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煙丸 中吉の一日  作者: やおたかき
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主人公の活躍

 手っ取り早く説明する。

 三島財閥、その中核をなすのが三島重工(MJK)であり、このMJKこそ三度の戦争で急激に成長した企業なのだ。もちろん、そのためにはよい製品をそつなく収めるという基本ができてのことだったが、MJKは何百年の伝統のもと信頼にこたえる実力を備えており、またじっさいに十二分にこたえた。

 MJKのおかげで、日本は勝てたとも称えられる。

 その一方で――

「てめぇの人殺し道具のせいでオレの花子が――」

 多数の逆恨みも買ってしまっていたのであった……。

 だがしかし。どーしよーもねーじゃんか! ふふん! ふふん!

 俺は背後に瑛を回し、黄色い悲鳴が巻き上がるハコ内を突進してくる男を、迎え撃とうとした。

 このとき、助けてくれようとしてか、果敢にも割り込んだアダルト若干二名様がいらしたが、あっという間にのされた。

 もはや遠慮無用の緊急事態だ。右手をブレザー内に差し込むと薄型ショックガンを取り出した。MJKのMk-7(H19)、最新型だ。躊躇なく引き金を引いた。瞬間、エナジーブリットが亜光速で射出される。――これで、終わりとなるはずだった。ならなかった。

アンチEBフィールド(AEBF)!?」

 AEBF所持してるやつなんかめったにいないし、いたとしてもだ。

 俺は効かないガンを構えながら、うしろになかば叫ぶように問いかける。「最新型じゃなかったんか」

 瑛は首を振った。その意味は違う。

「あれは一般用じゃない。軍用だ。それじゃ打ち砕けないね」

 青ざめた。同時に。

 軍用――それは直感だった、確信だった。「――JLF(ジャルフ)!」

 とたん、前にも増して凄まじい絶叫がアダルトたちからわき上がった。JLF! JLF! だれもが己の護身銃を取り出し、男に向かって乱射しはじめる。そのすべてを、男のAEBFが中和した。

 さすがに立ち止まったが、たったの一喝で全員を硬直させた。

「うるせぇ!」窓ガラスがびびった。さすがアダルト男の怒声はパンチ力が違う。

「そうだよ! 悪魔に売っちまったよ! 日本の魂をなッ」

 ヒヒヒと悲痛に笑って内ホルダーからショックガンを取りだした。

「代わりにこれをもらった。ニュータイプだ。死ねるぞ」そして無感情的に引き金を引いた。俺が瑛に覆い被さるのとどちらが早かったか――


「ふむ」


 と瑛が頷いた。無事だった!

 周りに、瑛のフィールドが展開されてあった。

「MJK AEBF-c11(H20)。昨夜できあがったばかりの器体なんだぜ」

「~~~~」言葉がでない。ああ……。それで、“今日”だったのか……。

 終わらせよう。俺はやおら振り返ると、男に向かって右手人差し指を突きつけた。

 それで、決まった。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 高電位粒子は防げても、質量は無理。だから針だ。袖口に忍ばせていた、三寸針である。

 手裏剣打ちはへたすりゃ重罪で、実のとこ所持してるだけで違法なんだが、でもこの場合しかたないだろう。それに、針だし、仕事道具だし、経絡(けいらく)点直撃だし、つまり最小ダメージで安全に戦意喪失させただろうし。適切な対応としての正当防衛を主張させてもらうさ。

 などと思ってたらまたしても裏切られた。つくづく、アダルト男の馬力はすごい。その点だけは見習ってもいい。

 もはや痛みも感じないほど興奮してるんだろう。みりみりみりと針を鼻肉から引き抜くとそのまま床に捨て、さっき二人をのしたバカでかい拳で、殴りかかってきた。

 その初撃をスレスレかわし、俺は体当たりを試みる。ガタイのいい相手の方に分があったが、なにもまじめに相撲をとるのが目的ではない。


()()()()()()()()()()()()、てね……」


 右手人差し指、中指を、相手左耳うしろに回すと、その一瞬後には引き戻していた。

 今度こそ決まった。指先に、確かな感触が残っていた。髪の毛一本。そう、今、俺は男の毛を一本、引っこ抜いたのだ。

「あうっ、あうっ、ああうううっ、ひょろぱりゃぴれぴりり……」

 期待通りに、男がくずおれる――

 俺はこの際だ。カッコよくつぶやいてみせたものである。

「“十七(ヒトナナツ)()”。銘、“月舟(つきふね)”……」

 背中に寄り添った瑛が応じる。


()()()()()()()よ」


 言葉を続ける。

「さすが、八代目“煙丸(けむりまる)”。当代随一の、“毛抜き”の業師……」

「過分なお言葉、ありがとう」

「どういたしまして」

 そして列車は、定刻どおりに学園駅に到着したのだった。

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