表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
煙丸 中吉の一日  作者: やおたかき
28/33

風呂上り

 三島本邸玄関口に横付けされた鯨リムジンに、強く勧められて、後部座席の右側から乗り込む。とそこには――

 制服ブレザー姿の瑛が、本革シートにふわりと身を預けて、待機していたのだった。

「おお……?」

 さすがに驚いた。いったいどうした。

 瑛はちょっと困ったような、そうでもないような、微妙な顔を見せたのだが、すぐに言い訳した。

「父が大変な世話になったと聞いたぞ。父の子としては、最大限の謝意を示さねばならぬ。この制服は、学生たる身分の未成年者にとっては、まさしく正装のほかならん。その礼をもって応えたいのだ。不躾かと思ったが、せめて君のご住居まで、お送りさせてくれたまえ」

 それはそれは――

「かたじけなく……」

 俺だって少しは鼻が利く。ホントにいい匂いなのだ。

 瑛のヤツは、念入りに風呂を使ったあと、まったく新品の制服、まっさらな衣服に着替えている。気配り、というのか、そこまでしてくれてることに対して俺はもう、なんだか感激してしまったのだった。

 遠慮なく、瑛の隣に身を沈める。今宵の俺は、最高に幸せ者だろう。

「では――」

 白川執事操る、鯨リムジンによる、しばしの車行旅行が始まった。


 車は国道から逸れ、多摩川沿いの快走路に入った。川を左に遡上する。目を向けると、初夏の月光に川面が照らされ、見渡す限りの一面が、さざ波に銀に輝いていた。ほどなく、河川敷に生える柳の一列の、その新緑の柔らかなシルエットが浮かびあがった。一本一本、車内に影を差し込み、流れていく。

 もうすぐ鮎の季節だろう。俺は無音の車内に、川縁の音と、心地よい川風を感じたのだった。

 瑛が頭を肩に乗せるように、ぴったりと身を寄せた。柔らかな感触とともに、すぐに瑛のいい匂いに身が包まれる。これに比べたら、アンチEBフィールドなんて、まるで子供だましだ。

「舟遊びもいいだろうね……」息づかいがすぐそばでしている。

「うん……」

 俺は少しの逡巡ののち、瑛の太ももの上に、手を置いた。少し、なでてみる。

 拒まれなかったことに勇気を得て、もう少し大胆に動かした。腰回りに、内ももに。――ほどなく。

 それが制服ズボンの布地だけであることに気づいた瞬間だった。手に、瑛の手が重ねられた。ひんやりと、柔らかく。

 俺は、無遠慮に指を動かし、無抵抗の指を好きなように弄び、絡めて、握る。そして、二度と離さなかった。

 瑛もまた、体を密着させたまま、二度と離れようとはしなかった。


 車は、市道に入っていく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ