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煙丸 中吉の一日  作者: やおたかき
33/33

結末

 ふふん、なんてな……。


 俺がそんなバカなまねするわけないだろう。

 俺は、宇宙を見上げた。

 興り高ぶった心を、冷却してくれる荘厳さが、そこにあった。


 初夏だった。


 二人の、記念の夜だった。


 これに相応しい一本を選ぶことこそ、俺と瑛、二人の今後の幸せに、つながるというものであろうさ。

 風が吹いた。やわらかな、心地よい風であった。

 それは清流、多摩川からの風なのかもしれなかった。

 川に屋形船を浮かべ、柳を愛で、鮎でも食いたいものだ。

 ゆらり揺られて眠りに誘われたら、そのときこそ、瑛の膝枕でも、所望したらよろしかろう。

 そしてチェック柄のズボンの布地越しに匂いたつ、白くすべらかなその、透明な、泡のような夢を見るのさ。


 俺は、瑛に顔を戻した。

 真摯に見つめあう。

 そして俺は――

 ついにその一本を、呼称したのであった。

 この夜、このときに――

 瑛に捧げる、最高に相応しい、(みやび)なる“銘”の一本を、であった。


「瑛に求める。銘、“霞姫(かすみひめ)”……」


 とたん。


 バッチィィィィィンンンンンン……。


 ビンタ張られた。――え?


 なにが起こったの?


 え、え、え――?


 見ると、瑛が、怒りの三角マナコになっている。


「――ヒドイ!」

 激高し言葉を吐き捨てた。

「君って、僕の体を、そんなふうにしたかったんだ!」


 え?


「あの――?」

「知らない!」

 言い捨てると、くるりと背中を向け、カツカツと車に戻っていく。

 一度こっち見ると、

 あっかんべー

 した。


 車に乗り込んだ。

 エンジンがかかった。

 走り去っていく。無情にも。


「おい、おい、これで――」終わりかよ?


 終わりだよ。





 < 了 >

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