結末
ふふん、なんてな……。
俺がそんなバカなまねするわけないだろう。
俺は、宇宙を見上げた。
興り高ぶった心を、冷却してくれる荘厳さが、そこにあった。
初夏だった。
二人の、記念の夜だった。
これに相応しい一本を選ぶことこそ、俺と瑛、二人の今後の幸せに、つながるというものであろうさ。
風が吹いた。やわらかな、心地よい風であった。
それは清流、多摩川からの風なのかもしれなかった。
川に屋形船を浮かべ、柳を愛で、鮎でも食いたいものだ。
ゆらり揺られて眠りに誘われたら、そのときこそ、瑛の膝枕でも、所望したらよろしかろう。
そしてチェック柄のズボンの布地越しに匂いたつ、白くすべらかなその、透明な、泡のような夢を見るのさ。
俺は、瑛に顔を戻した。
真摯に見つめあう。
そして俺は――
ついにその一本を、呼称したのであった。
この夜、このときに――
瑛に捧げる、最高に相応しい、雅なる“銘”の一本を、であった。
「瑛に求める。銘、“霞姫”……」
とたん。
バッチィィィィィンンンンンン……。
ビンタ張られた。――え?
なにが起こったの?
え、え、え――?
見ると、瑛が、怒りの三角マナコになっている。
「――ヒドイ!」
激高し言葉を吐き捨てた。
「君って、僕の体を、そんなふうにしたかったんだ!」
え?
「あの――?」
「知らない!」
言い捨てると、くるりと背中を向け、カツカツと車に戻っていく。
一度こっち見ると、
あっかんべー
した。
車に乗り込んだ。
エンジンがかかった。
走り去っていく。無情にも。
「おい、おい、これで――」終わりかよ?
終わりだよ。
< 了 >




