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煙丸 中吉の一日  作者: やおたかき
20/33

特別生徒会長室

 校舎最上階、五階の、広い区画を占拠してんのが、かの部屋である。

 見上げると、ここだけ安っぽいプラ板のネームプレート。素っ気なく『特別生徒会長室』と記されている。

 目を戻すと、扉戸は重厚な高級木材。そして金ノブである。

「……」

 ここで構造を明かしてしまうのもどうかと思われるが、かえって賊を萎えさせる効果もあることだろうし、説明しておきたい。

 30センチ以上ある分厚いドアや壁は、内部が防音防火材のうえ、防爆特殊合金プレートが仕込まれている。

 室内には食料庫、水、トイレ、空気洗浄機、武器、治療薬、電力源などが独立して設置されており、エマージェンシールームとしても機能する。

 この部屋の主は、言わずもがなだ。ふふん。俺はセンサーをノックし、カメラ認証ののち、解除されたドアを開いた。

 外音シャットアウト。中はアナクロニズムである。足首まで埋まる絨毯。高級家財。観葉植物。壁には一号ナンボの油絵が掛かっている。にわかには信じられない高さの天井に、最新式の、だが古風な、吊り下げ型照明器。正面奥、中世時代ふうの飾り窓を背景に、飴色の重厚なキングサイズのデスクが鎮座して。緋色の背もたれ玉座に、三島銭右衛門。さらさら髪の毛、肌はひんやり白く、高潔な、我らの君主、(あきら)くん……という配置ぐあいだった。

「アイム、ヒヤー」

「ふむ、大義」

 そう──

 帝王学を学ぶため、こいつは――

 入学したその瞬間から、約束されていた、生徒会長様なのであった。


 その会長デスクの前に、事務だが最新高級机がほどよく配置されており、役員の三人の女子の皆様が、タブレットを見比べたり、キーボードを叩いたりなさっている。

 俺はいつも思うのだが、この部屋――

 維持が大変だろ? 

 掃除機(VC)一つ掛けるのだって苦労するはずだし。いっそのこと、三女子の皆さんの服装を、ここだけ限定でメイド服にしたらいいんだ、と妄想する。

「それはいいかもな」

 と瑛が皮肉な口調で言葉にし、勘するどく察したお三方に睨み付けられた。いやいやいや、くわばらの2乗だ。ホント、彼女らが(するど)すぎるのか、たんに俺が顔に出しやすいのか。とにかく妄想は自重しよう。

 とりあえずお三方は、入室者が俺だということで、起立、プラス会釈で迎えてくれた。

「ごきげんよう、ちゅうきち君♪」どうもどうも。

 藤原亜理絵(ふじわらのありえ)。腰までのストレートヘア、眼鏡の副会長。りりしい美人三年生である。学年的にも、器量的にも、瑛が入学しなかったら会長になっていたはずの逸材である。付け加えると、なかなかの巨乳の持ち主。

「ハーイ、チュー」俺はネズミか。

 北条菜伊都(ほうじょうないと)。ショートカットの明るいスポーツ少女だ。書記で、同じく三年生。筋肉質で、この中では体質的にもっとも興味がある人材だ。

「チューキチ、にゃんにゃーん」ええと……。

 伊達由生香(だてゆうか)。子猫のようなふわふわ会計三年女子。こういうのをロリっ娘というのか? 金勘定まかせて大丈夫か? とりあえず体はやっこい。

 この三人以外にも、二年以下の予備役的人員がいるんだが、彼女らは別棟の、ここよりかは効率的な部屋で、実務にいそしんでいるはずである。

 というか、瑛が入学したから、この部屋が開封された、ということだ。

 その主が命じた。

「じゃあ、なかよし、やってもらおうか」

 やって差し上げましょうよ。

 マッサージだ。

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