警視登場
生徒たちが全下車なので、ここでガール車両はアダルト車両に華麗に変身する。
そして全車両から、それぞれ約二名ずつの大人が降りた。
瑛の前に整列する。カバーたちだ。無防備放置なわけ、なかったのだ。
さっき、のされた二人も今は回復して列に並んでいる。全員無表情だったが、さすがに、面目なさげさを、色ににじみ出していた。瑛に向かって、そして俺にも低頭して、駅前に待機していた車に乗って撤収したが、さぁ、どんな処罰が下されるやら。せめて過重なものではないことを、彼らのために祈りたい。
学園駅ではすでに警察が待機していた。あの男、容疑者がタンカで運ばれていく。あんたのこと支持する気はないけど、よくやったよ。治ったら、素直に全部ゲロしろよ。よく知らんけど、それが供養ってもんだぜ。
同ハコだったアダルトたちが、婦警らに導かれていく。姉さまがたにおかれては、巻き添えホントすまんです。
ハコが手際よく別レールに切り離され、調査のため技官が乗り込んだ。
残りの車両が、何事もなかったように再編成され、発車していく。すべてがスムースな流れ作業だった。別に自慢できることでもないんだがな。ふふん。
警察員が一人やって来て、合図でもある挙手礼をした。
俺は、興奮気味の生徒たちから、やかましいほどの盛大な挨拶を――鷹揚に受けていた瑛の手を、引っ張る。警察員に導かれるまま、構内応接室に、二人して入ったのだった。
そこで待っていたのは、見知っていた警視どのだったのでほっとした。
俺は左襟の校章ピンバッジ、アクシデント・レコーダーのデータを提出する。あとは、簡単に質問されただけで終わった。隣に座ってた瑛には、ねぎらいの言葉をかけただけという、ある意味安直さだった。
席を立つ。
ドアを開ける。そのタイミングで立花警視が俺に声をかけた。
「“煙丸”どの――」
丸い体に丸い顔。穏やかな目の色だった。
「ご苦労さまでした」
警察内部でも、俺の仔細を把握してる人は、そんなにいない。警視はその一人だ。だから、正当防衛と処理してくれるだろう。
「――」
俺は、この大人の目の色が読めない。俺は目をそらしてしまった。
「――いえ。ども。あとはよろしくです」
ぺこりと頭をさげて、ドアを閉じた。