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百鬼絢爛(骨組み版)  作者: 赤良狐 詠
私ができること

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黒木紗理奈の証言


 広い一面を覆い尽くした大量の水は一瞬にして元の鏡へと戻った。先程まで水のようだったその鏡は、今は普通の鏡のように紗理奈の姿を映しているだけだった――。


「これで私一人のお話は終わりです」


 紗理奈は法壇を見上げて彼を見た。今までのことを実際に見た彼の表情は険しく、そして、確固たる物を得たのだという顔であった。


「やはりあの鬼娘は大変危険ですね。あなたを見殺しにしようとしたばかりか、殺人未遂までした。権藤の件もこれでほぼ立証されたようなものです」


「待って下さい! まだ私達が残っています!」


 紗理奈はその声で誰だか解った。傍聴席に座って自分の次に証言台に立つ人物を紗理奈は見た。彼女は傍聴席から立ち上がって足早に証言台までやって来て紗理奈の隣に来て、彼の座っている高くそびえる法壇を見上げた。


「まだ美鬼ちゃんの全てを見せたわけじゃないんです! これから、まだこれからなんです! お願いです! 私達にも証言をさせてください! そのために私達をここに呼んだんじゃないんですか? 鬼怒川さん!」


 そう怒号し言葉を並べた彼女は法壇の鬼怒川を見た。肩まである長い髪と中性的な顔立ちはまるで女性のような印象を受ける。それでも、やはり彼は鬼なのだ。地獄の鬼、閻魔大王に仕える獄卒。額から生えている二本の角は、朱色で鋭くまるで大きな薔薇の棘のようだ。


 鬼怒川は法壇から証言台にいる二人の人間の少女を見た。彼女達の切実な思いが、彼には理解できない部分ではあったが、これはこれで面白いと思った。


「――解りました、良いでしょう。ではそのまま浄玻璃鏡(じょうはりきょう)の前に立ってください。小林瑠美さん」


「待ってください。私がこれから見せる体験には、私と一緒に証言をしなければいけない人物がいるんです」


「それは誰ですか?」


「絡新婦の椿さんを、私と一緒に浄玻璃鏡で証言させてください」


 瑠美が閻魔庁で椿の名を口にしたその頃、椿は牢獄で静かに涙を流していた――。

                「序」 完

              疾風怒濤の「破」へ続く

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