1-0 雨降り注ぐ静けさに
「あなたが望んだ結果は、我が主にとってあまりに非情。まあ、最初から分かっていたけれど」
あたりでは漆黒の闇が満ち、聞こえるのは絶え間なく降り注ぐ雨音。
「これまでの千年――私は虚しく生きてきた。また次の千年も、虚しく生きるのか」
さほど年端もいかない少女の声が、雨に混じってあたりに散る。
字面からして、重そうな言葉だった。しかし、不思議とその口調に重苦しさはない。いやむしろ――これを酒の肴にして、笑おうとする気配さえ。
「一体、次は一体誰になるのでしょうね。私の餌食になるのは」
街灯が闇にあらがうかのように光を放つ。その下に突如として人間の姿がしのびこんだ。背の低い、あまり大人とは言えない体格の女が雨に打たれながら街灯の側を通り過ぎる。
それから、より陰を帯びた声でささやいた。
「そうだ、もっと頑丈な奴を選びましょう……もっと頑丈な奴を」
口元から笑みを浮かべる。しかし不思議なことに、邪気をあまり感じさせない顔つきだった。
人間らしさを感じない気配が、そこに。
近づいてその姿を観れば、確かに美しい少女だった。顔色には幼げな感じ。もし手をつかまれれば、そのままつかまれていたくなるような可憐さ。同時に、それを放っておけば、だんだんその欲求を追求せずにはいられない奧深さが。
髪は星を覆う夜空、青い瞳はよくみがかれた水晶の輝き。
そのような顔つきが雨に濡れていた……それさえもつやを与え、いつも以上の生気を与えているかのように。
しかし、一つだけ異なる点をあげれば、しずくは彼女の肌につくことなく、滑らかに地面へと。震えている気配はない。彼女の服――紫色で、すそあたりに金色の装飾をほどこした古風な衣装――もなぜか、同じように水を浴びることなく、しめりもしていない。
「次の我が主は一体どこかしら? せいぜい、失望させないでくれるといいけど」
少女は笑い声をあげたようだ。だが、風情なくもかき消す雨音。
それから、またどこかへと歩き去った――誰かに見られることもなく、また知られることもない場所に。
街灯から離れていった瞬間、その姿はもうどこにも。