放課後
このMZ学園にも、よその学校同様に部活があり、そのうちのいくつかはインターハイなどの公式戦に参加している。
運動部、それも球技部だけみても、野球、蹴球、籠球、庭球、排球、卓球と、一通りできる環境がそろってんだが、ここでクエスチョン。俺は、なに部でしょう。
さっそく答です。
鍼灸部でした、ふふん、だ。
それも、半強制的なもの。
いや、ふて腐れているわけではない。
全校で男子総勢60人余。その彼らに一番人気なのがサッカーなのである。だって、なにより、ボールと地面があれば即ゲームができる点がいい。ほかは、準備が大変だからな。昔おおいに流行ったというベースボールは、特殊用具の他、ルールが複雑だしで、現在この学校ではチームはない。用具の“グローブ”と“ボール”だけが細々と、昼休み時間にキャッチボールで利用されるのが精々のことだ。
というわけで、男子に限っていえば、半分がサッカー。残りの半分を陸上部と武道が分け合い、余りが文化部の方、将棋とか美術とかに回った。
俺も最初はサッカーやりたかったんだが、直接的には瑛から、つまりは三島側から、ようするにパトロンから懇請の形で意見されて、希望を諦めた。
俺んち、平家の出納の問題なんだ。現状、お袋がパート職しているが、メインは三島家からの援助なんだ。そのお金は、俺の鍼灸術の施術料として支払われていた。つまり――
俺はこの学校で、営業しているんであるんだな。
あくまで部活動、つまり部費の形で振り込まれる。
私立だから、三島の領域内だからできることで、ちょっとこれは公然の秘密だ。
俺もまさか未成年無免許で針打ち家業ができるとは思わなかった。このことで何よりでかいのが、技術を磨くことができるという点で、この甘言に俺は他愛なく転んでしまったのだ。
考えてみりゃ、運動部の連中の、陰からのサポーター役も、いいもんだし、な。
部長、俺。部員、俺。上等である。
顧問は山崎久美。めっちゃいいじゃん。
部室は、施術のつごう上、保健室を使わせてもらってる。そこの保険医女子が、名目上の監督である。ボブカットの22歳、白衣膨らむ巨乳で、このお方もなかなか得がたい美人さんである。
「……」
恐らくだが、瑛の意向が大きく反映されている。
男は縦社会が好きだ。もし、男性教諭が顧問だったらどうなっていただろう。また、普通の部活で、男部員と先輩後輩の間柄になってしまったら? 瑛は、自分以外にも、俺をコントロールする系列ができてしまう可能性を、排除したかったのであろう。
世界的天才ではあったが職員室では立場が一番下の山崎久美が、1-Aクラス担任に指名されたのも同じ理由による。
さて部活動。
最初は閑古鳥の巣だった。
当たり前だ! 運動部のみんなは真剣にやってる。彼らから見て、得体の知れぬアマチュアに、大事な筋肉をいじらせてくれるわけない。
そこで働いてくれたのがまたしても瑛で、こいつが俺の腕の保証と、万一のときの全面的な補償を公言してくれたから、やっとお客がついた。陸上短距離ランナーだった。完璧に治した。そこから評判が広がり、一週間もたたんうちに、客数は累乗的に増加した。今ではもう、“名医”との評価を頂き、認知されている。
またここでも男女比率1:10以上という“競争原理”が働き、積極的に、俺にもっとやってもらいたいとアピールするファンも増えたのだった。
というわけで――
そろそろ気になっているであろう点を、ここで明らかにする。お客のメインは女子です。運動部のほか、文化部でも筋肉を使うし、つまり俺は、一~三年全校の、めぼしい彼女らの、背中ハダカを目にして、手にしている、ということだ。
お断りするが、施術時は、監督の女保険医、海原翔子が立ち会っている。監督が不都合なときは、顧問の山崎久美、もしくは瑛本人が立ち会う。ここ保健室に淫靡な空気は発生しない。さらに、前にも話したと思うが、俺は親父に鍛えられたガキんちょのころから、うつ伏せハダカていどは慣れっこなのだ。逆にこんな環境だから、男子患者のケースの方が、お互いに気恥ずかしかったりする。
現実はそんなもんだ。
ま……。
当初は技術力の証明のため、信頼されたのちは純粋に依頼として、久美と翔子それぞれにも何回か、マッサージを施したことあるけど。どちらもはみ出す巨乳。このときは内心、ドキドキしてたことを白状しよう。
――なんて、“思い出しドキドキ”なんかに耽ってたのがバレたのか?
いきなりスマホがビビり、俺は咳き込んだのだった。オカルトだね、と翔子がにやついたんだが、こっちは寿命が縮む思いだ。勘がよすぎる。
見ると、やはり呼び出しだった。場所は、特別な方の生徒会室だ。