風呂上り
三島本邸玄関口に横付けされた鯨リムジンに、強く勧められて、後部座席の右側から乗り込む。とそこには――
制服ブレザー姿の瑛が、本革シートにふわりと身を預けて、待機していたのだった。
「おお……?」
さすがに驚いた。いったいどうした。
瑛はちょっと困ったような、そうでもないような、微妙な顔を見せたのだが、すぐに言い訳した。
「父が大変な世話になったと聞いたぞ。父の子としては、最大限の謝意を示さねばならぬ。この制服は、学生たる身分の未成年者にとっては、まさしく正装のほかならん。その礼をもって応えたいのだ。不躾かと思ったが、せめて君のご住居まで、お送りさせてくれたまえ」
それはそれは――
「かたじけなく……」
俺だって少しは鼻が利く。ホントにいい匂いなのだ。
瑛のヤツは、念入りに風呂を使ったあと、まったく新品の制服、まっさらな衣服に着替えている。気配り、というのか、そこまでしてくれてることに対して俺はもう、なんだか感激してしまったのだった。
遠慮なく、瑛の隣に身を沈める。今宵の俺は、最高に幸せ者だろう。
「では――」
白川執事操る、鯨リムジンによる、しばしの車行旅行が始まった。
車は国道から逸れ、多摩川沿いの快走路に入った。川を左に遡上する。目を向けると、初夏の月光に川面が照らされ、見渡す限りの一面が、さざ波に銀に輝いていた。ほどなく、河川敷に生える柳の一列の、その新緑の柔らかなシルエットが浮かびあがった。一本一本、車内に影を差し込み、流れていく。
もうすぐ鮎の季節だろう。俺は無音の車内に、川縁の音と、心地よい川風を感じたのだった。
瑛が頭を肩に乗せるように、ぴったりと身を寄せた。柔らかな感触とともに、すぐに瑛のいい匂いに身が包まれる。これに比べたら、アンチEBフィールドなんて、まるで子供だましだ。
「舟遊びもいいだろうね……」息づかいがすぐそばでしている。
「うん……」
俺は少しの逡巡ののち、瑛の太ももの上に、手を置いた。少し、なでてみる。
拒まれなかったことに勇気を得て、もう少し大胆に動かした。腰回りに、内ももに。――ほどなく。
それが制服ズボンの布地だけであることに気づいた瞬間だった。手に、瑛の手が重ねられた。ひんやりと、柔らかく。
俺は、無遠慮に指を動かし、無抵抗の指を好きなように弄び、絡めて、握る。そして、二度と離さなかった。
瑛もまた、体を密着させたまま、二度と離れようとはしなかった。
車は、市道に入っていく。