君は煙丸
やがて――
クックック、という堪え忍ぶ笑い声がし、ついには、負けたとばかりに大っぴらになった。
「――いや、なかよし! さすがだ」
涙をにじませている。そして――
さすがだ、の説明はなく。
瑛は、すべての理屈を、いきなり跳躍してみせたのだった。
「なかよし、君は、JLFではない!」
今度はこちらが「……」
「何故なら、君は、“煙丸”だからだ」
「……」
瑛の弁舌が始まった。
「JLF構成員とはな、なかよし。JLFじたいの余りのバカらしさ、愚かさ、病的なまでのしつこさに、心が負けてしまった者たちのことを、そう言うんだ。気の毒にも、暗黒面に堕ちてしまった者たちのことなのだ」
「……」
「それまでボリューム豊かな心の持ち主だった善良なる人間が、彼奴らに触れた結果、その愚かさに精神を蝕まれ、板のようにやせ細り、ちょっと叩かれただけでカンカン音をたてるようになる。逆に彼奴らがなくては心の板が、静まらぬ状態にまでなってしまった病人なのだ」
「……」
「仮に世の中が、病人だらけになってしまったら、いったいこの国の文化はどうなってしまうと思う? それが、JLFの手口だ。乗ってはいけない」
「……」
「なかよし、君は、違う。君には、夢がある。夢があるゆえをもって、違うと言い切れる」
「……」
「極論すれば、夢がある者は、強いんだ。他を顧みることをしない。自分がやっていることが一番楽しく、自分が作っているものが、一番面白いからだ。
彼らが一つアイデアを思いついたら、さぁ大変だ!
そのアイデアを形にするために、全てを犠牲にする。夜更かしし、早起きし、ご飯を削り、全ての時間を投入する。
そうして拵えたら、次には、せっかくのソレを、世間にお披露目したくなって仕方なくなる。規模の大小は問わずして、ね。
いいかい、そんな彼らが、人間社会に、世の中にただ一つ望むことは――」
瑛はこちらに皮肉の笑みを向けた。
「――社会の安定、平和なのさ。少なくとも、自分の夢を実現させる期間だけでも、平和であってくれと望む。平和とは、なんて、エゴイスティックなものであることか、ハハハ……」
「……」
「ゆえに、君は、“煙丸”なのだよ」
俺は、わざと、顔を外に向けた。
「……俺の“夢”って、なんだっけ」
とたん。瑛も顔を伏せた。お互いに、顔色は隠されて。
か細く。
「……それは、大きな“夢”さ」
とだけ、声が聞こえた。