しいたけ(1)
陽本しいたけ。
そう聞いただけで、日本人ならその風貌がパッと頭に思い浮かぶ。
団子鼻、鼻ひげ、丸めがね。ツルッ禿に、お約束、頭頂にそよぐ一本の髪の毛だ。
銅像に形作る際、その一本毛が最大の難事となったのは、有名な話。細くすれば目立たないうえに折れやすい。かといって太くすれば、それはもはや“角”というものである。
企画部、デザイン部の、ぎりぎりの妥協案の太さが決定されたのちも、今度は鋳造サイドから文句が出た。こんな形状の一体像なんか「作れない」と。すったもんだの末、“毛”は別部品で、ということに落ち着いた。頭頂に穴があいた本体に、“毛”を差し込むという構造だ。
これがアダになった。
とくに、小中学校のガキんちょらの通学路上にあったものが、被害を受けた。
悪戯されまくり。
“毛”を引っこ抜かれるのはまだしも、その抜けた穴に、様々なモノが突っ込まれたのだ。野花が一輪挿されたなんてのはまだいい。どことなく風情がある。
傘が突き立てられた。
打ち上げ花火の紙筒がつき立てられた。
最高にけしからんヤツがいて、高級松茸を生やせやがったこともある。
あるところでは、ぶっといヒマワリが豪快に刺さっていて、これは全国区のニュースとなった。
まさに、しいたけ爺さん、受難。
行政機関はヒマでなく、おおいに対処が遅れた。けっきょく、その地域の人々が、毛の根元に接着剤を塗布することでお茶を濁している――
「……」
とりあえず、もう、抜けることはない。
そう――
「……」
俺は話題のその頭髪に、視線を絡みつかせていた――
指が、疼くぜ……。
「おい、何時まで突っ立ってるつもりなんだ」
瑛のとんがった声で我に返った。まごついた。
「――俺は、ガキんちょじゃない」
「でも結果的に、そうなるんじゃないかな」
言い当てられて逆に気分が落ちつく。さすが、よく見ていやがる。苦笑するしかない。
「……ふふん。行こうか」
そしてようやく、俺らは駅舎の中へと入ったのだ。