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煙丸 中吉の一日  作者: やおたかき
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部活動

 会長の仕事つったって、三女子が整えた紙の書類に、古式豊かに、朱色の(いん)をスタンプするだけだ。

 それで肩がこる、と主張するんだから恐れ入る。ふざけんな、といいたいところだが、まぁ、相手は金主だし、まぁ、その、瑛くんだし……いいんじゃない?

 いい遅れたが、部屋にはこのためにわざわざ用意された寝台があって、そこに瑛はうつ伏せに寝そべった。制服ブレザーとチェック柄ズボンはそのままにだ。かろうじて、革靴だけは脱いだ。靴下はブランド物──男子高校生仕様──の白ソックスである。ホント――

 コイツだけはホント、絶対脱がないのだ。コイツ以外は巨乳教師までもが喜び露わに背中ハダカになるってのに、俺の腕の保証をした当の本人が、肌に触れさせない。見せない。上着すら脱がない。ずいぶんと人をナメた話なんだが、見方を変えれば、瑛相手に、こちらも気が楽というものかもしれん。俺はさっそく施術にかかった。

 頭の天頂から、下方にツボを押していく。数少ない、直に肌にタッチできる部位だから、また、首筋は重要部位だから、丁寧に施した。どちらも無言だ。瑛の白い、ひんやりとした、なめらかな肌。その、極上の張りと弾力。しっとりとした黒い髪の毛。いい匂い。自分とエライこと体が違う。神様はえこひいきしてるよ、などと、漠と考えながら、手を進めた。

 首筋から肩へ。()りというのは、筋肉硬化による局所的な循環障害のことだ。マッサージするときは、具体的に、肉体の中にビー玉をイメージする。凝りは、だいたいそのくらいの大きさなのだ。そのビー玉を揉みほぐすよう意識してやるのが、術のコツである。衣服の上からだとさすがにわからないが……というか、凝ってるのかさえ怪しいんだが、もう、勘と経験とやけくそだった。

 背中、肩胛骨、そして背骨を下方へと、手を進める。脇腹をくすぐって大笑いさせてみたい欲求にかられたが、がまんした。腰を一通り指圧したあと、両腕に取りかかった。上腕、前腕(ぜんわん)、間あいだにストレッチを取り入れて。そして手のひら。ほっそりした手だなぁと感じながら、芸術品たる指の一本一本を、丁寧に。

 腰から下に取りかかる。大臀筋を思い切って鷲づかみにする。ズボンと(下着)パンツの感触。なんと大きな丸い尻であることよ。容赦なく揉みほぐす。いうが、ここは効くんだぞ。一度信頼できるマッサージ店でやってもらったらいい。普段、どんなに尻の筋肉を酷使していたか一発で理解できるから。

 特別に時間かけてケツを大いに揉みまくる。ふふん、あくまで、本人のためだ、そのためだ。このころになると、瑛は「はうん」とか「うふん」とか、「あ……あ……」とか、せつない甘い吐息を漏らすようになっている。ふふん、どんなに泣き叫ぼうが、外には音は聞こえんのさ。そんなバカなことを考えないとやってられない。本人は自覚ないんだろうけど、エロい艶声を耳に入れ込まれる立場のこっちは、正直、ちょっち、たまらん。

 それは三女子も同様のようで、さりげなく盗み見ると、どちら様も顔まっ赤にさせている。

 でも、彼女ら三人は、聞き耳たてても許されると思う。そんな事情があるからだ。

 瑛に原因があることなのだ。

 四月の始め。

 入学と同時に会長に就任した瑛は、間違いなく実力のある三女子をいきなり従えることになったわけだ。だが、さすがの瑛も、生徒会運営の経験豊かなベテラン勢を前にして――若い、精神的なプレッシャーを感じてしまった――のだろうと、俺は推測する。

 それで、今の瑛らしからぬ、一つの、決して取り返しのきかないミスをやらかしてしまったのだ。

 彼我の身分差を誇示してしまった。君主として、三島グループの統治者として、その絶対的権力を、立場的弱者に、叩き付けてしまったのだった。

 鍼灸部発足当時。

 この場で、瑛は。俺の目の前で、瑛は。三人の先輩美才女に向かって、「パンツ一枚の裸になれ」と居丈高(いたけだか)に命じてしまったのだ。

 三人は、顔を青ざめさせつつも、見事なまでに、即座に命に従った。

 そして一人ずつ。中世を模したこの部屋の中で、この寝台の上で――俺も悪かった、俺も悪かった――頭の中が桃色パニックに襲われて自制の効かなくなったこの俺のテクニックによって――逃れられない絶頂天国を味わわされてしまった、というわけである。

 もちろん、俺も同罪である。もっと罪が重いかもしれん。なぜ、瑛の暴走を止められなかったのか。なぜ、手加減できなかったのか。高嶺の花、気品のある生徒会役員、えらい先輩。そんな三年女子のハダカを目にして、嗜虐心が疼いたのは言い逃れのできない事実だ。

 己の身を流れる、血が狂ったとしかいいようがない。

 ――!

 いま、俺は。この部屋で、この立場で。いったいどのようにすれば、贖罪できるのか。

 愚者ではあるけど、愚か者なりに考えているしだいだ。

「……」俺、無言。

 ところでだ。

 以降、この三人が俺のマッサージを受ける時は、パンツ一枚が掟となってしまった。

 このごろは、亜理絵も菜伊都もそして由生香も、なぜかパンツがハデハデになってるのが、目立った変化といえば変化だ。どんな心境の変化があったのか、計るに恐いものがある。


 瑛へのマッサージは、脚、ふくらはぎ、足つぼへと移動し、無事終了した。

 時間よし。これで、今日の学校行事は、すべて終わりである。

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