別のお願いがありましてそれを聞いてくれるなら・・・いいですよ」
そう言ったマスターは洗ったグラスを丁寧に拭きながらもその目は自分を値踏みするようなベテラン冒険者の雰囲気を感じたのであった。




