朝の駅前
とはいうものの。刷毛山駅前終点でバスから下りると、さすがに首都市街地、賑やかな人出だった。俺らはこれから通学列車に乗らんとならんのだが、気分の高揚で、しばし足が止まってしまうほどに。
駅舎までのコンコース。やぁ、やぁ……!
通勤、通学の、人、人、人――
この時間、商店のシャッターを開けて働き出す人たちも大勢いる。商品、荷物の持ち運び、列車、車、バイク、自転車の流れ。五月の青空に吹き上がる音、音、音。だれかれ関係なく呼び交わされる、おはようの挨拶――!
何千人だろうか、ひょっとして万に届くのか。皆、明日を信じて力強く歩を進めていて、その全体像には圧倒させられる。
明るく、たくましさを感じさせる光景。
そして香しさ。
そんな華やかな感覚をも認めてしまうのは、人の量的な大きさだけが要因ではなかった。質、それは中身、すなわち、性別の違いからくる感受性の違いというもので、ようは俺が男だからだ。異性から醸し出される空気を俺は感じとっているのだった。
圧倒的に――女性が多いのだ。
比率で、男1に対して、女10以上である。
多くは語るまい。一言、戦争のせいだといっておく。ふふん。
ふふん。俺は歩み始めた。ふふん。
コンコース中央に、俺は積極的に意識を向けた。
ちょうどいい。ここで是非とも語っておきたいものが、そこにあるし。
歩くにつれ近づいてくる。それは、ある一家の、銅像群だった。
では話そう。
『おナベさん』
である。