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君だけがいない世界で

作者: T-熊さん



 

 ―――おかしい。この世界は何かがおかしい。


 これは俺だけしか気づいていない問題(こと)だ。

 しかし、何故こんなことになったのかについては全く分からない。

 ならば、俺は一体何をすれば良いのだろうか―――?



 ***



 この世界がおかしいのは多分、()()が原因だと思う。

 ()()、というのは簡単に言えばそう、交通事故のことだ。


 ちょうど一か月前のことだ。俺は友人の大岡修治(おおおかしゅうじ)と一緒に高校から帰る途中で酔っ払いが運転する暴走トラックによる事故にあった。

 修治はトラックに轢かれて死んだ。即死だったらしい。死んだことはとても悲しいことだが、その最期が苦しみ抜いた後のものではなかったことを知り、俺は不謹慎ながらも一応安堵した。


 なんで伝聞形なのかというと、修治と一緒にいた俺も無事ではなかったからだ。

 死にはしなかったものの、右足を折るという重傷を負ってしまった俺はついこの前まで起きて→リハビリして→食べて→クソして→寝る、という至極退屈な日々を過ごしていた。その時に担当医師から修治について全て聞いたのだ。その日は頭が真っ白になって食事も喉に通らなかった。


 ―――とても悲しかった。何もかもが嫌になるほどに。


 そんな中、この前松葉杖ありきではあるものの、退院することができた。

 彼の葬儀は俺の入院中に行われたということで俺は行けなかった。なので彼を弔うため、彼の好物だった崎〇軒のシュウマイと花束を持って彼の家へと行った。


 彼の家では、彼の母親がいた。その顔はとても悲しそうで――――――()()()、とても困ったような…まるで、「何なんだこいつは?」とでも言いたそうな顔で、


「あなた―――誰です?」


 そう、言われた。


 訳が分からなかった。

 しかし、住所は修治の家と全く同じで家の外観も、母親の隙間から見える内装も全て見たことのある風景だった。

 だからこそ、何が何なのか理解することができなかったのだ。

 修治とは小学校からの仲だったから、あり得ないことだとは思ったがもしかすると彼の母親が忘れているだけなのかもしれないと思い、全て―――一から十まで説明したが結果はこうだった。


「あなたなんて知らないし、そもそも自分たちには息子なんて一人もいない。娘はいるが、女子高に通っているのであなたとは面識なんて一切ない」


 とのことだった。

 思わず俺は走って逃げた。目的地も決めず、ただ一心不乱に。

 けれど、松葉杖に支えられて辛うじて歩いているだけの俺はすぐに転んでしまう。だけどそれをも無視して進み続けようとする。


 そして、俺は…叫んだ。


 意味も分からず泣き叫ぶ赤ん坊のように。

 けれど、俺の中には一つ確かめなければならないことがあった。



 ***



 まず、家に帰った。

 そこで机の棚に乱雑にしまっていた書類群の中から卒業アルバムを小中学校分取り出す。(といっても、他には卒業アルバムは幼稚園の時のものしかないが)

 小中一緒だった修治の写真がそこにはあるはずだ。―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 しかし、その藁にもすがる思いで頁をめくった結果は俺の予想通りで一番待っていなかったモノだった。

 何も、修治に関するものは何もなかったのだ。

 生徒紹介の写真から始まり、学校での一コマも、遠足に行った時の写真も、修学旅行のも、何もかも消えていた。生徒紹介のところは修治の部分を埋めるように写真が詰められていて、他の部分は修治以外の生徒の写真が代わりにはめ込まれていた。


 卒業アルバムを床に叩きつけ、松葉杖をとって、家を出る。

 まだ、可能性は残っている筈だ…………!



 ***



 次に向かったのは知り合いの家だった。

 ソイツは俺と修治の共通の友人でよく三人で遊んでいた。が、結果は修治の母親の時と卒業アルバムの時と変わらなかった。


「?お前何言ってんだよ?いっつも俺とお前に()()で遊んでいたじゃないか」


 素っ気なく答えるソイツに俺は激昂し、胸ぐらをつかんでしまう。

 叫び、怒る俺にソイツもソイツで怒りだし、俺の頬を全力で殴る。


「テメェ、何しやがる!?さっきからお前意味が分からないんだよ!意味の分からないことばかり言いやがって!大体修治って誰なんだよ!?もっ、意味分かんなすぎだよぉっぉおおおッッ!!??」


 こっちもこっちで何故修治を忘れているのか分からずただただ激昂するしかない。

『意味が分からない』と『意味が分からない』がぶつかり合い、その渦が更なる『意味が分からない』を生み出し、ただただカオスが深まるだけだった。


 また、予想通りだった。



 ***



 もう、何も信用できない。

 自分の親に聞いても何も知らない、といういつも通りの答えだった。


 だから、もう警察に頼るしかなかった。


「いや、だからね?君が何を言いたいかは、分かるんだけど…いかんせん住民票には載っていない人物()だからねぇ。どうすることもできないんだよ」


 予想通りの結果に流石に警察で暴れるわけにもいかずそのままゆっくりと家へと杖をついて帰っていった。



 ***



 ―――おかしい。この世界はおかしすぎる。


 これは俺だけしか気づいていない問題(こと)だ。

 ―――けれど、それを証明する手段がない。


 しかし、何故こんなことになったのかについては全く分からない。

 ―――そりゃそうだ、俺が入院しているときに全てが書き換えられてしまったのだから。


 ならば、俺は一体何をすれば良いのだろうか―――?

 ―――そんなの、分かるわけないだろ……………ッ!!



 ***



 とぼとぼと帰路についていた。


「やっと見つけたよ。最も勇者と親和性が高い君を、ね」


 いきなり誰かに話しかけられた気がした。それに振り向いてしまう。…それが、一番の敗因。

 そこにいたのは、明るい水色のショートヘアの少女で……


 ッバッァァァァァァァンッッッッッッッッッッ!!!!!!


 急に眉間に押し付けられた黒光りする塊から凄まじい音が発せられたと思った瞬間、俺の意識が飛んだ。



「……あーあ。あっけない仕事だにゃー。殺す方より探しだす方が手間だなんて。けれ プツンッ


 …飛ぶ寸前、辛うじてそこまで聞こえることはできたが、その真意まではつかめなかった。







 ***






「あー。懐かしいなぁ。()()ももう十七年前のことかー」

「せやな。まさかお前が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とは思っていなかったよ」


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()は家のリビングで談笑していた。


 そう、彼らは元々地球で過ごしていた学生であった。

 しかし、暴走トラックの件と青髪少女の件のせいで異世界転生してしまい、今では『俺』はクードル・ファネル、大岡修治はオーカス・シューターという異世界人となった。


 そういった顛末で彼らは成り行きで勇者となり魔王を倒し、『こちら』の世界を見事救ったのだ。

 といってもまだまだ彼らは『こちら』の世界では十七歳の未熟な青年であるため、現在進行形で異世界スローライフを過ごしている真っ最中であるのだ。


「すいませーん。ファッさーん、シュー、いるー?」


 コンコン、という扉をノックする音共に若い女の声が聞こえた。

 オーカスが扉を開けると青いショートヘアの少女がいた。あの『俺』を銃で殺した少女だ。

 少女はどかどかと二人の家に入り、さっきまでオーカスが座っていたところにドカッと座る。少女は尊大な態度で、


「ねぇ、ジュースちょーだいジュース!てか喉乾いたーー!!」


 と喚き散らし、立っていたオーカスがそのまま冷蔵庫からオレンジジュース的なものを出して差し出した。


「はいはいどーぞ。女神サマ?」

「そーよそーよ私は女神なんだからもっと敬んなさいよ!」

「「(うっせーよ、テメェのせいで俺らはこっちの世界に来たんじゃねぇーかよ!!)」」


 尊大に座る少女は世界の可能性を操り、数あるパラレルワールドの中から修治が暴走トラックによって死んだという結末に固定し、直接自分の手で『俺』を殺し、さらに二人に関する情報を元の世界から全て消した犯人である女神様なのだ。


 彼女曰く、『こちら』の世界を救うためには凄まじい魔力を生まれつき保有する修治とその修治の記憶をずっと持ち続けるほど修治と親和性の高い二人が必要だったらしい。しかし、二人とも元の世界で生まれ生活していたため、異世界転生で『こちら』へと持ってこなければならなかったらしい。


 ―――ともあれ。

 全てが分からない悲しい時間は無くなった。多少、前の世界に未練はあるものの、もう過ぎてしまったことで嘆くだけ無駄だということはしっかりと理解している。



 だからまぁ。これからも続く異世界スローライフを二人…いや二人プラス一柱で楽しんでいこう!!

…っというわけでオチをあれに繋げたかったがための前半の茶番でしたー!

なので結構急ぎ足やもしれません。

ま、『アナザーワン』の息抜きに、と思って書いたものなのでそんなモンです。

もしよければ不定期に更新しています長編の『アナザーワン』の方も読んでいただけるととても嬉しいです。

ではまたーー。


P.S

キーワードに(?)がついているのはこの短編自体がどっちつかずの悲しいやつだからです。

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